エジェリン家4日目
……あれだな。周りのマッチョマン達の妙に強者ぶる態度のせいで、無駄にテンションが変な方向に行ってしまった。優勝した今となっては、それがだんだん冷めてきている。結局、ストレート勝ちだったしな。そんな苦戦してたわけでもない。……雰囲気って大事だなぁ。
「で、これを持って明日の最終戦に出れば良いのか」
俺は、渡された優勝商品を適当にしまいながらローブを着直した。後で売ろう。
「うむ。今日と同じこの時間に、最終戦は開始される。お店を早めに切り上げて、出るのが良いだろう」
「ああ、そうなの?」
「ですってよ、ロデ」
「むむっ、わかりました。早めに終わるよう、準備しておきます」
俺は、なんとなく肩に乗りたそうにしていたカザネを肩に乗せて、サラサの家に向かって歩き出した。早く水浴びがしたい。あの熱気の中で、無駄に汗をかいてしまった。魔法を完全に使わない状態でいたというのも理由だろうが、大半の原因は試合を見に来ていたマッチョマンたちのせいだろう。あれだけ筋肉が集まってたら、そりゃあ大量の汗をかく気温になるわな。しかも、今は夏だし。……魔法で、体温を調節しよう。ああ~、風魔法が涼しい。
「ここまで汗だくのベイは、初めて見るわね」
「まぁ、魔法がありますから。普段は、汗なんて戦闘中ぐらいしかかきませんしね。貴重なご主人様の汗です」
「ベイ君、拭いてあげるよ」
「ああ、ありがとうレラ」
「私も、ベイ様の汗を拭きます!!良い匂いしそう!!」
「いや、しないって……」
適当に汗を拭かれながら、俺達は家に到着した。
「父さん、腕が……!!」
「もう、限界!!」
「諦めるな!!母さんは、更に鍛えているんだぞ!!今年も負けてしまった以上、来年こそ勝つためにトレーニングだ!!」
「なんで母さん、あんなに強いんだよ!!」
「何時鍛えてるんだ……」
……サラサの家に着くと、サラサの家のマッチョマン達が、重いものを背負いながら腕立てをしていた。おびただしい汗で、地面が湿っている。どんだけトレーニングしてたんだ、この人達。
「おお、サラサ、ベイ君達、お帰り!!」
「ただいま、父さん。兄さん達。父さんたち、母さんに今年も負けたのか?」
「ああ、見事に投げ飛ばされてしまった。俺もまだまだだな。あれだけ鍛えても、母さんにまだまだ及ばない。……俺は、いい嫁を持てて幸せだ」
「……」
サラサが、人前でそういうこと言うのやめてくれないか。という顔をしている。サラサ的には、気まずい発言だったんだろう。
「やっぱり、母さんは別格かぁ」
「まぁな。冒険者だった頃の母さんは、今の父さんたちが使っている剣の二倍以上もでかくて重い剣を、軽々振り回していた。……ちょっとやそっとでは勝てないさ。だが、だからこそ勝ちがいがある!!だからこそ、トレーニングだ!!良し、お前たち頑張るぞ!!」
「お、おお……」
「もう既にキツイが、ここからだ……」
「ご飯が美味しく食べられそうだぜ」
「ご飯出来るまでにしようぜ……」
そう言いながら、マッチョマン達はまた腕立て伏せを始めた。凄い。すごい根性だ。
「私達は、先にご飯にしてしまおう。ベイは、先に身体を洗ってくると良い」
「では、私はご主人様に付き添いまして……」
「いや、お前はこっちだミルク」
「皆で、ご飯の用意しよう?」
「……分かりました、フィー姉さん」
「じゃあ、先に身体を洗ってくるよ」
そう言って俺は皆と別れ、身体を洗い。着替えて戻る頃にはご飯ができていた。それを皆で食べて、今日はさっと寝てしまうことにする。色々あったが、明日が祭りの最終日だ。楽しもう。そう思いながら、俺は目を閉じた。
「ん?」
窓の外から、何か音がする。少し外が明るいところからすると、今は早朝だろうか? 俺は、外に出てみることにした。
「お、起きたかい」
「おはようございます」
外に出ると、サンサさんが巨大な剣を片腕で振り回していた。……狭いところでは使いづらそうな巨大さだ。でも、あんなに軽々と持っているんだ。狭いところの戦闘では、拳で十分かもしれない。
「ふぅ、準備運動はこれぐらいでいいかな。サラサに聞いたよ、ベイ君も決勝出るんだって。……ちょっとこれ、持ってみるかい?」
「……はい」
俺は、サンサさんの剣を片腕で受け取ってみた。……まぁ、重いな。でも、振り回せないほどじゃない。試しに、俺は剣を振ってみることにした。
「ふっ!!」
なんと言ったら良いのだろう? 爆発音? まるで何かが衝突したかのような、変なズシンと来る音があたりに響いた。……近所迷惑だったな、これわ。
「……やるねぇ」
「ありがとうございました」
俺は、サンサさんに剣を返す。すると、サンサさんは嬉しそうに笑った。
「いい勝負が出来そうだ。楽しみにしてるよ、ベイ君」
「は、はい……」
そう言うサンサさんの筋肉が、一回り大きくなったかの様に俺は感じた。……この人、マジですげぇ。ガンドロス並、いや、それ以上の筋肉があの身体には漲っているのかもしれない。末恐ろしいな、エジェリン家わ。




