ベイ式メンタルケア(女性冒険者に使った場合
「さて、これで全員かな……」
「熊の方も、捌き終えましたかね、カザネ?」
「ええ、これで危険もないでしょう」
……カザネが、いつの間に離れていたのか俺達のもとに戻ってくる。まさか、倒れていた熊を全部1人で倒してしまったのか。仕事が速いなぁ。
「うん……、一体何が?」
どうやら、冒険者達が気づき始めたようだ。目を覚ましたと思われる冒険者は、まず腰辺りに手を伸ばして武器を確認しようとする。その後、異常がないか辺りをキョロキョロと見回していた。その冒険者に釣られたかのように、他の冒険者も目を覚ます。何やら、肩を抱えて震えている女性も居るようだ。俺達はなんとも無かったが、クローリはそれほど強い相手ということだろう。あの冒険者の子に、変なトラウマでも芽生えてないと良いのだが……。
「ベイー!!」
「ああ、アリー。ここだよ!!」
アリーの声がしたので、俺はアリーを呼んだ。すると、アリーだけでなく、サラサ、ヒイラ、レノン、サラ、ロデ、ロザリオ、ニーナ、レラも一緒に来ていた。……なんだか皆、重武装だな。ニーナなんて、ビクつきながら周りを警戒している。どうしたんだ、一体。
「ベイ、変な圧力をさっき感じたんだけど、倒した?」
「ああ……、逃げられた」
「逃げられた?ベイから?」
「ああ。二重に転移魔法を唱えられてね。相殺しそこねてしまった……」
「なるほど。巧妙な魔力の隠蔽をされた訳ね……。それなら仕方ないわね」
「ベイ君、大丈夫だった?」
「只ならぬ敵がいたようだったが?」
「私、震えが止まりません……」
「まぁ、何とか追い払えたよ。だから、安心していいと思う」
俺がそう言うと、レラもサラサもニーナも、武器を握っていた手の力をゆるめた。
「ベイ君、私こわーい!!」
「私も!!」
レノンとサラは、そう言いながら俺に抱きついてくる。冗談で言っているように周りには聞こえるセリフだが、2人の身体は小さく震えていた。よしよしと2人をあやすように撫でていく。すると、2人の体から震えが引いていくのを感じた。
「ロデ、私達も行きましょう!!不安を払って、役得を得るチャンスです!!」
「……完全にプラスね。いいわ、行きましょう!!」
そう言いながら、ロデとロザリオも抱きついてくる。2人が抱きついてきたところで、アリーが手を叩いて注目を集めた。
「はいはい、何でここに来たのか忘れたの?」
「あっ」
「そうですね」
「はぁ……、ベイ、お昼よ」
「ああ、もうそんな時間か……」
俺は自分の腹を撫でた。そう聞くと、お腹が減ってきたような気がするな。
「というわけで、家に戻りましょう、皆」
「「「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」」」
「おっと、その前に!!」
ミルクが、サンサさんに駆け寄って何かを聞いていた。そして、足早にこちらに戻ってくる。
「優勝商品の授与式は、午後からするみたいですよ。家に帰って食べても、問題なさそうですね」
「ああ、なるほど。そういえば、それを聞いてなかったわね。勿論、ベイが一番でかいのを倒したんでしょう?」
「ええ、そりゃあ勿論!!」
「じゃあ、夜は優勝記念に豪華にしないといけないわね。腕がなるわ!!」
「アリーさん、私も実家の郷土料理を作ります!!」
「私も、その、手伝うよ」
「サラサも、ヒイラもやる気みたいね。それじゃあ、お昼を食べたら買い出しに出ましょうか」
「私達も、料理頑張らないとね」
「そうねサラ。……でも、あの3人のレベルになるには、かなり修行がいると思うの」
「うん、私もそう思う」
アリー達は、大きな肉を丸々焼くだの、装飾の凝ったサラダを作ろうだの協議している。その会話を聞きながら、俺達は一旦サラサの家に帰ることにした。
「……そういえば、サンサさんは残してきてよかったのかなぁ」
「ああ、母さんは向こうで人手が足りないらしいからな。少し後でごはんを食べると言っていた」
「ああ、気絶してる人多かったからなぁ……」
あれだけの数だ。特に外傷はないんだから寝かしておけばいいんだろうが、皆が皆、起きて平常心でいるわけじゃないからなぁ。誰か、状況を説明する人がいるんだろう。なだめるというか、落ち着かせるというか。まぁ、女性の冒険者も多かったからな。サンサさんは、そこを担当しているんだろう。
「……マイマスターが、抱きしめれば女性冒険者など一発で静まると思うんですけどね」
「……」
「駄目よ。簡単に惚れちゃうでしょ」
「まぁ、そうですか」
「それに、落ち着くだけで済むとは限らないじゃない?」
「と言いますと?」
「女性で冒険者なのよ。ベイがそんな人達を介抱したりしたら、そりゃあもう、日頃培った体力に任せた性欲の鬱憤ばらしをしてくるでしょうね。押せ押せよ!!物陰でねっとりよ!!」
「飢えた野獣というわけですか……」
「……」
何を真剣にアリーとアルティは、変な話をしているんだ。そんなことあるはずないだろうに。
「まず、ベイに抱かれることで鍛え上げられた筋肉に惚れるでしょうね。謎の敵の脅威に震えていたし、安心感で心が安らぐと思うわ」
「まぁ、その時点でもう引き返せませんよね」
「そうね。そして、そこにベイの撫でが加わる……」
「安心した心に、追撃してくるように快感が広がっていくわけですか」
「その通り。その時、ベイの身体の男らしさにムラっと来てしまうのよ。間違いなくね」
「……そ、そうなの?」
「私に聞かないでくれ、ニーナ」
ニーナは、半信半疑という顔だが、答えたサラサは顔が赤くなっていた。……いや、そんなトントン拍子に行くはずがないよな。ないない。
「そうでしょう、ヒイラ?」
「えっ!!……ど、どうかなぁ」
「この顔を見てニーナ。この赤い顔。これが答えよ!!」
「わ、わ!!見ないで!!」
ヒイラは、隠すようにフードを深くかぶってしまう。可愛い。
「後は想像するのも簡単よね。ベイの現地妻ハーレムの出来上がりってとこかしら」
「……自ら、抜け出せない穴にはまっていく女性冒険者達ですか。……マイマスター的には、有りですかね?」
「いや、聞かないでくれよ」
「なしではないと」
「……」
いや、正直美人さんばかりではないからな。冒険者って。勿論、美人の人たちもいたが、まぁ、アリー達をほっといてそっちに行くとかは無いな。
「……体力のある冒険者の方々なら、少しはマスターを満足させられるのかもとも思いましたが。そういうことなら、この話題はここまでにしておきましょうか」
「まぁ、ミルク並みに体力があるとは思えないけどね。冒険者でも」
「……焼け石に水ということですか」
……なんだか、俺が凄まじいみたいに感じられるやり取りだ。……やっぱ変かな。多分、鍛えたせいで体力がありまくってるんだろうと俺は解釈しているんだけれども、皆にはそう見えているのだろうか。でも、俺は満足はしてるよ。アリーや、皆とともにいられて幸せだ。それが、何より嬉しい。
「……私たちに、もっと体力があれば」
「そうね……」
……微妙に、皆が悩んだ顔をし始めている。俺は1人、更に微妙な表情をして歩いていた。