ベイ式メンタルケア (客引き編
「お、スープか」
家に入ると、美味しそうな匂いがしていた。たっぷりの野菜と、お肉を具にしたスープをアリー達が用意してくれる。それと、やわらかいパンを一緒に食べた。美味い。いい組み合わせだ。牛乳も、いつもより美味しく感じる。ごくごく飲めるぞ。
「お、おお!!」
「……ミルク、座りなさい」
ミルクは相変わらずだ。ああー、食べた食べた。朝食べれなかったから、余計美味しく感じた気がする。うん? ロデとロザリオが、アリーに話をすると小さく俺に手を振って出て行ってしまった。……マジでやるのか、あれ。冗談じゃないのかよ。数十分後、2人がにこやかな笑顔で帰ってきた。
「タダで、場所を借りれました!!」
「余ってるスペースを無料で貸してくれるなんて、気前のいい町ですね」
「……多分、町の祭りの資金を、近場の鉱山関係の商業組合からがっぽり貰ってるからだろうな。場所代で、お金を取る必要が無いんだろう」
「なるほど……。それならタダだったのも納得ですね」
「さて、急いで店を作りましょう!!」
「……何処だ、場所は」
スッと、ミズキが立ち上がる。あ、これはすぐにでも店が建つぞ。俺には分かる。嫌だなぁ。そう思っていると予想通り、20分後には立派な店が建っていた。祭りの間だけの店には見えんな。マジで営業してそうな店構えをしている。
「ミズキさん、素晴らしいです!!」
「ありがとう。あと、殿の服も作ったぞ」
「えっ?俺の服?」
「これです」
「……何と言うか、やたら動きやすそうな服装だな」
「ミルクのイメージで、揉み師が着てそうな服をデザインしてもらいました。ささ、中で着替えてください」
「あ、ああ……」
「私は、客引きしてきますね。さて、いいかもは何処かな~」
ロデが、嬉しそうに広場に向けて移動していく。この店があるのは、広場からちょっとそれた細い小路の中ほどだ。かなり怪しい位置な気がする。まぁ、ここまで来たらやるしか無いんだろうなぁ。はぁ……。俺は、しぶしぶ着替えることにした。何と言うか、本当に運動でもしそうなラフな格好だ。家で、この姿で寝転んでても全然違和感がないだろう。日本だったらの話だが。
「とりあえず、待つか」
俺は、1つ置かれたベッドの横の椅子に腰掛けて待つ。お客が来るかもしれないので、姿勢は正したまま座っていることにした。……しかし何だ、落ち着かないな。いつも感じている、腰の辺の重みがない。サリスを装備したままマッサージするわけにも行かないからな。仕方ないっちゃー、仕方ないんだが。あんなことがあった後だからな。武器を、装備していたい気がする。まぁ、呼べばアルティがすぐに来るんだけど。やっぱ、持ってると安心感あるよね。
「お、いい人み~つけた」
その頃、ロデは広場でお客を探していた。その中で、ロデは一人の女性冒険者を見つける。短い金髪、褐色の肌、整った可愛い顔。鎧を着込んでいるが間違いない。彼女は、そのあふれる豊満な肉体を持て余している!! そうロデは確信した。1も2もなく、ロデはその女性に声をかける。
「あの、すいません。ちょっといいですか?」
「うん、あたし?どっかであったっけ?」
「いえいえ、そういうわけでは御座いません。それはそれとして、貴方、足を痛めてらっしゃいますね?」
「ああ、そうなんだよ。朝の熊狩りで気づいたら気絶しててさー。起きたら足を捻っててね。いやー、参ったよ」
「その痛み、お安く直せますよ」
「え、本当?胡散臭いなぁ……」
「いえいえ、至ってまともな商売ですよ。うちの店で揉みほぐしを受ければ、そんな傷もたちどころに元通りに。更に、日ごろ疲れた身体もリフレッシュすること間違いなしです」
「へー、なんだかうますぎる話だね」
「実は、このお祭りだけの限定開店なんですよ。しかも、今日が開店初日でして。その為の特別ご奉仕価格だと思って頂ければいいかと」
「なるほど。安いのは今だけって訳かぁ……」
「一度その揉みほぐしを受けて頂ければ、その凄さがわかると思います!!きっと、満足なさると思います」
「……で、いくらなの」
「この町でその傷を直すとなると、回復魔法師のお店だと1200といったところでしょうか。ですがうちは、なんと600です」
「おお、半額……」
「ですが、回復に30分ほど時間がかかるかと。それでもよろしければどうです?揉みほぐしを受けてみませんか?」
女性冒険者は、腕を組んで悩んでいる。後、ひと押しかな? ロデはそう考えていた。
「治らなかったらどうする?」
「お金をお返ししましょう」
「よっぽど、自信があるんだね」
「ええ、腕の良い従業員がいますので。ただし、男性のかたなんです。そこは大丈夫でしょうか?」
「ああ、そこは別にいいよ。痛いの足だけだし。それぐらい気にしないなぁ……」
(勝ったな……)
ロデは確信した。冒険者にとって、身体の不調は商売の邪魔になる天敵のようなものだ。すぐに治したいに決まっている。それも、出来れば安く。必ず釣れるという確信が、ロデにはあった。ただし、一度入ったら出られなくなるであろう、強烈な仕掛け付きではあるが……。ロデは、心のなかでニヤリと笑った。
「うーん、試しに行ってみようかなぁ……」
「ありがとうございます。それでは、こちらに付いて来て頂けますか」
その女性冒険者を先導して、ロデは歩いて行く。内心で高笑いを上げながら。
「お客来るな、お客来るな、お客来るな」
そんなことをつぶやいたところで、ロデは客を連れてくるだろう。何故だか、そんな気がする。そして予想通り、待機していた部屋の扉がノックされた。お客が来た合図だな。仕方ないので、俺は立ち上がる。
「失礼します。ベイ君、お客さんを連れて来ましたよー」
「こんにちは~」
「あ、どうも、初めまして」
ロデの後についてきたお客さんは、かなり巨乳の冒険者の方だった。何故冒険者って分かるのかって? 筋肉が付いてるのがわかるからだな。多分、普段は重い鎧でも着けているんだろう。今は、かなり動きやすい格好をしている。前の部屋で、脱いだのかもしれないな。
「こちらのお客様、脚を捻ってしまったそうです。そちらの治療をお願いします」
「え?」
「(回復魔法、使えるよねベイ君。さっと治して、後は揉みほぐしてあげて)」
「(いや、俺の回復魔法はちょっと……)」
「(出来ないとちょっと困るから、よろしくね)」
「(ええー)」
「それではお願いします。では、ごゆっくり……」
女性冒険者と俺を残して、ロデは出て行ってしまう。……気まずい。
「えっと、脚でしたね。それではベッドに腰掛けて、こちらに見せてください」
「あ、はい」
やれやれ、やるしか無いか。俺は、素人だが素人なりに仕事をしようと、目の前の彼女と向き合うことにした。
270回目の更新です。まぁ、話は結構進んでる方ですかね。まだ、2部で予定している話は残ってますけど。……ゆっくりお付き合い下されば嬉しいです。よろしくお願いいたします。