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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第二章・七部 エジェリン家と、祭りと……
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恐怖払拭

「……朝か」


 日差しが眩しい。寝たのは空が少し明るくなってきた頃だったから、そんな時間は経ってないのかもな。こんな明るいのに、他の皆は起きていない。むしろ気持ちよさそうに寝ている。


「顔でも洗うか」


 そう思い、俺は牛車から出ることにした。


「うん?」

「おお、ベイか。おはよう」

「ああ、サラサ。おはよう」


 庭に行くと、サラサが剣を振っていた。ビュオン、ビュオンと剣は音をたてて空を切る。……当たったら腕がちぎれ飛びそうな速度だ。サラサの身体には汗が湧き出て、その体を濡らしている。結構な量出てるな。今熱いからかも知れないが、結構な時間剣を振っていたんじゃないんだろうかと俺は思った。


「ふぅ……、水でも飲むか」

「お、なら一緒に行こうか」


 俺は、サラサと並んで歩き、水場に移動する。俺は顔を洗い。サラサは、飲み物を飲んでいた。


「うーん、父さんたちは今日は起きてくるのが遅いなぁ。まぁ、熊の見回りからの祭り参加で、かなり疲れが出てたみたいだからな。まぁ、仕方ないか」

「ああ、帰ってきてたのか」

「うむ。昨日我々が帰ってきた頃には、もう帰って寝ていたらしい。昨日の謎の気配で気絶はしなかったものの、そのまま倒れていた人達を運んでいたようだ。その時に、家族で誰が一番人を抱えて運べるか競争したらしくてな。それで更に疲れたそうだ」

「へー、まぁ、人助けしてるんだからえらいね」

「そうだな。そんな中で、そんな変な競争をしているのが私の家族らしいというか、何と言うか……」


 サラサは、何処か恥ずかしがっているように頭をかく。まぁ、確かに人が倒れている状況で競い合うというのもおかしな気もするが、結果的に素早く人を運んでいるわけだ。何も恥ずかしがることはないだろう。


「……あれは、何だったんだろうな。いや、お祖父ちゃんもあれに近い感覚を出すことも出来た。つまり、それ程の化物がいたってことでいいんだよな、ベイ」

「……ああ」

「やはり、ベイは凄いな。あんなの、私は今まで感じたことがなかった。幼い頃に、お祖父ちゃんについていった聖魔級ですら、あんな鳥肌と恐怖を覚えたことはない。……私は、まだまだ弱いようだ」

「……相手は、修業年数がサラサの何倍もあったような連中だからな。そんな簡単に追いつけはしないさ」

「そうか。……普通に鍛えていては、届きそうにない相手ということか」

「そうだな」


 サラサは、置いていた剣を再び握る。そして、俺の方に向き直った。


「ベイ、私と勝負してくれないか?」

「え?」

「しかもお前の、あの私が感じた恐怖を打ち破った全力の力でだ」


 ……一体化でってことか。それは、流石にやばいんじゃあ。


「何でそうしたいんだ」

「肌で感じたいんだ。強さを、まだ見ぬ先の強さを。それが、今の私を押し上げてくれる気がする。思えば、何時だって強いものの背中を見て育ってきた。いつかお祖父ちゃん達を超える。そう思って剣を振るってきた。だが、今の私には未知の強さへの恐怖しかないんだ。恥ずかしながらな……」

「……」

「だから、ベイ。お前の強さを見たいんだ。お前の強さなら、私は向き合える気がする。だから、見せて欲しい。お前の全力を」

「……後悔するなよ」

「するわけないさ」


 俺は、聞かされたサラサの話の中から、サラサ自身の真っ直ぐな強くありたいという感情を感じた気がした。だというのに、サラサは行き詰まっている。夫として、妻が困っているのなら手を貸すべきなのだろう。例え、それでサラサが俺に怯えることになったとしても。いや、サラサなら向き合えるはずだ。俺達の強さと。俺は、そう信じることにした。サラサを連れて、俺は転移する。そこは、水属性神魔級迷宮の雪山前の洞窟であった。ここなら、誰にも迷惑はかけないだろう。


「いくぞ」

「ああ」


 サラサが武器を構える。俺は、目を閉じて皆の召喚を解除した。そして、一体化を発動させる。


「うわぁ!!」


 強い風が、辺りに渦巻いた。剣を構えていたサラサは地面に剣を突き刺し、突風に耐えている。少しこちらからも魔法でサラサに向かう風を防御しているのだが、思ったより風が強いようだ。だが、そんな強い風のなかでもサラサは飛ばされること無く耐え切った。


「これが、俺の。いや、俺達の全力だ」

「す、凄いな」


 サラサは、改めて剣を構える。だが、不思議そうにその目は俺達を見ていた。


「あまり、恐怖を感じないな。いや、あり得ないほど強いということは分かるのだが……」

「ああ。普段俺達は、強さで周りに被害が出ないように、魔力の流れをコントロールしている。それを今から解除していく。それで、サラサの求めている感覚が得られるだろう」

「そういうことか。……では、頼む」

「ああ」


 俺は、徐々に魔力隠蔽を解除していった。段階を追うごとに、サラサの身体から嫌な感じの汗が流れ始める。時折身を震わせ、その度にサラサは口などに力を込めて、恐怖を振り払っているようだった。ある時、サラサの足が一歩後ろに移動する。それが無意識だったのか、その事実に気づいたサラサは、ひどく辛そうな顔をしていた。俺は、そこで一旦解除するのを止める。


「やめておくか?」

「いや、続けてくれ……」


 更にゆっくりと、俺は魔力隠蔽を解除していく。サラサの口元はガクガクと震え始め、身体から震えを止めることが出来なくなっていた。力を入れることも辛くなったのか、サラサは跪くようにして辛うじて意識を保っている。


「もう、無理だな」

「……」


 サラサからの返事はない。そこで俺は、魔力隠蔽を元に戻した。


「くっ、はぁ!!」


 大きく息を吸い込むようにサラサは起き上がった。まるで、先程は何かに締め付けられていたかのように、大きく荒く息を吸う。自分で言うのも何だが、サラサレベルの強さの人間を、ただの雰囲気だけで押し殺せるようになっているんだな俺達は。……超兵器すぎる。


「はぁ、はぁ」

「どうだ、何か得られそうか?」

「ああ。……最高だ。これ以上ない体験ができた」

「そうか」


 俺は、一体化を解除する。寝起き直後のフィー達が、その場に着地した。


「あんまり無理しちゃ駄目ですよ、サラサ。今の、死んでてもおかしくないですって」

「だが、私は分かる気がするな。要は慣れだ。ランクが強い相手と対峙したのなら、その下のランクの相手にはある程度耐性がついた状態で挑める。サラサがやりたかったのは、そういうことだろう」

「ええ、それもあります。それに、この間近で対峙したことによって、どれほどの強さか大まかにですが気の大きさに換算して分かった気がしました」

「ほう、そんなことが分かるのか?」

「ええ、本当に体感で大まかにですけどね。……一朝一夕では、無理そうです」

「そりゃあそうでしょう。なんてたって、私達の奥の手ですからね。そう簡単には……」

「ええ。でも、近づいてみせますよ。必ず……」


 そこには、先ほど死にかけていた表情のサラサはいなかった。むしろ、今の表情は熱く煮えたぎるかのような情熱を宿しているように見える。どうやら、恐怖を飲み干したらしい。サラサはやはり凄い。俺はそう思った。




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