最終日出店
最終日だが、特に祭りに変わりわない。朝ごはんを食べて出店に向かい、仕事をする。そして空き時間で出店を周って終わり。後は、腕相撲でこの街一番の強者と戦って終わりだ。そう思っていた。
「……何だ、この人だかりわ」
「あ、ベイ君。待ってたよ!!」
俺に声をかけてきたのは、最初にマッサージに来てくれたお客さんのレビンさんだった。他にも、知っている顔の女性がチラホラと居る。で、なんというか、店のお客としてここに居る雰囲気ではなさそうだ。まぁ、並んでは居るんだけど、何か服装がおかしい。あれだ、駅前とかで募金活動してそうな格好に見える。現代風ではないのだけど、そんな感じだ。
「レビンさん、何ですか、その格好は?」
「ああ、これ?お金を集めてたの。ベイ君の、出店資金」
「しゅ」
「出店資金!!」
「そうそう。いやー、やっぱ後一日で終わりなんて、耐えられないって昨日酒場で話してたらさぁ。あれよあれよとこういうことになっちゃって……」
「出店資金さえあれば、正式に出店してくれるんじゃないかなって、皆が言い出してね」
「それで、これなんだけど……」
「まさか、その箱一杯に……」
「うん」
よく見ると、完全に入りきっていないのか、お金が箱の口らへんから溢れそうになっている。何だこれ、どんな店を出させるきだ。2階建てでもいけそうだぞ。
「いや、その、皆さんの気持は嬉しいんですけど。俺の故郷から、ここは遠いですし。今回はお試しですので……。それに、自分まだ学生ですから」
「え、学生なの?」
「ということは、かなり若い?」
「いやいや、ということは、故郷なら良いの?卒業まで、あと何年?」
「いや、あのですねぇ……」
こっちはそれとなく、出店は考えてないって言おうとしてるのに、受け入れてくれなそうな雰囲気だ。どうする。はっきり言うしか無いのか?
「……ベイの故郷は、サイフェルムよ。出店するにしても、サイフェルムは土地代が高いから、それだけじゃあ、厳しいかもね」
「アリー……」
「サイフェルムかぁ。結構遠いなぁ……」
「活動拠点移す?」
「それよりも、これだけで足りないって、そんな高いの?」
「街の中心街クラスになると、それぐらいは今なら、あっという間に消えるでしょうね。貴族とか住んでいるようなところだから、正式な出店書類も多くいるし。出店したとしても、多すぎるお客を上手くさばけるのか心配が残るところなのよね。今回の出店で、多くの問題点がこの店にも見えてきたわけ。そこは、分かるかしら?」
「ああ、経営側の仕事が増えるってことね」
「それもあるけれど、あなた達も気づいている通り、この揉みはベイだから成立する商売になっているの。他に、このクラスの揉みが出来る相手なんて知らないわ。だから、出店したとしてもベイの負担が重くなるとしか、今は思えないの。出店して、学生をやりながらお店を続ける。ちょっと現状では無理そうね。他にも、私達にはやることがあるし」
「なるほど……」
「遠分は無理ってことかぁ」
「まぁ、そうなるわね。お金を集めてもらって悪いのだけど……」
その話を聞いて、何やら、しょぼくれたように列に並んでいるお客さん達も元気を失っている。……どうしようもないんだ。許して欲しい。全て、創世級って奴らが悪いんだ。
「あ、でも、このお金はあげるね」
「そうそう。私達からの、感謝の気持ち」
「いつか、出店したらギルド経由でお店の情報載せといてよ。そしたら、私達、すぐに行くからさ」
「え、あ、ありがとうございます」
「……やはり、私の目に狂いはなかった。今の財産がなくとも、ベイくんと結婚すればいくらでも稼げる。最高、まさに最高の夫!!」
「ロデ、涎出てる、涎」
ロデはロザリオに任せるとして、こんなお金だけ貰うなんて、それで良いのだろうか。何か、少しでも返さないとやばいだろ。この金額だし。
「……よし、今日は本気だすか」
「えっ」
俺のその言葉に、アリー達が一歩後ずさる。
「本気だすって、ご主人様。まさか、気絶方式ですか?」
「お客様が気絶したら次のお客様をお相手する。確かに、それなら多くのお客様に、感謝を返せる。しかも、気絶してしまっては休ませるほかないので、揉みを出来なくても仕方がない……」
「……足りるのかな、お客さんの量が」
え、そっち? 俺的には、全員は無理だと思うんだけど。表通りまで、列続いてるし。
「と、ともかく、今日はそれで行きましょう。基本料金も下げます。ベイくんに負担がかかってしまいますが、大丈夫ですか?」
「ああ、任せてくれ」
「よ、よし。ではお客様、そのままでお待ち下さい。今日は、全てのお客様をお相手できると思います!!何分後かになるかは分からないので、各自、待てる方はその場でお待ち下さい」
いや、そんな早く終わらないって。この人だかりだし。
「ミズキさん、人を寝かせるスペースがほしいのですが。しかも、この人数を」
「店の中を、急いで片付ける。控室も、出来るだけそのスペースにまわそう」
「よろしくお願いします。ロデ、私達は整理券を作るわよ。トイレに行きたいお客様も、いるかもしれないわ」
「うん」
ドタドタと皆が動き出した。俺は、仕事場に行って着替えて準備をする。そして、お客が来るのを待った。
「お待たせ致しました。最終日の開店を、只今から始めます!!」
外から、歓声にも似た声が聞こえてきた。たった3日。それだけで、こんな所までこの店は来たのか。……控えめに言ってヤバ過ぎるな。やはり、正式出店はやめたほうが良い気がする。俺はそう思いながら、一人目のお客を出迎えた。
そして、あっという間に、午後二時頃。
「こ、これで最後のお客様ですね」
「うん、流石に、もう外にお客様はいないよ」
「見事に、店中が埋まってますね」
「早い段階で、お客様が復活し始めてよかったよ。ギリギリだったね」
「……」
やれてしまったよ。全員相手に出来てしまった。何だこの店は。女性が全員気絶してるんだが、危ない店かなんかじゃないのか? まぁ、やったの俺だけど。
「……正妻として、夫の凄さがここまでとなると、どうするべきかしら?」
「いっそ、お客様全員妻にします?」
「ミルクが言うと普段ならネタにしか聞こえないのだけど。今回は、それでも良い気がしてくるわね。少し考えましょうか……」
「……」
何故か、アリーに謝りたい気持ちになった俺だった。