ニンジャと嫁と
「という訳で近々アリーが帰ってくる」
「わ~~い!!」
というか俺とフィーしかアリーのこと知らないな。顔を合わせして大丈夫だろうか? レムとミズキはいいんだけど、ミルクがヤバそうな気がする。いや、絶対にヤバイ。
「(ほう、噂のアリーさんですか。ついに初顔合わせというわけですね)」
「私も会ったことがないんだが。主、どんな人なんですか?」
「私も皆様のお仲間に入ったばかりなのですが大丈夫でしょうか?」
皆、それなりに不安らしい。特にミズキは、仲間に入ったばかりだし俺達のこともまだ分かっていない状態だから不安も高いだろう。
「大丈夫だ。基本的には、いい子だよ。アリーは、魔法の扱いがとにかく上手い。皆がいなかった時は、一緒に魔法の訓練をしたり研究をしていたんだ。赤い髪と鋭い目が特徴の可愛い女の子だよ」
「(ふ~む、ご主人様に可愛いと言わせる容姿なわけですね。……胸は!!胸は、どうなんですか!?)」
「え?む、胸は、まだ成長してないんじゃないかなぁ」
「(なるほど。膨らみかけか貧乳の可能性があるわけですね)」
アリーを語る上で胸の情報は重要なのだろうか? 俺はそうは思わないけれどミルクは、滅茶苦茶真剣に考えている。
「(ボリュームでこの私が抜かれることはなさそうですね。ご主人様が可愛いと言うということは、全体的にバランスの取れた体型をしているということでしょう。ギャップがないというのも加点対象にはなりませんがストレートでグッド。さらにご主人様が可愛い美少女と認めている時点で戦闘力は更に跳ね上がるわけですから。ふむ、なかなかに出来る乙女のようですね!!)」
「き、きき、緊張します」
「そう固くならなくていいよミズキ。あれ?ミズキ。そういえば触手は、どこにやったんだ?」
今のミズキからは、触手が見えない。確か後ろ髪辺りから生えてたと思うんだけど?
「あ、これですか?大きさを自由自在に変えられるんです。小さくすれば髪に隠せますので人間と大差なく見えると思います」
ミズキは、そう言って触手をニョロニョロさせる。結局ミズキは、タコなのかイカなのか分からない。両方? ……いや、ミズキはニンジャだ。そういうことにしよう。
「まぁ、ミズキの正体が出回っているのは、触手部分だけだし。それならバレないから普通に出歩いてもいいかもな。フィーもレムも、普通にしてれば魔物だと分からないと思う」
「なるほど。人中での護衛が出来ないのは、そこの牛だけなわけですね……」
「(牛!!いや、牛ですけどね!!ちょっと言葉に刺がありませんか!!)」
ミズキは、ジト目で俺の中のミルクを見ている。いや、そんなに見ても俺しか見えないと思うが。
「(くっ!!私も人化!!人化さえすれば!!)」
またミルクの心の傷がえぐれていく。ミルク、強く生きろ。
「ミズキちゃんは、なんでお顔を隠しているの?」
「それはですね、フィーさ……。ごほん、フィー姉さん。私が迷宮にいた頃に来た冒険者の真似です。つまりこの服装は、厳密に言えば冒険者への変装なんです。それに、私のこの口を見てください」
そう言ってミズキは、口を開ける。そこには、見事なギザ歯が見えた。すごくどの歯も尖っていて並びが良く鋭い。ライト当てたらキラーンって光そうだ。
「今まで見た冒険者でこのような歯をしている者はいませんでした。なので顔を隠すのは、私としても都合がいいのです」
「(ああ、それだけ尖ってるとご主人様がつらそうですね。いや、むしろそれがいい場合も……)」
ミルクは、無視したほうが良さそうだな。……触らぬ神に祟りなし。
「じゃあミズキは、何を食べるんだ?魚か?」
「食べ物ですか。あの迷宮にいた水属性魔物は、大抵食べてましたね。固い殻に身の入ってる……、貝?でしたか。あれとか好きですね。勿論、魚も好きです」
なるほど、魚介類系かぁ。これは、食料の確保にちょくちょく水属性迷宮に行かないといけないかもなぁ。
「(私は、主食が草ですからね。いつでもどこでも大抵大丈夫です。しかもこう見えて少食なんですよ)」
「……」
ミズキは、怪しいという目でミルクを見ようとする。俺しか見えないと思うが。だが実際、ミルクの言っていることは正しい。おそらく魔力で補ってるんだろう。じゃないと説明がつかない。
「そういえば、レムも人化したのに何も食べないよな」
「はい。今の私は、味覚もありますがフィー姉さん同様魔力で充分活動が出来ます。無理に食べる必要は、なさそうですね」
う~ん、と言ってもせっかくだし皆で何か食べるのもいいかもしれないなぁ。フィーも、ミルクの牛乳なら飲めるみたいだし今度考えてみるか。
「主、そろそろ夜も深けてまいりました。お休みになりませんか?」
「うん?もうそんな時間か。取ってきた素材の整理に時間がかかったせいだな。よし、寝よう」
「では……」
フィーとレムが先にベッドに入って真ん中を開ける。う~ん、また動けなくなるな。
「お二人は、そうやって夜の護衛をされているのですね。では、私は……」
ミズキは、音もなくジャンプして天井にへばり付く。やはりニンジャだ!! 俺の目に狂いはなかった!!
「私は、ここで護衛と睡眠をさせていただきます」
天井に張り付いて寝るなんて昔見たニンジャそのものだ。すごい!! 俺は、ミズキを尊敬の眼差しで見ていた。
「(よかった。股下のポジションは、守られましたね)」
ミルクは、変な安堵をしていた。
「よし、それじゃあ寝るか」
「……待ってください、主」
レムがいきなり真剣な顔付きになった。一体なんだ?
「高速でこちらに向かってくる者がいます。恐らく、風魔法ですね」
風魔法でこっちに向かってくる? いや、でも手紙今日来たばっかだしなぁ。
「あっ。これって、もしかして」
フィーも気づいたらしい。この反応。俺の考えは、どうやら当たっているようだ。
「どうされます、主。迎撃しますか?」
「あ、いや、しなくていいよ。どうやら噂の人が来たみたいだ」
程なくして俺の部屋の窓がノックされる。玄関から入ってくればいいのに夜遅くだから遠慮しているんだろうか。俺が窓を開けると、俺と同じ黒い旅用ローブを着た赤毛の女の子が俺に勢い良く抱きついてきた。
「ベイ、ただいま~~!!!!」
アリー・バルトシュルツの帰還である。俺もアリーを抱きしめ返そうとした、が。
「チュッ!!」
「!!!!」
そのまま唇を奪われた。ふぁ!? ファーストキスだ、これ!!
「「「「!!!!」」」」
「チュッ、チュッ、チュッ❤❤」
俺も皆も余りにも想像を超えた展開に固まっているがアリーのキスは終わらない。口の次は頬、額、首筋と移って口に戻り。また数回口にキスをされた。目を閉じてキスをしてくるアリーは、まさに天使そのものだった。キスを終えた後瞼を開けたアリーの瞳は、情熱的に潤んでいる。それは、まさに恋する乙女の瞳だった。そんなアリーを見て心が押さえきれなくなった俺は、そのままアリーの口にキスを返した。するとアリーは、また嬉しそうに目を閉じて数回軽いキスをしてくれた。
「おかえり、アリー」
「ただいま、ベイ」
熱い吐息を吐きながら俺とアリーは、お互いを見つめ合った。やばい!! 久しぶりのアリーの威力がやばすぎる!! もうアリーのおかげで俺の頭の中は沸騰しそうだった。
「(な、なんじゃこりゃあああああああああああああああああ!!!!)」
ミルクの叫び声が部屋に響く。俺達の会話は、風魔法で音を遮断しておこなうので外に漏れることがない。ミルクの声は、元々念話なので外に漏れることがないのだが漏れていそうなほどでかい叫び声だった。アリーは、部屋にいるフィー、レム、ミズキを見る。そして、フィーに笑顔で手を振って、フィーも嬉しそうに手を振り返した。
「というわけで、私がアリー・バルトシュルツ!!ベイの未来のお嫁さんよ!!皆、よろしくね!!」
帰ってきたアリーは、色々な意味でパワーアップしていた。