祭りの終わり
「あ~、負けるかと思った……」
試合が終わり、本音が口から出てくる。いや、今回はマジでやばかった。息も上がってるし、顔が熱くなっているのを感じる。全力で挑んで、もぎ取った勝利といった感じだ。あー、疲れた。少し立ち上がるのも辛いくらい疲れた気がする。
「おめでとうございます!!」
「あ、ああ、はい」
司会者が近寄ってきたので、座っているわけにも行かずなんとか立ち上がった。起きると、サンサさんも疲れたのか、床に座っている。俺が司会者に目を向けると、何かを差し出してきた。
「こちらが、今回の優勝賞品。トライホーンの角で作った、豪華な短剣です!!」
「トライホーン?」
確か、聖魔級の魔物だったかな。まるで宝石のような透き通る3つの角を持つ魔物で、その角は高く取引されているんだとか。頑丈で、武器としての加工にも向いているんだっけか?
「さぁさぁ、刀身を抜いてみてください」
俺は、司会者に言われるままに、短剣を抜いてみた。照明の光が短剣に当たり、辺りを眩く照らす。綺麗だなぁ。
「すげぇ」
「幾らくらいするんだ?」
「家、買えるんじゃないか?」
確か、そこまではしなかったような? でも、高いのは間違いないだろう。
「素晴らしい輝きですね。では、今回の優勝者はベイ・アルフェルト選手でした。皆さん、勝者と頑張った参加者の方に拍手を」
その拍手を聞きながら、俺はステージを降りていく。皆の所に近づいていくと、シゼルが回復魔法をかけてくれた。ふぅ~、生き返る。
「お疲れ様、ベイ」
「ああ、なんとか勝ったよ」
「母さんは、父さんたちと一緒か。なら大丈夫だな。ベイ、よくやったぞ!!」
「……腕がもげるかと思った」
「ご主人様にここまで言わせるとは……」
「サラサの母親は、一体何者なのだ……」
「元冒険者ってだけですよ。ただし、うちのお祖父ちゃんが直々に鍛えたそうですけどね」
「あのお爺さんが……」
「筋肉だけ、鍛えさせまくったんでしょうね……」
俺もそう思う。あれは、普通じゃない。積み重なった努力の結晶とも言える筋肉だ。半端な実力じゃ超えられない。
「お、いたいた」
「?」
何処かで聞いたことのあるような声が、俺の耳に届いた。その人物は、人混みから俺達の方に向けて歩いてくる。
「やぁ、ベイ君。元気してた」
「お、おばさん!!」
「ライアさん」
その人は、ヒイラの家の当主、ライア・スペリオだった。何で、こんなところにいるんだろう? 俺がそう思っていると、ライアさんは、俺に何かを手渡してきた。
「手紙?」
「そう、うちに届いたのよ。ベイ君宛でね」
「はぁ、また何でそんな所に?」
「アルナファティク辺りから、こっちに来るって話聞いてた人がいたみたいで、こっちに周ってきたみたい。で、私が渡しに来たわけ。祭り中だから、まだこっちにいると思ってね」
「はぁ、なるほど」
差出人は、ノービスか。何かあったのかな? 俺は、封をやぶき、手紙を取り出して読んで見る。
「すぐ帰ってきてくれ、父より」
「……それだけ?」
「それだけ」
どういうことだ、何かあったにしてもこれじゃあ、まるで分からない。むしろ、投げやり気味に書いたようにも思える。
「う~ん、あれかな。手紙で話しづらいことなのかも知れないね。家族の誰かが危篤とか?」
「!!」
とすると、カエラが!! いや、だとしたらノービスもショックで寝込んで手紙など書けまい。それに、この手紙の文章。焦って書いたようには見えないな。むしろ、かなり余裕を持って書かれた字のように思える。文章は投げやりだが。
「こりゃあ、ベイくんだけで帰ったほうが良いかもしれないね。何があったにせよさ」
「……そうですかね」
俺的には、大丈夫だと思うのだが、まぁ、万が一ってこともあるか。
「え、ということは」
「旅行は、これでおしまいかぁ」
レノンとサラが、残念そうに言う。他の皆も、何処か寂しそうだ。
「そうね。何があるにしても、帰ったほうが良いと思うわ。ベイには、私が付き添いましょう」
「なるほど、アリーさんも実家はサイフェルムでしたね。では、私達は今回は大人しく待つとしますか」
「ごめんな、皆」
「ベイくんが、悪いわけじゃないよ」
「いい商売の経験もさせてもらえたし、私的には二重丸」
「ベイ様、またいずれ……」
「まぁ、今日は遅いし、帰るにしても明日からにしなよ。そっちの2人、転移使えるんでしょう?なら、焦らなくていいじゃない。皆と別れるのは、それからでも良いと思うよ、ベイ君」
「そうですね。そうします」
「じゃあ、手紙も届けたし、私は帰るとしようかな。あ、ヒイラちゃんはどうする?一緒に帰る?」
「私は、……まだ、残ります」
「おお、恋する乙女だね!!じゃあ、頑張るんだよヒイラちゃん!!ライバルは多いみたいだからね。それじゃあね」
そう言うと、ライアさんは転移で帰っていった。ヒイラが、顔を赤く染めている。可愛い。
「よーし、そうと決まれば、残りの時間、皆で楽しく過ごすぞ。早く家に帰らねば!!」
「え、帰るのか?」
「そりゃあそうだろ。ですよね、アリーさん」
「うむ。ミルク」
「あいあいさー!!」
「おわっ!!」
俺は、ミルクに軽々と持ち上げられる。そしてそのまま、家目掛けてミルクが駆け出した。
「よし、帰るわよ!!」
「「「「「「「「おー!!!!」」」」」」」」
どたどたと、祭り終わりの景色を横目に皆が駆けてくる。まぁ、皆が楽しそうだから良いか。俺はそう思った。
次の日、眠い目をこすりながら俺は起床した。
「おはようございます」
「あらベイ君。おはよう」
また庭で、サンサさんが剣を振るっていた。相変わらず重そうな剣だな。
「いやぁ、負けちゃうとは思わなかったよ。私も、修行がたりないね」
「いや、そんなこと無いと思いますよ」
そう言いながらも、サンサさんは剣を振るのを止めない。むしろ、楽しそうだ。どこまで鍛える気だよ、この人。
「よっと、今日で帰るんだってね。もっといればいいのに」
「あ~、なんか実家で用事があるみたいで。良くわかんないんですけど、帰らないといけないみたいです」
「そうか、それじゃあ仕方ないかね。せっかく、サラサにいいお婿さんが来てくれたと思ったのに。まぁ、二人共若いし、そんな焦らなくていいか?また何時でもおいで、なんなら、うちの子と子供作ってからでも良いよ。うちは大歓迎するからね」
「あはは、そのうちまた来ます……」
サンサさんは嬉しそうに笑いながらそう言うと、家に戻っていった。
「あっ、ご飯できてるから、皆起こしといでよ。うちの男連中が起きる前にさ」
「はい」
その言葉を聞いて、俺は皆を起こしに言った。そして、サンサさんの手料理を食べて、出発の準備を済ませる。出店は、ミズキにすぐに解体してもらった。これで、心置きなく帰れるな。
「私は、家に残るよ。何かあったら、すぐに呼んでくれ。何時でも、駆けつけるからな」
「ああ、ありがとう、サラサ」
「じゃあね、待たきなよベイ君」
「今度は、正式な試合をしようじゃないか」
「一対一でな!!」
「鍛えとくから」
「楽しみにしといてくれよ」
「兄さん達……」
サラサの家族に見送られながら、俺達は牛車で出発する。少し移動した後、転移して他の皆を実家なり、学校の寮なりに送り届けていった。
「あ、そうだ」
「?」
「ニーナ、これをあげるよ」
「え」
俺は、腕相撲大会の優勝賞品の短剣をニーナに渡した。軽いし、魔法使いのニーナには、丁度いい装備品だろう。
「こ、こんな高いもの、貰えないよ」
「いいんだ。その代わり、実家に帰ってもちゃんと魔法の練習をするんだぞ?」
「う、うん。でも……」
「次に合った時、強くなったニーナを見せてくれ。これは、その約束の印だ」
「これが……」
「ああ。それに、大会でタダで貰ったものだし、あまり気にしなくていい。俺があげたいからあげるんだ。じゃあ、またなニーナ」
「うん、私、強くなるねベイ君」
実家に送り届けたニーナとの別れを、最後に済ませ。俺とアリーと皆は、実家に帰ることにした。