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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第二章・八部 超英雄
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超天才魔法使いアリーさん 3

 それは、何時の日のことだっただろうか。今でも、鮮明に記憶には残っている。お兄様に、自分で魔法を作るほうが楽しいぞ、と言われたのがきっかけだった。自分で魔法を作る? それは、それまで本を読んでいた私にはなかった発想だった。なるほど。有る物より素晴らしいものを作る。その発想は素晴らしいかもしれない。まぁ、そう言ったその時の兄の魔法は、それほど大したものではなかったが……。


「ウインドボア……」


 アルフェルト家にやってきた魔物。おそらく、こいつのことだろう。図鑑の情報を見る限り、どうやら風魔法を身体から放ち、巨体でありながら高速移動をするらしい。


「……出来そうね」


 思えば、これが私の初めてのオリジナルの魔法だったのかもしれない。風魔法を限界まで調整して、高速で動くことを可能にした私の魔法。それこそが、今の私が存在している原点だと言っても良いと思う。まぁ、この時は、あんな苦労をするとは思っていなかったのだけど。


「風属性中級迷宮ねぇ……」


 あれよね。人って、同じことばかりしていると飽きたり、煮詰まったりするのよ。その時の私の一言がこれ。もう動かない的相手に、魔法を撃つことに意味を見いだせなくなってきた頃の私の発言ね。しかもこの時、すでに私は風魔法での高速移動を可能にしていたの。そりゃあ、行くってもんよね。実際に行ったし。


「弱っ……」


 中級程度じゃあねぇ、魔法を主力にしていた私には楽勝過ぎたのよ。ゴーレムだろうと、大きな蜘蛛だろうと、魔法の力押しで十分だった。そういえば、あの時は小高い丘で休んだのだけれど、レムが居なかったわね。まぁ、ベイが居ないのに、フィー達がいるわけもないか。ミズキの、手配の張り紙も見たことなかったし。そこからしばらくは、普通の生活が続いたわ。研究をして日々が明けて、そして、いつの間にか学校に通うようになっていた。まぁ、サイフェルムが魔王軍の襲撃を受けたとかあったけど、私の知り合いは全員無事だったし、そこはまぁ、いいでしょう。そして、私は……。


「に、ニーナ……」


 あの事件に出会った。今でも覚えている。私が救えなかった友人の名前を。気づいた時にはもう彼女はおらず、彼女であったものは何も残っていなかった。酷かった、本当に酷かった。


「あ、あああああああああああああーーーー!!!!」


 そのとき、私は何をしたんだっけ? 気づいたら、治療院にいた。確か、最後の力を振り絞って、最大威力の魔法を適当に投げつけたような……。ともかく、どうやらそれでなんとかなっていたらしい。原因は不明だけど。


「……」


 起きた私はね、身体が震えて仕方がなかった。二、三日は、口もきけなかったほどに。あれを、見てしまったからなのよね。言わなくても分かると思う。死んでないのが、奇跡なくらいだと私は思った。おそらく、その時の相手に私を殺すほどの殺気を出す理由がなかったからだと思うんだけど、本当の理由は分からないわね。


「……」


 それから、私は狂ったように研究を始めた。ほぼ不眠不休で、魔法の研究のみを進めた。何故って? あんな化け物がいることを、身体で、心で知ってしまったからよ。そしてその結果、私の頭脳は必然的にこういう結論を出した。この星は、そう遠くないうちに滅ぶと……。


「そんなこと、絶対にさせない……」


 私は、必死になっていた。ニーナの顔が、その時は頭に残っていたと思う。やがて、それはカエラさんや、ノービスさん。私の家族や、友人であるヒイラを救いたいという気持ちになっていった。そのためなら、どんな魔法だってものにしてみせる。例え、この命を燃やしつくそうとも。そう思い、私は研究を進めた。だけど……。


「勝てる保証がない。いや、勝てる気がしない……」


 どんな魔法を探せど、作ろうと思えど、私の中での結論はこれだった。桁が違いすぎる。そう、私は感じていた。


「……だとするならば」


 時間を稼がなければならない。力を作るだけの時間を。では、どうやって? 簡単な話よ。時間が過ぎているのなら、戻せばいい。そう、私は思った。それが私の、その世界での最後の研究テーマとなった。


「……」


 でもね、いくら私が超天才だからって、人間なの。魔法なんて便利なものがあったとは言え、私も人間なの。時を巻き戻すなんて、はっきり言って出来るわけがないと思った。でも、これしかない。そう思ったのも事実だったのよね。だから、引き返せない研究を淡々と私は進めていた。1人でね……。そのとき。


「アリーちゃん……」


 ヒイラがやってきたの。私の数少ない友人が、私を訪ねてきた。でも、この時の私はこう思っていたのよ。役立たずが何のようだってね。実際、並の人間には、その時の私がやっていたことは意味が解らなかったと思う。そう、並の人間ならね。


「逆行、拡散、時間逆行化における記憶の保管方法。アリーちゃん、これって……」

「ヒイラ、あなた……」


 天才が、私の友人にも居たわけ。それこそ、私と並ぶほどの天才がね。タイトルも書いてない、意味不明な魔力の感覚を記述した紙だけを見て、良くそこまで分かったもんだと感心したわ。……そこから、私は1人ではなくなった。ヒイラも、私を信じて手伝ってくれた。私の滅亡論を何一つ否定せず、完全に信じ切ってくれた。まぁ、ヒイラなら私の研究に付き合おうが、付き合わなかろうが、国お抱えの魔法使いになれる器だったでしょうし、将来は安泰だったでしょうね。それこそ、私の予想が杞憂に終わっても。でもね、予想は的中してしまった。そうなってしまったのよ。


「じゃあ、魔法を使うわよ、ヒイラ」

「うん」

「……ヒイラ、最後に言っておきたいんだけど」

「何、アリーちゃん?」

「あなた、爆乳だったのね」

「え?」

「ローブ着込んでたから分からなかったけど、やっぱりその部分は……」

「アリーちゃん。最後にそういうこと言う必要ある?あるのかな?」

「ふっ、ごめんね」


 私は、軽く笑いながら魔法陣の上に立った。ヒイラが、穏やかな目でこちらを見ている。私は、もう一度友人の顔を頭に焼き付けた。


「じゃあ、救ってくるわね。この世界を、皆を」

「ううん、アリーちゃんは、もう救ったよ。私も、皆も。だって本当なら、もうこの先に未来なんて無いんだもん。それを伸ばした時点で、アリーちゃんは、一回私達を救ったようなもんだよ」

「でも、先延ばしにしただけだし……」

「それでも、十分すごいよ。私達のご先祖様が立ち向かえないぐらいの相手に対して、時間稼ぎをしているんだから。だから、アリーちゃんはもう英雄なんだと思う。皆を救った英雄。大魔法使いだと思うなぁ」

「それを言うならヒイラ、貴方もでしょう?私と、貴方で完成させた魔法なんだもの。私達、2人がその理屈なら英雄よ。でも、それだとご先祖様とかぶるわね。……ご先祖様より、強いやつを相手にして生き残るんだから。さしずめ、私達は超英雄ってとこかしら」

「ふふっ、なにそれ」

「良いわね、気に入ったわ。私達2人は、一度は世界を救った超英雄。悪くない肩書ね」

「アリーちゃんにそう言われるなら、私も、嬉しいかな」

「……」


 あの時、外はどうなっていただろう。まず最初に聞いたのは、あの周辺の地域が一気に死地とかしたという話だった。それから地が裂け、空が震え……。ここも、今は魔法で安定しているけれど、何時まで保つだろう……。


「アリーちゃんは、世界を救ったらどうするの?」

「気が早いわね。そういえば私達研究ばっかで、恋というものを経験してなかったわね。次は、そういうのをしてみるのも良いかも知れないわ」

「え、アリーちゃんらしくもない」

「私だって、穏やかな家庭に憧れてたりするのよ。悪い?」

「いや、なんか、意外というか……」

「お母様に聞いたんだけど、恋はどんな魔法よりも素晴らしいものらしいわ。そう聞いたら、経験してみたいじゃない」

「ああ~、それならアリーちゃんらしいかな」

「ヒイラにも、そんなことあるかもよ」

「え~、想像できないなぁ。私が好きになる男の人って誰だろう。……魔法が上手くて、優しくて」

「変なところも、許容してくれる男性ってところかしらね」

「そうそう、アリーちゃんを許容できるくらいの人じゃないと駄目かなぁ……。私の友人を、悪く言う人は嫌だしね」

「……それって、私を好きになってくれる人と同じってこと?」

「うん?ああ、そうだね。アリーちゃんの夫になる人だったら、私とも気が合うかも……、って、無いか」

「うーん、どうかしらねぇ」


 ガタガタと空間が震え始めている。そろそろ限界か……。


「……アリーちゃん、またね」

「……ええ。ヒイラ、また」


 とりとめのない話だった。なのに、涙が止まらない。何でだろう。ヒイラも私も、涙が止まらなかった。でも、立ち止まってはいられない。私は、魔法陣に魔力を流して仕掛けを動かす。すると外の風景が吹き飛び、私は、逆行する時間の中に居た。



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