英雄VS魔王
「ぐっ、転移魔法か?」
「ここは……?」
「おっと、油断し過ぎじゃない?」
「むっ」
カヤが、炎を纏った棒を魔王目掛けて振り下ろす!! クローリは、両手をクロスさせるとカヤの棒を防いだ。少したじろいだが、クローリはカヤの攻撃を防ぎきる。
「はぁぁああああ!!!!」
「おっと!!」
ミエルの振り下ろした斧が、クローリ目掛けて襲いかかった。間合いを取って、クローリはこれを回避する。だが、そこにシスラの槍が待ち構えていた。
「ぶっ飛べっす!!」
「ちっ!!」
シスラの槍から発生した衝撃波を、剣でなぎ払うようにしてクローリは攻撃を防ぐ。だが、彼女達の連携攻撃はこれで終わりではない。クローリが剣でシスラの槍を防いだと同時に、背中にとてつもない魔力の攻撃をクローリは受けた。
「ガハッ!!」
「当たりました、シゼルさん!!」
「もう一回行きましょうか、サエラ」
サエラの魔法の矢と、シゼルのビームがクローリを襲う。今度は、クローリは落ち着いてその攻撃を回避した。どうやら、油断が薄れてきたようだな。だが、うちの連携攻撃にも隙があるわけではない。ちょっと油断が無くなった程度では、シデンの攻撃を逃れることは出来なかった。
「紫電結界!!」
シデンが操る2本の鎖が、クローリを囲むように四角形を作る。その鎖を枠に、雷で出来た結界が形成された。更に、内部にも雷魔法の電撃が流れている。クローリは、大きくダメージを受けている様子はないが、動きづらそうに呻いていた。
「カザネ!!」
「任せろ!!瞬風変身!!」
シデンが、結界を解除する。それと同時に、超高速のカザネの蹴りがクローリの腹に突き刺さった!!
「グホッ!!」
少し吹き飛ばされたが、クローリは空中に魔力を放ち留まる。……あれだけの攻撃を受けたクローリだが、その鎧にはヒビの1つも入っていなかった。まぁ、無傷ではないようだが。
「魔王様……」
「ふむ、少し引っかき傷がついてしまったか。やるものだ」
クローリは、ホコリを払う様に身体を撫で確かめている。そして、俺の周りを囲むように浮いている皆を眺めた。
「……全員魔物か。これは驚いたな」
「魔物が、これほど人間に……」
「驚くのは、まだ早いと思うが……」
「どういう意味だ?」
「……騒がしいと思ったら、懐かしい顔が居るじゃねぇか」
「!!」
地面から、白い光が一直線に飛んで来る。その人は、剣を担いでクローリの前に来た。
「昔と多少姿が違うようだが、間違いなくお前だな、魔王さんよ」
「……老人。だがその声、その剣。その余裕とも思える立ち姿、見覚えがある」
「貴様、何故死んでいない!!ライオル・ゲインハルト!!」
「……少し長生きでな。その声、バスラも一緒か。丁度いい、2人まとめて相手してやるよ!!」
「まさか、再び会えるとわな。貴様の墓にまで足を運んだことがあったが、あれは偽装だったか。……嬉しい、嬉しいぞライオル!!」
クローリの黒い剣と、ライオルさんの白い剣が魔力を帯びて輝きを放つ。そして、2人はお互いに剣を構えた。
「というわけだ、譲ってくれるかい?ベイ君よ」
「ええ、勿論」
ただし、こちらもただ見ているわけには行かないだろう。というよりも、生身でこの戦いを観戦しているのはやばい気がする。なので、一応一体化しておくことにした。一体化時の衝撃で、再度迷宮内の雪が消し飛ぶ。
「……なんだ、あの力は」
「人間と魔物が、1つに」
「おい、よそ見してんじゃねぇよ」
ライオルさんの剣が、クローリに向かって振り下ろされる!! 光の剣が、闇の剣とぶつかり合った!!
「ぐっ!!重いな。あれから私も強くなったものだが、お前もそうみたいだな」
「おうよ。何時迄も同じ実力でいる俺じゃねぇぜ!!」
「小癪な人間が!!」
ライオルさんの剣をなぎ払い、クローリが反撃の斬撃を放つ!! ライオルさんはその攻撃を剣で受け止めようとするが、クローリの剣が剣を通り抜けた。
「おっと!!」
慌てることもなく、片腕でクローリの剣を挟んでライオルさんは受け止める。楽に受け止めたかに見えたライオルさんだったが、少し顔を苦しそうに動かしたのを俺は見逃さなかった。それは、クローリも同じだったようだ。剣を引き直し、間合いを取って構え直す。
「どうした?」
「ライオル、腕を痛めているのか?」
「ああ、少しな。だが、気にすることはねぇぜ!!」
ライオルさんの体を光が包む。あれは、ライオルさんが全開になった証だな。それを見て、クローリも纏っている魔力をでかくした。2つの魔力が空中でぶつかり合う。
「……完全な全力の君とまた戦いたかったが、残念だ」
「俺を倒してから、そのセリフは言うんだな。前負けた奴が、言っていいセリフじゃねぇ」
「……ふふっ、そうだな。君に勝って、今の私の言葉の意味を証明してみせよう!!」
「言うじゃねぇかー!!」
凄まじい衝撃を生み出して、2人の剣がぶつかり合った。そのまま2人は、光と闇の玉となり、何度も攻撃をぶつけあう。その衝撃で、地面が震えていた。
「凄いですねぇ、ご主人様」
「まだあれで、牽制程度だろう。にしても、楽しそうだな……」
「ええ、彼等は笑っているでしょうね。主」
「見なくても分かりますね、マスター」
2つの魔力の塊が、距離を開けて止まる。剣に魔力を集中させ、お互いに構えているのが分かった。数秒後、迷宮は剣のぶつかり合いにより魔力の光りに包まれる。その光が晴れたあと、空中に立っていたのはクローリだった。
「ちっ、せっかく治りかけてたのによう」
ライオルさんは、少し離れたところでとどまっていた。その腕は、変な方向に曲がっている。どうやら、折れているようだ。
「残念だ……」
「おいおい、片腕が使えないくらいが何だ。良いハンデだぜ」
「無理だな。その腕をかばいながらでは、私には勝てない」
「減らず口を!!」
ライオルさんが、斬撃を放つ!! だが、あっさりとクローリに防がれた。
「やはり片腕だけでは、威力のノリが不十分だな。残念だよ、ライオル……」
「くっ!!」
クローリの斬撃が迫る。ライオルさんは、それを片腕で受け止めた。しかし、徐々にクローリの剣が迫ってくる。力負けしているようだ。
「さよならだな、ライオル・ゲインハルト!!」
「まだだ、バズラ。誰がここに私達を連れてきたのか、忘れたのか」
その通り。これで終わりじゃない。ライオルさんに剣が迫るその直前、クローリの剣が押し返された。それは、俺達がクローリの剣を、水の糸で引っ張ったからだ。
「ちっ!!長年の恨みを晴らせるというところで、鬱陶しい連中め!!」
「さて、次は俺達が相手をするよ」
「人と魔物の力を持つ相手か……。面白い」
水の糸を解除し、アルティを構える。最初から、神魔級強化もかけて戦闘準備は万全だ。さて、100年近く鍛え上げた魔物相手に、俺達の実力が優っているか試すとするか!!




