説得・魔法
「(という訳でお願いします、ご主人様!!)」
「いや、どういう訳だよ!!」
「(まぁまぁ、この子を迷宮の呪縛から解き放つためだと思って。それにご主人様、この「迷宮の敵め!!お前ら皆殺してやる!!」なんていう子が「ふえぇぇ、ご主人様の子供いっぱい産ませてください……」なんて言うようになったら、こう、なんと言いますか。グッと来ると思いませんか!?」
「いや、だからなんでそうなるんだよ!!」
「(ご主人様の回復魔法を味わえば。ふふっ、この子もいずれそうなりますよ……)」
ニヤッ、としか取れないような表情をするミルク。その顔を見てか、ニンジャ娘の顔色がどんどん青くなっていった。
「(おやおや~、顔色が悪いですね。これはいけません。ささっご主人様、是非回復魔法を!!)」
「ぐ、ぐぬぬ……」
何故俺が、ぐぬぬ、なんて言わなければいけない状況が出来ているんだ!! これも全てミルクが悪い!!
「マスター!!始めは、初級回復魔法からにしてあげてください!!」
「そうですね。いきなりで身体が耐えられ無かったらいけません。主、それで行きましょう!!」
レムやフィーまでやたら乗り気だ。耐えられないとか、一応回復魔法なんですけど。……何故だ!! ここに俺の味方は一人もいないのか!!
「ふっ、どんなことをしても無駄だ。私の考えを変えることは出来ん」
精一杯強がるニンジャ娘。あっ、なんか可愛い。
「(だ、そうですんで。ご主人様、さぁさぁどうぞ!!)」
「くっ!!」
俺は、しぶしぶといった感じで回復魔法をニンジャ娘にかける。まずは初級回復魔法・キュアだ。
「……なんだ、たいしたことないな。この程度か」
さっきまで顔が青かったニンジャ娘だが、少し落ち着いた顔色になってきた。安堵しているニンジャ娘だが、その顔を見て俺以外の全員がニヤけている。フィーも、レムですら。いったいどうなっているんだ。とりあえず続けて中級回復魔法・ライトキュアをかける。
「心地いい……。ハッ!!イカン、イカン!!おのれ、本気を出してきたか!!」
俺は、回復魔法をかけてるだけなんですけど。続いて上級回復魔法・ホーリーキュアをかけた。
「なっ、うぐぅぅぅぅぅ❤こ、こんな、ひうぅぅぅぅぅぅ❤げ、外道、いぃぃぃぃ❤」
ここらへんになると皆、ああ分かる分かる。みたいな顔をしていた。それじゃあ最後に……。
「(おっと!!待ってくださいご主人様!!)」
ミルクのストップが入る。ミルクは、回復魔法で顔が赤くなり小刻みに震えているニンジャ娘に近づいた。
「(どうです?そろそろ我々の仲間に入りたくなってきたんじゃありませんか?)」
「くっ!!私は、この程度で屈したりしない!!」
「(言っておきますが次は、今までの比ではありません。強烈なのが来ますよ?まぁまだ私は、浴びたことないんですけどね。どうします?仲間になりますか?それともこのまま……)」
「な、なんだと!?……わ、私は負けない!!」
「(ふふふ、いい覚悟です!!いいでしょう!!私より先にご主人様の聖魔級回復魔法を浴びる栄誉をあげましょう!!さぁ、ご主人様!!トドメをどうぞ!!!!)」
トドメって。……俺は、聖魔級回復魔法・ヘブンズキュアをニンジャ娘にかけた。
「んうぅぅぅぅっ❤❤❤❤!!!!」
甘い声を出し顔を真っ赤にしてまるで身体に電流が走ったかのように大きく震えると、ニンジャ娘はその場にゆっくりと力なく倒れた。俺が、それを抱き支える。
「(ご主人様!!そのまま一気に落としてください!!)」
「マスター、ファイト!!」
「主、頑張ってください!!」
皆が声援をくれる。でもこの状況は、何かおかしい気が俺はしているんだけども、皆はあんなだしこう思っている俺がおかしいのだろうか? いや、そんなはずがない!! 後ろの声は気にせず、俺は俺なりに説得してみよう。そうしよう。それが、まともな仲間の勧誘のやり方のはずだ。
「んっ❤」
ニンジャ娘が気がついた。その瞳は、真っ直ぐに俺を見つめ熱を帯びたように潤んでいる。そこにさっきまでの敵意はかけらもない。これなら落ち着いて話が出来そうだ。
「……君は、冒険者を襲いすぎたんだ。ここに来ている大半の冒険者は、君を倒しに来ている。君がいくら強くても、このままじゃ君は死ぬだろう。それに、君を目当てに冒険者が更に多く出入りするようになってくる。君が冒険者を撃退すればするほどその数は増えるだろう。そうなるとこの迷宮は、冒険者達に狩りつくされて迷宮としての機能を失ってしまう。君が原因でね……」
「……」
ニンジャ娘は、黙って俺の話を聞いていた。
「迷宮と君のために今すぐこの迷宮を離れた方がいい。そうすれば君が出なくなったと知った冒険者達は、引き上げていくだろう。君も、命を狙われなくてすむ。君は優秀だから、一人でも迷宮を離れてもやっていけるだろう。でも、良かったらでいいんだ。俺達の仲間になってくれないか?俺達は、仲間になってくれる魔物を探して迷宮を周っているんだ。君は、うちのミルクの攻撃をいなせるほどの技術があるし。魔法でもミルクの防御を崩せそうなほどの手数が出せていた。そんな強い君が欲しいんだ。うちに来てくれるなら魔力も何とかしてあげられるし、今よりもっと君は強くなれると思う」
「今より、もっと……」
「ああ。俺達は、いずれもっと強い魔物が居る迷宮を探索しに行く。自分が強くなるために、まだ見ぬ仲間を探しに行くために。だから頼む。この先の戦いで俺達が生き残るために君の力を俺に貸してくれないか。悪いようにはしない」
「……」
ニンジャ娘は、フィー、レム、ミルクを見る。皆、今は穏やかに笑っていた。ニンジャ娘は、最後に俺を見て。
「……名前を」
「うん?」
「あなたの名前を、教えていただけますか?」
「俺は、ベイ。ベイ・アルフェルトだ」
「ベイ・アルフェルト。……分かりました。私は、今から迷宮のために迷宮の番人をやめ、ベイ・アルフェルト、あなたと共にあることを誓いましょう」
その瞬間後ろでミルクが。
「(うひょ~~!!落ちました、落ちましたよ!!!!な、なんというか、えろいですね!!)」
と言いながら拍手をしていた。フィーもレムも。
「やった~~、よろしくね!!」
「これからよろしく頼む」
と言いながら拍手をしている。俺は、召喚魔法の魔石を出してニンジャ娘と契約を始めた。ニンジャ娘に魔石に魔力を流してもらって名前を考える。よし、決めたぞ。
「今日から君の名前は、ミズキだ。よろしく頼む」
「ミズキ。はい!!このミズキ、これからベイ・アルフェルトどのを仕えるべき殿として全力を尽くします!!」
こうして俺とミズキの召喚契約は、無事に成功した。魔石もミズキの魔力でミズキ専用の青色の魔石に変化する。
「……でも私、あの牛は嫌いです」
「(え!?)」
ミズキは、ジト目でミルクを見つめていた。
「う~ん、そろそろ帰る時間になってきたかな?」
洞窟から出ると空は、そろそろ日が沈みそうになっていた。レムに転移魔法を使ってくれるように頼む。
「……、お世話になりました」
転移する前にミズキがそうつぶやいていた。転移して家の近くについた俺は、皆の召喚を解除してミズキを魔石に入れ家に帰る。
「(ここが魔石の中ですか。むぅ~、なんとも落ち着く空間ですね)」
「(でしょ、でしょ!!)」
「(ふふ、ご主人様の魔力に包まれてますからね)」
「(うむ)」
なんというかうちのチームもだいぶ賑やかになってきたなぁ。大半は、ミルクのせいな気もするけど。しかしここ最近は、あっという間に日々が過ぎていくな。レムと出会って、ミルク、ミズキと仲間が増えた。う~ん、アリーを見送った頃に比べると劇的な進歩だ。そういえば、もうそろそろ……。
「あら、おかえりなさいベイ。そうだ、あなた宛に手紙が来てるわよ!」
家に帰ると、カエラがそう言ってきた。手紙を俺に送るなんて、相手は1人しかいない。
ベイ!! そろそろ長期の休みに入るわ!! 数日中にそっちに戻るわね!! 待ってて!! アリーより。
内容は、そんな短い文章だった。