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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第二章・七部 エジェリン家と、祭りと……
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ベイ式メンタルケア (一日目総まとめ編

「よ、よろしくお願いします……」

「あ、はい、よろしくお願いします。何処をお揉みいたしましょうか?」


 部屋に帰ること僅か2分で、次のお客さんが入ってきた。どこかで待ってたのかな? 玄関に行くまでには見なかったし、待合室的な場所があるんだろうか、この店。見て回る暇もなかったからよく分からないが、多分そうだろう。


「えっと……、最近あちこちが痛くて……。全体的にって出来ますか?」

「ええ、大丈夫ですよ。それじゃあ、そこのベッドに仰向けで寝そべって下さい」

「は、はい」


 しかしなんだろう。なんだか、このお客さんには警戒されている気がするなぁ。髪は短めで、動きやすい格好をしている。この時期に外に出ているからだろうか、シャツを着ている隙間から、日焼けと白い素肌の焼け目を見ることが出来た。健康的だなぁ。だが、そんなアウトドアな肉体的特徴とは裏腹に、彼女自身からはインドア派な印象を受ける。なんでこんな子が冒険者をやっているんだろうか? 人に歴史ありって感じだな。


「……お客さん、お名前は?」

「あ、ミセ……、って言います」

「ミセさんですか。それでは、腰から揉んでいきますよ」

「はい」


 俺は、柔らかめにミセの腰を揉んでいく。……凝ってるって感じじゃないな。と言うか、華奢だ。華奢すぎる。冒険者ですって言われても、信じ切れないほど華奢だ。筋肉がない。だというのに、彼女の動きはぎこちなかった。かなり無理してるのかもしれないな。


「ミセさん、だいぶ身体に無理させてらっしゃるみたいですねぇ」

「やっぱり、そうなんですか。私、冒険者になったばかりで体力無くて。今も、本当に辛いんです」

「……まだ一ヶ月くらいですか。この身体の感じだと……」

「あ、そうです。良く分かりますね」

「いえ、ただの感ですよ」


 こんな暑い時期から始めて1ヶ月か……。そりゃあ、暑さに体力を奪われて、肉体的回復も難しいだろうな。それはキツイだろう。


「何で、そんな肉体的に厳しいことをされてらっしゃるんですか?」

「あ……。私、家族が冒険者でして。私も、色々と教えて貰ったんです。迷宮での立ち回りとか、魔物の対処法だとか。でも、私は過保護っていうんですかね。そう言う風に育ってられてきました。おかげで、肉体的にも全然頑丈になれなくて、でも、私家族と同じことをしてみたかったんです。それで……」

「なるほど。夢があっていいですね……」

「はい。辛いですけど、凄く楽しいです。家族が言うには、しばらくしたら慣れるって言うし、それまで頑張ろうかと……」

「……」


 彼女はやる気だが、魔法使いでもなく冷却も出来ない冒険者が、この熱い中で体力を維持するのはかなりきついだろう。その中で、今のように無理して頑張っていけば、そのうちミセは倒れてしまうかもしれないな。……超、超、超軽めに初級回復魔法をかけておくか。これで、大丈夫だろう。特に目立った外傷もないし。これぐらいの体力の回復になら、十分なはずだ。


「ふぅ……」


 お、いいね。リラックスしたような息遣いだ。これなら問題無いだろう。後は揉んで、血行を良くするだけだな。今回は問題なく終わりそうだ。俺はそう思って、ひたすらミセの身体を揉んでいった。


 そして15分後。


「あっ……、んっ!!」

「……」


 お、おお、お、落ち着け!! やはり駄目なのか!! 駄目なのか!! 困惑しながら、俺はミセを揉んでいる。すでにミセの顔は赤い。照れたように目をつむりながら、感覚に身を任せている。俺がそのまま、当たり障りない腰らへんを揉んでいると。ミセは、ゆっくりと俺の腕を握ってきた。


「あの、ミセさん?」

「……すみません、でも、なんだか落ち着くんです。もう少し、このまま……」


 俺は、手を握られたまま考えた。これなら時間も持つし、相手に変な刺激も与えない。一番いい状況なんじゃないか? っと。それにお客の要望であるのだし、俺に落ち度はない。ならば、このままで行こう!! 俺はそう思った。だが、次の瞬間。


「……」


 ミセは、そのなだらかな胸へと、俺の手のひらを寄せた。心臓の音が、手のひらを通して伝わってくる。本日2回目の感覚だ。


「落ち着きます……」

「そ、そうですか」


 ミセの服が、着崩れて日焼けあとが見えている。艶めかしい。トロンとしたような目をしてミセはこちらを向くと、唇を僅かに向けて目をつむった。……ああ、これは。


「落ちたわね」

「落ちましたね」

「本日二人目、記録は15分っと……」


 なんて、アリー達は言ってるんだろうなぁ。さて、どうするか。空気を読んで、キスするという選択肢はない。どうやってやんわり断るかだな。多分、したら止まらんだろ。ミセが。……あれだ、頭を撫でて落ち着かせよう。そう思って俺は、空いている腕をミセの頭の上においた。


「ミセさん、そういうのは好きな人とするべきですよ」

「あ……」


 ミセは、俺に頭を撫でられるとくすぐったがるように微笑んだ。キスをやんわり断りはしたものの、上機嫌のようだし、作戦は成功といえるだろう。良かった。なんとか切り抜けた。


「ちゅぱっ……」

「?」


 ミセが、俺の腕の指を咥えている。幸せそうに、俺の腕に小さく無数のキスをして来た。……切り抜けれてなかった。失敗した。


「ごめんなさい。止まりません……」


 そう言うと、甘えるように俺の腕にミセは頬ずりをしてくる。そして起き上がると、俺に抱きついて首筋にキスをして来た。……あれだな、なんだか甘えられてるって印象が強いな、これは。もしかして、発散の仕方を知らないのか? いや、この考えはやめておこう。俺は、必死に体を擦り付けてキスをしてくるミセの背中をよしよしと撫でた。時折、ミセがびくっと体を震わせる。30分近くになると、ミセは俺をギュッと抱きしめたまま嬉しそうに微笑んでいた。


「胸がいっぱいです……」

「……お時間になりましたよ~」


 そっと、空気を読むかのようにロデが入って来た。ミセは、ロデに見られて少し恥ずかしそうにしていたものの、それでも離れてはくれなかった。わざわざ俺が着替える控室まで送って、そこでやっと離れてくれた。帰る際にも、俺の腰に手を回して最後まで離れたくなさそうだった。あれだな、なんだか心が痛むなこの仕事。一回一回、別れが辛すぎる。


「またリピーターを獲得してしまいましたね、ベイ君」

「もう、やめないか?なんだか、俺が辛くなってきたよ」

「えっと、すいません。また、もう次のお客様が……」

「えっ!!さっき見た時は、誰もいなかったぞ?」

「控室は、複数作ってあるんです。お客様にくつろいでいただけるように、1人1待合室と言う感じでして」

「マジかよ」


 仕方ない。俺は、仕事場に戻って行った。結論から言うと、この後5人ほどお客さんの相手をした。ロデが気を利かせて、3人めで呼びこみは辞めたらしいのだが。時既に遅く、その日の予約時間を上回る人数が後で押し寄せてきたらしい。一切回復魔法を使わず、揉みだけで良かったお客さんもいたのだが、結局最後の結果は変わらなかった。あれだな、やっぱ俺まずいは。この仕事、続けてたらいけない人だわ。国に目をつけられてしまう。そう思いつつ時間が過ぎ、本日の閉店時間となった。さて、微妙な気持ちだが表彰式に行くとするか。俺は着替えて、いつもの戦闘服に身を包んだ。やっぱこっちのほうが落ち着くな。腰のサリスを握りながら、俺はそう思った。


「一人目が10分、二人目が15分、8分、17分、9分、21分、5分。うーん、まばらですが恐ろしい速さですね」

「後は、私達が受けてみて威力を再確認する必要があるわね。それで、調査は良しとしましょう」

「明日はどうします?やめときます?」

「……彼女達、開店してないと落ち込むでしょうね」

「そうですね……」

「やるしか無いわね……」

「はい……」


 アリーとロデは、このお店を始めたことを少し後悔していた。



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