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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第二章・八部 超英雄
297/632

超天才魔法使いアリーさん 2

*****


 その日、アリーはある噂を耳にした。街の端に住んでいる家の住人が、魔物に出くわしたという話だ。なんでもその家の住人は、自分の父と同じ王国づとめの魔法使いで、見事魔物を撃退したのだという。


「魔物かぁ」


 アリーは、興味深げにそう呟いた。すべての魔法を手に入れてみせると誓った彼女にとって、魔物とは興味深い研究資料であった。魔物の身体は、それそのものが殆ど魔力で構成されている。まさに、魔法技術の結晶とも言えるだろう。それが、幾つもの形を持ちながら、自然界には存在している。そんな存在に、アリーが興味を示さないはずがなかった。


「……行ってみようかな」


 そう何度も、同じところに魔物は出るはずがないとアリーは考えていた。この王国も、基本的には兵士達によって守られている。そのせいで、魔物とは簡単に出会えなくなっている。だが、そこに魔物が居た以上、来る可能性はあるということだ。どうせ居ないだろうなぁと、思いつつも。アリーは、その家の近くまで一応行ってみることにした。


「あれかしら」


 町の本当に端の方に、その家はあった。家の近くはすぐに森になっており、魔物が出たというのもうなずけるような立地だとアリーは思った。


「あそこの木、不自然に倒れてるわね。あそこから、魔物が来たのかしら」


 アリーは、その木に近づいて様子をうかがう。すると、後ろから声をかけられた。


「あらあら、どうしたの?」

「……いえ、ここらへんですか。魔物が出たという場所は?」

「ええ、そうよ。うちの夫が退治してくれたの。なんだか、豚みたいな魔物でね……」

「豚……」


 アリーは、なんだか想像していた感じの魔物像と違う印象の答えを投げかけられ、少し困惑した。そういうのもいるのか。自然とそう思ったアリーだが、それと同時に、自分の中にあまり魔物に関しての知識がないことに気づいた。アリーの家では、召喚魔法はかなり尊い魔法とされており、簡単に魔物関連の勉強をさせてもらえないからなのだが。アリーは、自分の勉強が足りてないからだなと、その場で考えを改めた。


「それって、もっと詳しく言うと、どんな感じの魔物だったんですか?」

「あら、興味があるの?それじゃあ、お茶でも飲みながらお話しましょうか」

「あ、いえ、お構いなく」

「いいの、いいの。さぁさぁ、我が家にいらっしゃい」

「は、はぁ……」


 普通なら、アリーはこの場面で絶対に誘いには乗らず、帰るところだっただろう。だがその日、初めて出会ったはずの大人の女性から、完全に良い人オーラが出ていたために、アリーは大きく断ることができなかった。その女性について行き、家の中に入る。すると、すぐにお菓子とお茶が出てきた。それらを出して、女性は丁寧に椅子に腰掛ける。アリーに対面の椅子に座るように促すと、ゆっくりと話し始めた。


「私の名前はカエラ。カエラ・アルフェルト。あなたは?」

「わ、私は、アリー・バルトシュルツと言います」

「バルトシュルツさん?夫の上司の方に、そんな方がいらっしゃったような?」

「ああ、多分あってると思います。私の父か、祖父だと思います」

「まぁ、そうなの。立派な家のお嬢さんなのね」

「い、いえ……、そんなことわ……」


 自己紹介も短めに、カエラは遭遇した魔物のことを答えてくれた。彼女の夫、ノービス・アルフェルトが家に帰宅した頃。近くの森から、大きな音が響き始めたのだという。その音は、ゆっくりとではあるがこの家に近づいてきていた。しばらく外で様子を見ていると、2人の目の前に、豚型の魔物が一匹飛び出してきたのだという。


「どのくらいの大きさでした?」

「そうね。夫の胸ぐらいはあったかしら。このぐらいの高さでね。後ろに大人一人分ぐらい余裕のある、まるまると太った大きな豚だったわ」

「かなり大きいですね」

「ええ。風魔法を使ってたみたいで、辺りの木や草を切り刻んでたみたい。一歩間違えてたら、危なかったわね」

「そんな体格なのに、魔法も使ってくるんですか?」

「そうなの。怖いわよね……」


 面白い。アリーはそう思っていた。豚が魔法を使うというだけで、面白いのにもかかわらず。木を切り刻むとなれば、その豚は中級クラスの魔法を使っていたということになる。高威力の魔法も使う、魔法生命体・魔物。アリーは、その神秘の入口に立ったようで、何処か嬉しく感じていた。


「……ふふっ、アリーちゃんは楽しそう。魔物に、興味があるのね」

「え、あ、そ、そんなことは……。ありますけど……」

「いいわ。私で良かったら、覚えていることを話しましょう。なんでも聞いて」

「は、はい」


 アリーは、カエラに思い浮かんだありったけの質問を投げかけていく。カエラは、その質問にどれも丁寧に答えてくれた。良い人だな。それが、アリーがカエラに感じた印象だった。


「ただいまぁ」

「あ、おかえりなさーい」

「?」


 アリーは外を見る。すでに外は少し暗くなっており、日が沈みそうになっていた。そして、1人の男性がアリー達のいる食卓に入ってくる。


「お、可愛いお客さんだね。ご近所さんかな?」

「アリー・バルトシュルツちゃんですって。アリーちゃん、こちら私の夫、ノービス・アルフェルトよ」

「よろしくな。……バルトシュルツ?もしかして、あの……」

「あ、はい。そうだと思います」

「……いや~、そうか!!まぁまぁ、ゆっくりしていきなさい!!いや、もう遅いからな、そろそろ帰ったほうが良いんじゃないか?送ってあげよう」

「あ、ありがとうございます……」


 アリーは、再度外を見た。確かに、もう暗い。急いで帰ったほうが良いだろう。家の皆が、心配しないうちに……。


「それでは、お邪魔しました」

「あ、アリーちゃん」

「はい」

「何時でも、また来ていいからね」

「はい、ありがとうございます」

「じゃあ、送ってくるよ」

「お願いね、あなた」


 その日、アリーは初めてアルフェルト家の2人にあった。その何処と無くリアクションの大きな2人に、アリーは楽しそうな夫婦だなぁという印象を覚えた。それから、アリーは暇になるとアルフェルト家へと通った。アリーは、家では魔物に関する勉強ができないと分かっている。そこで、アルフェルト家へ行って、勉強をしようと考えたのだ。しかも、アリーが訪れた次の訪問のときには、何故か魔物に関する専門書がアルフェルト家に置かれていた。


(もしかして、私のためにわざわざ買って……)


 カエラさんは、良い人だなぁと、再びアリーは思った。しかも、家の2階の部屋をアリーに貸してくれるのだという。そこで、アリーは誰にも邪魔されず、魔物の研究をすることが出来た。研究と言っても専門書を読むくらいだったが、アリーはそれでも十分満足していた。家の大人に禁じられている研究を、カエラ達が許容し、させてくれたからだ。アリーは、そうしてアルフェルト家の2人と過ごす時間を重ねていった。


「アリーちゃん、おやつよ」

「あ、ありがとうございます」

「休みの日に、うちに来ていいのかい?お父さんとか、アリーちゃんと遊びたいんじゃないか?」

「いえ、父はそういう事は言いませんので」

「そ、そうか……」


 アリーは、黙々と本を読みながらおやつを食べる。その様子を、ノービスとカエラは静かに見守っていた。……温かい。何故か、アリーはそう感じた。


「……いつも、お世話になってばかりですいません」

「いいのよアリーちゃん。若い子が家に居てくれると嬉しいわ」

「……お二人は、子供とか産まれないんですか?あの二階の部屋も、ひょっとしたら、その……」

「……」

「……」


 アリーは、前から疑問に思っていた。どうして、何もない部屋がただ一つあったのか? 何故この夫婦は、こんなにも自分を受け入れてくれるのか? 今投げかけた質問で、カエラ達の表情が悲しみに染まっているのをアリーが見た時、アリーはその答えがわかったような気がした。


「お二人は、子供を産まないんじゃなくて、産めないんですね……」

「……」

「何時からそうなってたのかはわからないんだが、どうやらそうらしい。まぁ、俺達は諦めたわけではないんだがな……」

「そうね……」

「……いい回復魔法院を知ってます。そこでなら」

「違うの、アリーちゃん。私達は、健康なの。でも、駄目なのよ」

「今の魔法技術では、この問題はどうにかなりそうもなくてな……」

「そうですか……」


 聞かなければよかった。と、アリーは思った。2人を悲しませてしまった。その罪悪感だけが、アリーの胸に残った。


「でも、今の私たちはアリーちゃんが来てくれるから、寂しくないわ」

「え?」

「そうだな。まるで娘を持てたみたいだ」

「バルトシュルツさんの家の子だけども、私たちは嬉しわ。アリーちゃん」

「いえ、その……」

「来てくれてありがとう」

「……はい」


 この2人は、底抜けに優しい。そうアリーは感じた。無粋な質問を投げかけた自分に、まるで家族のようだとこの2人は言ってくれたのだ。……この2人を、二度と悲しませまい。アリーはそう誓った。





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