皆と嫁と
「(ふっ、ご主人様のお嫁さんですと。本当に意味が分かってるんですかねぇ?)」
「むっ、もちろんよ!!と言うか、誰が喋ってるのかしら?姿が見えないけど」
「(おっと、失礼。私は、ご主人様の忠実なる愛の下僕の一体、ミルクと申します。今は訳あって姿をお見せできませんがお許し下さい)」
「……筋肉モリモリの巨大な厳つい牛ですからね」
「(ミズキィィィィィィィィィ!!!!言い方に刺がありますよ!!!!刺が!!!!)」
ミルクは、俺の中で暴れていた。その魔力に気づいたのかアリーが俺の胸に手を当てる。
「むっ、ここね!!ベイの中にいるってわけね!!」
「(ええ、正解です。ご主人様に一番近い距離にいるわけですよ、ふふふ。ところでアリーさん、言うのは簡単ですがお嫁さんはそんな簡単なものではないんです。ご主人様のピーを、ピーして、ピーしなきゃいけませんからね。あれ、何か念話の調子がおかしいですね?)」
「ベイよ。ベイが魔力で干渉して言葉を修正しているの。でも、だいたい言いたいことは分かったわ。もちろん私は、ベイのをピーして、ピーさせて満足させる覚悟があるわ!!……ベイ今度は、風魔法で音を変えたのね」
なんの意味があるの? と、アリーは顔で言っているが、俺の精神安定上必要なことなんだ。察して欲しい。ああ、しかしこれは、まずいかもしれない。もしかしてこの二人の相性は、俺が思っているよりも深刻な方向にやばいんじゃないか?
「(なるほど。夢見がちなお嬢さんというわけでは、ないようですね)」
「もちろんよ。子供は2人欲しいわ!!」
ああ、やめてくれ~~!! それ以上そっちの方向に話が向かうとまずい!!!!
「と、ところでアリー、ずいぶん早く来たんだね。アリーが出した手紙は、今日届いたんだけど?」
俺は、急いで話を修正する。
「ふふ実はね、ベイ。私、もう無理に学校に行かなくても卒業出来るようになったのよ!!」
えっへん!! と、胸を張るアリー。む、アリーもしかして少し胸が大きくなった? いやいや、そこじゃない。え、つまり何がどうしてそういうことに?
「私の行ったウィルクス魔術・戦士学校は、夏前に学校内での闘技大会があるのよ。全校生徒参加自由のね。そこで優勝した人には、学校でのあらゆる卒業に関する障害が免除されるのよ!!軽く私が出て優勝してあげたわ。それでベイにうきうき気分で夏休みに入る前の手紙を書いて送っていたんだけど、いてもたってもいられず一週間早く休みにして来ちゃった!!」
「おお、それはすごいね!!おめでとう!!……でも、すごそうなイベントだね。全校生徒参加の闘技大会って」
「大丈夫よ!!意外と楽だったし。ベイなら一年目ですぐに優勝出来るわ」
うん? 今なにかおかしくなかったか?
「えっとアリー、その言い方だと来年俺は、アリーのいる学校に入るみたいに聞こえるけど?」
「うん?そうよ。カエラさんから聞いてな……。あっ、そう言えば秘密にしておくって言ってたわね」
ちょっと!! また俺のいないとこで俺の将来が決められてたんですけど!! いや、アリーと同じ学校なら願ったり叶ったりだけどさぁ……。
「まぁ、細かいことはいいじゃない!!来年からは、また一緒よベイ!!」
「え、あ、そうだね。嬉しいよアリー」
俺がそう言うとアリーは、満足そうに俺を抱きしめてきた。
「ところでベイ。そろそろ皆を紹介してもらってもいいかしら?私がいない間にだいぶ大所帯になったみたいだし」
「そうだね。じゃあ、フィー以外の皆は、改めてアリーに自己紹介してくれるかな?」
「心得ました、主。では、まずは私から……」
レムが立って一歩前に出る。
「私の名前はレム。生まれはゴーレムでしたが、2回の進化によって今の姿に落ち着きました。仲間にしていただいたのは、フィー姉さんの次ですね。戦闘では、主に前衛を担当する魔法戦士です。得意魔法属性は基本属性の闇ですが、生まれはゴーレムでしたので土魔法も得意です。他にも限定的な転移魔法を使うことが出来ますし。召喚魔法も使えますが配下を作るつもりは無いので、こちらは主の手伝いで使う程度ですね」
「転移魔法と闇魔法!!!!す、すごい仲間がいるのね、ベイ。しかも、かなり強いみたいね」
アリーは、すごく興奮していた。まぁ、そりゃそうなるよな。レムの存在は、レアすぎるからな。まるで大昔にいたという魔王みたいだ。レムは、言い終えるとスッと座った。
「(さてでは、次は私ですね。改めまして、私はミルクです!!生まれも進化後も牛です!!まぁ今は、かなり厳つくなってしまいましたが……。巨大すぎるので今は、姿をお見せすることが出来ません。仲間になったのは、レムの次ですね。戦闘では、私も前衛を担当しますよ!!拳で戦うインファイターですね。力と耐久力には、自信がありますよ!!魔法も勿論使えます。私の土魔法は、ちょっとしたもんですよ。あと、私の牛乳が美味しいと評判です!!主にご主人様に!!主にご主人様に!!!!)」
ミルクは、最後らへんを鼻息荒く言い終えた。
「牛乳」
アリーは、自分の胸を見て触っている。大丈夫、アリーはこれからのはずだ。そしてミズキが天井から音も無く床に降りる。
「さて、最後に私ですね。えっと、今日より仲間になりましたミズキと申します。戦闘では、前衛・中衛を担当する事になる、あ、アサシンですかね?」
「いや、違う!!ミズキは、ニンジャだ!!!!」
「えっ!?」
「ニンジャだ!!!」
「は、はい!!ニンジャ?です。この触手と水魔法での攻撃を得意とします。身体の大きさを変えたり体色を変化させたり魔力を隠したりなど、隠密行動も得意です。魔力範囲内の水から水への限定的な転移も出来ます。必ず皆さんのお役に立ってみせます!!」
言うとミズキは、スッと正座で座った。え、体色も変化させられるの? じゃあ、擬似日焼け後とか作れるのか……。 やばいな。俺の中でミズキの株が上がっていく。やはりニンジャだ。何でも出来るぜ。
「ニンジャ?とにかく、すごいのは分かったわ。しかも、また転移魔法。ベイの仲間集めの才能は、すごいわね」
アリーにお褒めの言葉を頂いた。いや、でも皆すごいよな。俺より強い。……俺も頑張らねば。
「さて、では次は、私の番ね」
さっきからずっと俺のあぐらの上に俺と向き合う形で座っていたアリーは、スッと立ち上がった。
「私は、アリー・バルトシュルツ。天才魔法使いよ。聖魔級までの火・水・風・土・雷の魔法を使えるわ。治癒魔法は、上級までね。でも聖魔級魔法は、一回撃つだけで魔力切れになるわ。あと、ベイの未来のお嫁さんよ!!もうカエラさんには、話をつけてあるわ!!」
そう言うとまた俺を抱きしめる形で俺の上に座るアリー。……いつの間にそんな話をしていたんだ。全く気が付かなかった。
「(す、すでに親の許可を取り済みだと!!!!や、やりますね……)」
ミルクは、ゴクリとつばを飲み込む。あと微妙に皆の俺を見る視線が重くなった気がした。フィーは、優しく微笑んでいる。いい子だ。女神か……。
「さて、これで皆のことも分かったわね!う~ん、もう夜も遅いしとりあえず寝ましょうか」
スッ、と立ち上がるアリー。家に帰るんだな。見送らないと。
「と、いうわけでベイ!!しばらく泊めて?」
アリーは、可愛らしく言った。
「「「「「えッ!?」」」」」
俺を含めて全員が驚いた。夜は、まだまだ明けそうにない。