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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第二章・七部 エジェリン家と、祭りと……
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祭りの終わり

「あ~、負けるかと思った……」


 試合が終わり、本音が口から出てくる。いや、今回はマジでやばかった。息も上がってるし、顔が熱くなっているのを感じる。全力で挑んで、もぎ取った勝利といった感じだ。あー、疲れた。少し立ち上がるのも辛いくらい疲れた気がする。


「おめでとうございます!!」

「あ、ああ、はい」


 司会者が近寄ってきたので、座っているわけにも行かずなんとか立ち上がった。起きると、サンサさんも疲れたのか、床に座っている。俺が司会者に目を向けると、何かを差し出してきた。


「こちらが、今回の優勝賞品。トライホーンの角で作った、豪華な短剣です!!」

「トライホーン?」


 確か、聖魔級の魔物だったかな。まるで宝石のような透き通る3つの角を持つ魔物で、その角は高く取引されているんだとか。頑丈で、武器としての加工にも向いているんだっけか?


「さぁさぁ、刀身を抜いてみてください」


 俺は、司会者に言われるままに、短剣を抜いてみた。照明の光が短剣に当たり、辺りを眩く照らす。綺麗だなぁ。


「すげぇ」

「幾らくらいするんだ?」

「家、買えるんじゃないか?」


 確か、そこまではしなかったような? でも、高いのは間違いないだろう。


「素晴らしい輝きですね。では、今回の優勝者はベイ・アルフェルト選手でした。皆さん、勝者と頑張った参加者の方に拍手を」


 その拍手を聞きながら、俺はステージを降りていく。皆の所に近づいていくと、シゼルが回復魔法をかけてくれた。ふぅ~、生き返る。


「お疲れ様、ベイ」

「ああ、なんとか勝ったよ」

「母さんは、父さんたちと一緒か。なら大丈夫だな。ベイ、よくやったぞ!!」

「……腕がもげるかと思った」

「ご主人様にここまで言わせるとは……」

「サラサの母親は、一体何者なのだ……」

「元冒険者ってだけですよ。ただし、うちのお祖父ちゃんが直々に鍛えたそうですけどね」

「あのお爺さんが……」

「筋肉だけ、鍛えさせまくったんでしょうね……」


 俺もそう思う。あれは、普通じゃない。積み重なった努力の結晶とも言える筋肉だ。半端な実力じゃ超えられない。


「お、いたいた」

「?」


 何処かで聞いたことのあるような声が、俺の耳に届いた。その人物は、人混みから俺達の方に向けて歩いてくる。


「やぁ、ベイ君。元気してた」

「お、おばさん!!」

「ライアさん」


 その人は、ヒイラの家の当主、ライア・スペリオだった。何で、こんなところにいるんだろう? 俺がそう思っていると、ライアさんは、俺に何かを手渡してきた。


「手紙?」

「そう、うちに届いたのよ。ベイ君宛でね」

「はぁ、また何でそんな所に?」

「アルナファティク辺りから、こっちに来るって話聞いてた人がいたみたいで、こっちに周ってきたみたい。で、私が渡しに来たわけ。祭り中だから、まだこっちにいると思ってね」

「はぁ、なるほど」


 差出人は、ノービスか。何かあったのかな? 俺は、封をやぶき、手紙を取り出して読んで見る。


「すぐ帰ってきてくれ、父より」

「……それだけ?」

「それだけ」


 どういうことだ、何かあったにしてもこれじゃあ、まるで分からない。むしろ、投げやり気味に書いたようにも思える。


「う~ん、あれかな。手紙で話しづらいことなのかも知れないね。家族の誰かが危篤とか?」

「!!」


 とすると、カエラが!! いや、だとしたらノービスもショックで寝込んで手紙など書けまい。それに、この手紙の文章。焦って書いたようには見えないな。むしろ、かなり余裕を持って書かれた字のように思える。文章は投げやりだが。


「こりゃあ、ベイくんだけで帰ったほうが良いかもしれないね。何があったにせよさ」

「……そうですかね」


 俺的には、大丈夫だと思うのだが、まぁ、万が一ってこともあるか。


「え、ということは」

「旅行は、これでおしまいかぁ」


 レノンとサラが、残念そうに言う。他の皆も、何処か寂しそうだ。


「そうね。何があるにしても、帰ったほうが良いと思うわ。ベイには、私が付き添いましょう」

「なるほど、アリーさんも実家はサイフェルムでしたね。では、私達は今回は大人しく待つとしますか」

「ごめんな、皆」

「ベイくんが、悪いわけじゃないよ」

「いい商売の経験もさせてもらえたし、私的には二重丸」

「ベイ様、またいずれ……」

「まぁ、今日は遅いし、帰るにしても明日からにしなよ。そっちの2人、転移使えるんでしょう?なら、焦らなくていいじゃない。皆と別れるのは、それからでも良いと思うよ、ベイ君」

「そうですね。そうします」

「じゃあ、手紙も届けたし、私は帰るとしようかな。あ、ヒイラちゃんはどうする?一緒に帰る?」

「私は、……まだ、残ります」

「おお、恋する乙女だね!!じゃあ、頑張るんだよヒイラちゃん!!ライバルは多いみたいだからね。それじゃあね」


 そう言うと、ライアさんは転移で帰っていった。ヒイラが、顔を赤く染めている。可愛い。


「よーし、そうと決まれば、残りの時間、皆で楽しく過ごすぞ。早く家に帰らねば!!」

「え、帰るのか?」

「そりゃあそうだろ。ですよね、アリーさん」

「うむ。ミルク」

「あいあいさー!!」

「おわっ!!」


 俺は、ミルクに軽々と持ち上げられる。そしてそのまま、家目掛けてミルクが駆け出した。


「よし、帰るわよ!!」

「「「「「「「「おー!!!!」」」」」」」」


 どたどたと、祭り終わりの景色を横目に皆が駆けてくる。まぁ、皆が楽しそうだから良いか。俺はそう思った。


 次の日、眠い目をこすりながら俺は起床した。


「おはようございます」

「あらベイ君。おはよう」


 また庭で、サンサさんが剣を振るっていた。相変わらず重そうな剣だな。


「いやぁ、負けちゃうとは思わなかったよ。私も、修行がたりないね」

「いや、そんなこと無いと思いますよ」


 そう言いながらも、サンサさんは剣を振るのを止めない。むしろ、楽しそうだ。どこまで鍛える気だよ、この人。


「よっと、今日で帰るんだってね。もっといればいいのに」

「あ~、なんか実家で用事があるみたいで。良くわかんないんですけど、帰らないといけないみたいです」

「そうか、それじゃあ仕方ないかね。せっかく、サラサにいいお婿さんが来てくれたと思ったのに。まぁ、二人共若いし、そんな焦らなくていいか?また何時でもおいで、なんなら、うちの子と子供作ってからでも良いよ。うちは大歓迎するからね」

「あはは、そのうちまた来ます……」


 サンサさんは嬉しそうに笑いながらそう言うと、家に戻っていった。


「あっ、ご飯できてるから、皆起こしといでよ。うちの男連中が起きる前にさ」

「はい」


 その言葉を聞いて、俺は皆を起こしに言った。そして、サンサさんの手料理を食べて、出発の準備を済ませる。出店は、ミズキにすぐに解体してもらった。これで、心置きなく帰れるな。


「私は、家に残るよ。何かあったら、すぐに呼んでくれ。何時でも、駆けつけるからな」

「ああ、ありがとう、サラサ」

「じゃあね、待たきなよベイ君」

「今度は、正式な試合をしようじゃないか」

「一対一でな!!」

「鍛えとくから」

「楽しみにしといてくれよ」

「兄さん達……」


 サラサの家族に見送られながら、俺達は牛車で出発する。少し移動した後、転移して他の皆を実家なり、学校の寮なりに送り届けていった。


「あ、そうだ」

「?」

「ニーナ、これをあげるよ」

「え」


 俺は、腕相撲大会の優勝賞品の短剣をニーナに渡した。軽いし、魔法使いのニーナには、丁度いい装備品だろう。


「こ、こんな高いもの、貰えないよ」

「いいんだ。その代わり、実家に帰ってもちゃんと魔法の練習をするんだぞ?」

「う、うん。でも……」

「次に合った時、強くなったニーナを見せてくれ。これは、その約束の印だ」

「これが……」

「ああ。それに、大会でタダで貰ったものだし、あまり気にしなくていい。俺があげたいからあげるんだ。じゃあ、またなニーナ」

「うん、私、強くなるねベイ君」


 実家に送り届けたニーナとの別れを、最後に済ませ。俺とアリーと皆は、実家に帰ることにした。



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