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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第二章・七部 エジェリン家と、祭りと……
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腕相撲大会最終日2

「さて次の対戦者は、ベイ選手とロギン選手です!!」

「行けー、銀腕のロギン!!」


 俺と一緒に進み出た選手が、俺の目の前に立った。ロギンと呼ばれたそいつは、まるで気合でも入れるかのように、右腕をぶん回している。……風を切るいい音がするなぁ。


「銀腕の楽勝だろう」

「いやいや、あいつ巨大熊殺しだぜ。わかんねぇよ」


 俺は、対戦相手を観察する。武器か何かから付いた通り名なのだろうか。今の相手には、銀の要素は何処にも見当たらない。


「よし、準備は出来た。さぁ、始めようぜ」

「……ああ」


 良く分からないまま、俺は相手の手を握った。ごついなぁ。


「それでは、始め!!」

「ふっ!!」


 腕に重圧がかかる。相当鍛えているんだろうなぁ、ということはわかった。


「うおお!!」

「……はぁ」


 相手は必死なのだが、それに比べて俺はどうよ。こんなムキムキマッチョが顔真っ赤になるくらい力を入れているのに、まだ余裕がある。……本当、俺こそ人間やめてるよなぁ。


「嘘、だろ」

「悪いな。マジだ」


 長引かせても悪いので、俺は腕に力を込めた。新たに出された2台目の鉄のテーブルがひしゃげ、マッチョマンがステージに沈む。


「がはぁああ!!」


 打撃でも受けたかのような声を上げると、ロギンはその身をステージに横たえて少しピクピクしていた。やばい、やりすぎたかな?


「ま、負けた」


 ほっ、良かった。喋れるぐらいの元気があるみたいだ。ロギンは、すぐに医療班に運ばれていった。


「げ、ロギンがあっさりと!!」

「熊殺し強え」

「やはり、B級の冒険者程度では、熊狩りの優勝者相手は無理か」


 ああ、B級だったのか。結構、強いって感じかな。まぁ、前の時戦った巨漢マッチョマンのほうが力は強かったけどね。


「さて次は、ステイラ選手とマイゼ選手です」


 特にロギンを気にすることもなく、試合は進んでいく。なんだか慣れてますって感じだ。その後、ステイラと呼ばれたイケメン系マッチョマンがマイゼを倒し。そのステイラも、ナークさんに負けた。しかも、見事に放り投げられて……。


「さぁ、準決勝と行きましょう!!」

「ナークさん、よろしくお願いします」

「昼間はありがとうね、ベイ君。お陰で体の調子が良いよ。良すぎて気絶しちゃったけどね」

「それはなによりです。でも、負けませんからね」

「おう、かかってきなさい!!」


 俺は、ナークさんの腕を握った。揉んだときとは別物の硬さだ。やっぱ、力入れてると違うんだなぁ。


「それでは、始め!!」

「ふっ!!」

「!!」


 今回は、始めから俺も力を込めた。だが、ナークさんは怯みもせず、俺の腕力を受け止めている。強い。流石、Sランク冒険者。


「流石、神の手を持つ揉みし!!腕力も一級品だ!!」

「いえいえ、それほどでは」


 言いながら、俺は更に力を込める。ナークさんの腕が、徐々に傾き始めた。


「こいつは、マジでヤバイね……」

「そうですか、余裕そうに見えますけど」

「ベイ君こそ」


 そう言うと、更にナークさんは力を上げてきた。その振れ幅が大きいために、一瞬押し返され、体勢を立て直される。


「さぁ、これから全力で行くよ!!」


 さっきのでさえ、かなり力のかかりが高かったのに、ナークさんはそこから更に力を上げてきた。予想しないパワーの上昇に、俺の腕が傾き始める。


「コツはね、手首の力を使うことなんだ。大斧を振りに振って鍛えた私のこの鮮麗されたパワーは、ちょっとやそっとでは倒せないよ!!」

「……実は、俺も剣をかなり振ってましてね。手首には自身があるんですよ」

「へ~、そんなに細いのに」

「今、見せますよ」


 俺は、腕全体の筋力をフルに使って力を発揮した。手首で相手の力のかかる向きをずらし、純粋な腕力で傾きを直していく。すると、徐々に俺の腕が体制を立て直し。また、ナークさんと五分の状態に戻った。


「やる……ね」

「終わりです」

「な!!」


 そのまま、俺は同じようにして力をかけていった。ナークさんは歯を食いしばり腕に力をかけている。だが、その腕は徐々にテーブルに向かって近づき。


「くっそ……」


 そっと、その手の甲をテーブルに触れさせた。


「ベイ選手の勝利!!」

「……負けたよ」


 ナークさんが席を立ち、俺にウインクして去っていく。そこに入れ替わるように、サンサさんがやってきた。


「さぁ、勝負と行こうか。ベイ君」

「はい」


 そう言うとラスボスが、俺の目の前で優美に腕まくりをした。


「それでは、今から決勝戦を始めたいと思います!!」


 会場が、いきなり静かになった。誰もがかたずを飲んで見守っているのは俺ではない。サンサさんに対してだ。だが、俺にはそんな観客達よりも、強い力をくれる嫁達が見守ってくれている。


「ご主人様、行けー!!」

「母さんに負けるなー!!」


 その声は、静かな会場によく響いた。ありがとう、二人共。俺は勝つ!!


「それでは、最終試合、始め!!」

「っ!!」

「ぐっ!!」


 俺は、始めから全力で力を込めた。だが、目の前の俺が掴んでいる腕はびくともしない。まるで、鍛えすぎていなかった普通の頃に、ビルに手をついてもたれかかっているかのような、どうにも出来なさを感じる。やばい、負けるだろ、これ。


「どうしたんだい、ベイ君!!」

「いっ」


 俺の腕が、緩やかに傾き出した。しかも、一定の速度で傾きだしているので、今のうちに立て直さないと負ける可能性が高い。だが、サンサさんの腕は、びくともしないのだ。どうなっているんだこの腕わ。勝てる気がしない。


「いい線、いってたんだけどねぇ」

「ベイー!!負けるなー!!」

「はっ」


 それは、まるで魔法のような言葉だった。もう全力を出し切った身体から、更に力が湧き上がってくるのを感じる。やはり、アリーの応援は効くなぁ。」


「おっ」


 俺が振り絞るように再度力を込めると、腕は傾きから脱し体制を立て直した。


「やるねぇ」

「ありがとうございます」


 そう言いながら、俺は更に腕に力を込めていく。今度は、サンサさんの腕が傾き出した。


「おい、サンサさんの腕が傾いたぞ!!」

「俺、初めて見た!!」

「娘である私も、初めて見たな。母さんの腕が傾いているとこ……」


 どんだけ強かったんだよ、サンサさん。まぁいい。俺は、そのままサンサさんを打倒すべく腕に力を込めていった。だが、サンサさんが不敵に笑みを浮かべ、腕に力を込めてくる。あっという間に、サンサさんは体制を立て直した。


「久しぶりに、本気を出すかね!!」

「なっ!!」


 グイーッと、あっという間に俺の腕が傾いていく。しかも、為す術がない。俺は、ギリギリ手の甲が当たらない位置で腕を踏ん張らせているが、負けるのは時間の問題だ。


「ベイー!!」

「マスター!!」

「主!!」


 皆の声が、耳によく届く。まさにギリギリで、これ以上力が入れられない。そう思っていた。俺は、そうだと思っていた。だが、不思議な事に、俺の腕はサンサさんの腕を持ち上げ始めた。


「!?」

「ぐぐっ!!」


 歯を食いしばり、脚に力を入れ、全身の筋肉を腕に集中させるつもりで腕を持ち上げる。そして、そのままサンサさんの腕を押し倒していった。


「私が、押されて……」


 サンサさんも意地になってきたのか、歯を食いしばり、腕に力を込めてきた。再び、テーブル上で腕が止まる。だが、更にサンサさんの腕が傾き出した。


「なっ」

「ぐぐぐっ!!」


 俺自身も驚いているが、観客の方が驚いているように感じる。そりゃあ、ラスボスが負けそうなんだからそうもなるか。


「うっご!!」

「くっ!!」


 俺とサンサさんは、完全に口を閉じて腕に力を込めることに集中した。全身全霊のぶつかり合いのせいか、テーブルから変な異音がしている。大丈夫か、このテーブルは。


「主人、行けー!!」

「ベイさん!!」

「行くっすよ!!」

「おりゃあああああああ!!!!」


 限界を超えたぶつかり合いの果てに、その先を俺はわずかに超えた。徐々に、サンサさんの腕が傾いていく。本当に少しずつ、ゆっくりとだ。


「!!」


 サンサさんも限界なのか、もう腕に掛かる力は上がってこない。俺は、2分ぐらいかけてサンサさんの腕を、ようやくテーブルに付けた。


「かはぁっ!!」

「ぷはぁ!!」


 それを見届けると、俺とサンサさんは同時に息を吸った。どうやら、知らぬ間に呼吸を止めていたらしい。まぁ、それだけ全力だったということだろう。


「ベ、ベイ選手の勝利!!」

「うわあああああぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!」


 力が抜けて、尻もちをつくようにステージに座った俺に、観客の大きな歓声が聞こえてきた。





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