腕相撲大会最終日1
その後、待てどお客が来る気配はなかった。いや、もう十分すぎるほど来たあとではあるのだが……。
「流石に、もうお客は来ないでしょうね。あらかた、つぶしてしまいましたし」
「つぶすという使い方が、いささか変な方向ではあるがな……」
「レム、マスターが気にしちゃうから、そういうのは言っちゃいけません」
「あ……」
……いや、そう言われても仕方ない。この寝ている女性たちを見れば、そうとしか言えないだろう。正面から受けよう、その言葉。
「……まぁ、待っててもその内嫁は増えるでしょう。焦って考える必要もないわね。うん、それで行きましょう」
「お、そう来ますかアリーさん。では、そうしましょうか」
「ええ」
……思わず、その言葉にこめかみを押さえて俺はうつむいてしまった。何、その当たり前のように扱われている前提。俺の方が、聞いてて大丈夫かってなる。でも、無いと言い切れないあたりが辛い。既に、今日だけでも結構お客に言い寄られたし……。マッサージゴリ押して、気絶させたけど。
「とりあえず、こうなると腕相撲まで暇ね。魔法の研究でもする、ヒイラ?」
「うん、いいよ」
「私達は、売上を数えましょうか。うふふ」
「ロデ、よだれよだれ」
「サラサちゃん、どうする?」
「そうですね。ベイと訓練をしたいところですが、今、ベイの体力を削ぐのは試合に影響が出るでしょう。散々仕事もこなしたあとですしね。……そうだ、ニーナの魔法訓練に付き合うというのはどうでしょう?」
「え、私ですか?」
「一人で地道に努力はしているようだが、それでは開けない世界もあるからな。どうです、先輩」
「うーん、よし、そうしよう。それじゃあ、表に出るか。人もいなくなって丁度いいし」
「え、あの、あの」
そう言うと、レラとサラサはニーナを抱えて出ていった。
「じゃあ、私達はベイ君の腕を揉むことにしよう」
「いいね。疲れてるだろうし」
「え」
そう言って、レノンとサラは、俺の腕を揉み始めた。……効くんだろうか。俺の他の嫁達は、何やら集まって話し合いをしている。
「打開策は見つかった?」
「無いですね。ご主人様が強すぎます」
「やはり、一人一人では無謀なのでは」
「我々は、団体戦で勝負するしか無いということか」
「そうですね。攻められる対象が1人に絞られると、あっさりとだめになってしまいます。やはり、複数戦しか無いでしょうね」
「でも、今まで通りってことじゃないっすか。それじゃあ、駄目なんじゃないっすかね」
「あたしは、押せ押せが良いと思うなぁ。ほら、攻められるから駄目なわけだし」
「なるほど。主人を全員で押さえ込むわけですか。それならば勝機はないにしろ、今までよりはましになりそうですね」
「ならば、シデンにお任せ下さい!!」
「シデン先輩は、すぐに倒されてしまいますからね。後衛が良いでしょう」
「アルティちゃん!?」
なんだか楽しそうだな。皆が、仲が良くて何よりだ。話してる内容はあれだが。そんなこんなで、あっという間に腕相撲の試合時間になった。
「すごい人だな」
「ええ、広場全域に人が集まってきてますね。全ての祭り参加者が、来ているんじゃないでしょうか」
「このイベントは、祭りの締めでもあるからな。こうもなるだろう」
腕相撲を見に、ここまで人が来るのか。……俺なら、ここまで人が来てるとこに来てまで試合を見たくはないなぁ。しかも、腕相撲だし。
「参加者の方は、ステージ上に集まって下さい!!」
「お、行ってくるか」
「ご主人様、参加資格の像をお持ち下さい」
「ああ、そうか。行ってくるよ」
「いってらっしゃいマスター」
皆に見送られながら、ローブをアリーに預けて俺はステージに上った。
「揃ったようですね。では、始めましょう。腕相撲、最終日最終大会!!」
司会のその声に、観客が歓声を上げて答える。これから、このステージ上の7人で腕相撲で競い合うのかぁ。皆強そうだ。緊張するなぁ。
「では、試合内容を説明しましょう。この中から、1人だけシード選手を決めます。残った6人で勝ち抜き戦を行い、その中から勝ち抜いたものだけがシード選手と戦うことが出来ます。そこで、晴れて優勝となります」
あ、そうなの。つまり、誰か1人がラスボスキャラ的なポジションになるのか。……俺、選ばれないかなぁ。楽したい。
「今回のシード選手ですが、厳正な審査の結果。やはりこの人になりました。サンサ・エジェリン選手!!」
……観客が、その名前が出た瞬間、凄い盛り上がっている。やはり、この人がラスボスなんだな。そうかそうか。
「それでは、早速試合開始と行きましょう。先ずは、ナーク選手と、ファレオ選手!!」
お、最初はナークさんか。相手は、完全なムキムキマッチョマンだな。ガタイが良すぎて、小さな山のように見える。只者ではないだろう。
「大盾のファレオ。噂には聞いてたよ。凄いガタイだね」
「大戦斧のナーク。貴方にそう言われるとは、光栄だ。この魔物の攻撃を耐えしのいで来た身体にかけて、今日は勝たせてもらうよ」
「おー、それはどうかな。私はあんたより細いけど、負ける気はしてないんだよね」
どうやら、相手も結構なクラスの冒険者のようだ。ナークさん頑張れ。俺がそう思ってナークさんを見ていると、ナークさんがウインクしてきた。余裕そうだな。大丈夫かもしれない。
「それでは、始め!!」
「ふっ」
「はぁっ!!」
……おいおい、おかしいだろ。2人が掛け声をかけた瞬間、決勝特別であろう鉄で出来ていそうなテーブルが歪んだ。どっちも化物だ。俺がそう言って良いのかは置いといて、普通に考えたらそうだろう。
「はぁぁぁあああああ!!!!」
ファレオが、声を上げながら腕に力を込めていった。徐々に、ナークさんの腕が傾き始める。
「重いね。流石、盾持ち。生半可なパワーしてないね」
「ありがとうございます。そして、持久力もあるのが盾持ちの筋肉。ここまで傾いた以上、簡単には立て直させませんよ」
「いや、悪いね」
そう言うとナークさんは、腕に力を込めた。
「あんた、私の武器よりは軽いわ」
「何!!」
そのとき、山が浮いた。そのまま、ステージに山が叩き伏せられる。ファレオは、その衝撃で白目をむいていた。
「鎧も盾もないんじゃあ、盾持ちも脆いもんだね」
「ナーク選手の勝利!!」
おっかねぇ。俺はそう思った。