食事会議
「ふ~む、だが仮にもガンドロスを倒したというのなら、ここで戦うわけにもいかんな。……おい、君」
「は、はい。何でしょうか?」
「今日は、パーティで訓練場は誰も使う予定がなかったな」
「はい、そうですけど」
「なら、予定を入れておいてくれ。あとで使う」
「え、分かりました。書いときます」
ドレス姿の女性が、そう言われて会場を出ていった。お城の事務員の方だったんだろうか?
「ああ、あとその戦闘は非公開でお願いします。関係者以外立ち入り禁止で」
「ぬ」
「シアさん」
ドレス姿のシアが歩いてきた。だが、その腰には剣を携えている。一見すると危ない人だな。似合ってるけど。
「この青年に対する、気遣いか?」
「まぁ、そうともいえますね。あと、彼に目をつけたのは私が先なんで」
「ほぉ~、身体能力はそれほど高いということか」
「……ガーノさん、仮にも筆頭魔術師なんですから、負けたなんて話が流れても困りますからね。そう言う意味でも、非公開にしときましょう」
「ふっ、ありえん」
「どうですかね……」
シアが、俺に意味ありげな視線を送る。……まさか、知ってるのか。良くよく考えれば、ライオルさんの家族だもんな。一体化の話を聞いていてもおかしくはない。まぁ、知らないかもしれないから、俺からは言わないけど。
「さて、それはそうとパーティが始まりますよ。今は、楽しみましょう。ほらほらガーノさん。あっちで挨拶のお仕事がありますよ」
「むっ、あまり孫娘に馴れ馴れしくするなよ」
「……」
もう、色々と遅いんだよなぁ、そのセリフ。
「さてさて、バルトシュルツ夫妻、ノービスさん。ちょっと、お子さんをお借りしますね」
「あ、はい」
「アリー、気をつけるんだよ」
何に気をつけるというのか? 俺か、俺にか? まぁ、そう思いながらシアの手招きする方についていく。パーティ会場を抜け、少し歩いた先の別の部屋へと俺たちは移動した。
「はーい、お腹が減ると思って、料理もこっちに運んでもらいました。さぁ、食べよう二人共」
「え」
「……はぁ。まぁ、食べましょうか、ベイ」
部屋に入ると、大きなテーブルに高級そうなコース料理が3人分並べられていた。俺とアリーは隣同士に、シアはその向かい側に座る。
「ふふ~ん、ああいう形式もいいけど、やっぱご飯は落ち着いて食べたいよねぇ。いただきます!!」
(ガチで嬉しそうに食べてるなぁ、この人)
「うん、おいしいわね。あそこに並んでたものよりも、考えられたコース料理って所がいいわね」
「うんうん、2人のために特別発注したんだよ。ああ、段取り組んどいてよかった。おいしい!!」
重要な話をしにきたのでは? まぁ、いいか。俺も食べよう。……うん、美味い。いい肉だ。
「……ところで、お仲間は決まった?」
「……ヒイラ・スペリオ。サラサ・エジェリン。レラ・サルバノ。ロデ・マルシア。ニーナ・シュテルン。以上の5名は確定で連れて行くわ」
「わーお、すっごい私好みの編成だね。7英雄勢揃いって訳だ」
「末裔だけどね」
シアじゃないけど、かつての英雄の子孫勢揃いというのは、なんだかロマンがある響きだよな。世界ぐらい救えそう。
「そして、そこに加わる新たなる英雄・アルフェルトって訳だね」
「大げさですよ」
「いやいや、そんなこと無いって。……久しぶりにあったけど、また強くなったでしょ。お姉さん、そういう所敏感だからさ。大げさじゃない、大げさじゃない」
「はぁ……」
そういった後、シアは赤い色の液体を飲み干す。ワイン? しかも、一気飲み。大事な話し合いの場で? 破天荒な人だなぁ。
「ぷはぁ~!!最高!!……いくらか調べてさ、ある程度情報は絞れたよ」
「どこまで?」
「不穏な動きのある都市が見つかってね。リングルスター。そこの商業区なんだけど。大規模な魔法陣が形成されている痕跡が確認できた。ただ、そこだけじゃなくて、周りの小さな町にもポツポツと同じような反応がある。でも、一番隠したがってたのこの町みたいだったから、まずここで良いと思う」
「破壊工作はしないの?」
「まぁ、壊したら気づかれたと思って、犯人が逃げるだけだろうねぇ。そして、別の町で同じことをすると」
「犯人を捕まえてからじゃないと、意味が無いってわけ」
「そういうこと。でね、張り込んだんだよ。何かおかしなこと、しに来るやついないかなぁ~って。そしたらさ~」
「そしたら?」
「だ~~~~れも来ないんだよ。誰も。おかしくない?まぁ、今でも張り込んで引き続き調査してるけど、なんにも動きがない。おかしいよね?」
ということは、魔法陣はすでに完成しているということか? なら、何故魔法を使っていない? 待つ必要が、何処かにあるのか?
「……その魔法陣、解析してあるんでしょうね?」
「勿論。解析結果は転移魔法だったよ。空間に穴を開けて、もう一方の対象のいる空間につなげる魔法。ようは、召喚魔法だね。ただね、莫大な魔力がいるらしくて、それをどうするのか?」
「魔力の準備を、してるってわけ……」
「その可能性が高いね。でも、到底今の魔法学では集められないような魔力らしくて。ほんと、どうする気なんだろうね?」
「無駄に、賢いかもしれないアホってわけ」
「そういうこと」
そんなに多くの魔力がいるのか。で、そいつはその魔法を成功させると。……一体、何をしたんだ。ふと横を見ると、アリーが苦しそうにこめかみを押さえている。
「大丈夫か、アリー?」
「ええ、なんでもないわ。ちょっと、何か頭が……」
「うーん、料理に使ったお酒で酔ったとか?アリーちゃん、もしかして酔いやすい?」
いや、そんなわけ無いだろう。それだけで酔ったら、お酒に弱すぎる。というか、調理過程でアルコールは飛ぶんじゃないか? ともかく、回復魔法を使おう。俺は、アリーに初級回復魔法を使った。
「うーん、ふぅ……。気分が良くなったわ。ありがとう、ベイ」
「どう致しまして」
今の反応、かなり普通だった。ということは、結構な痛みだったということか。回復魔法、覚えててよかった。変なやつだけど。
「さて、名前が上がった人達については、色々と手を回しておくね。増えそうだったら、また後で手紙でも頂戴。すぐ準備するから」
「分かったわ」
「さて……」
シアが、食べ終わったようだ。早!! 俺達が少し喋っている間に、もう食べたのか。しかも、変に音も立てず。……やるなぁ。やるわぁ。
「私は、また情報集めに戻らないと。今日は、来てくれてありがとう、二人共。またね」
「ベイの試合は、見ていかないの?」
「ああ、見たいけど、色々とねぇ……。私も、仕事を4つ、5つ同時に抱えててさぁ」
だるそうに、扉に向かってシアは進む。そこで、ピタッと止まって振り向いた。
「勇者・ゲインハルト。攻撃魔法使い・スペリオ。召喚魔法使い・バルトシュルツ。大剣士・エジェリン。双剣使い・サルバノ。アイテム使い・マルシア。回復魔法使い・シュテルン。今まではこうだった」
そう言いながら、シアは俺に視線を向ける。
「そういう風に言うと、ベイ君は何に当てはまるのかなぁ? 鎧使い? いや、強化魔法使いかな?」
「……」
「まぁ、頼むよ。新しい英雄さん」
そう言うと、シアは部屋を出ていった。ライオルさん、喋ってるじゃないですか。まぁ、ライオルさんは、嘘が苦手だって言ってたからな。仕方ないか。
「あいつもアホね。ベイは、私の夫なんだもの。なら、決まってるわよね、皆?」
(はい、マスターはこの世で最高の!!)
(召喚魔法使いですよ!!)
(違いない)
そう、俺は強化魔法使いでも、鎧使いでもない。召喚魔法使い・ベイ・アルフェルト。胸の中に感じる愛する彼女達こそが、俺の魔法使いとしての誇り。まぁ、どんなやつが相手でも蹴散らしてみせるさ。俺達の幸せを、邪魔するのならな。