過ぎゆく日常
「モテモテになる?」
「そうだよ、お嬢ちゃん。ここらへんの女性たちは、強く強靭な筋肉を持った男性に一目置く傾向があるからね。もしかしたら、なるかもしれないよ」
「ふーん、まぁ、ベイにはもう既に意味が無い誘い文だけれども」
まぁ、既にこれだけ嫁がいればそうもなるな。むしろモテすぎている。控えめに言って最高だ。
「今年は、百位以内に入ってみせる!!」
「リサ、参加するのか?」
「当たり前よ!!私も、店の手伝いでだいぶ鍛えたからね。今年は、去年とは違うわよ!!」
「まぁ、頑張ると良い。どっちにしろ母さんか、ベイにはかなわないだろうが」
「……サンサさんと、並ぶぐらい強いってこと?」
「その可能性はあるな。ベイは強いから……」
そう言ってくれるのはありがたいが、サンサさんが優勝候補なのか?あの人も結構細かったような。いや、でも他の男性に比べたらって感じだしな。あの人も只者ではないってことだろう。
「あそこの、屋外テーブル席で開催されるんだ。当日参加OKだから、気になったら参加してみると良い。優勝賞品もいいからね。君なら、参加する価値あると思うなぁ」
「優勝商品ですか?」
「そう。今年の商品は、何か価値のある武器らしいね。売ってよし、使ってよしの一品みたいだよ。君も剣を持っているし、そう言うの興味あるんじゃないかなぁ?」
「武器ですか。……気にはなりますね」
一体どんな武器なんだろう。でも、既に俺は2つも武器があるからなぁ。いらないか……。いや、誰かにあげても良いかもしれないなぁ。まぁ、見て見る価値はあるかもしれない。
「まぁ、でもサンサさんが強敵だからね。そううまくいくかどうか。なんてったって、彼女はこれを軽々持ち上げるからね。本当、凄いよ」
「これを……」
「これを」
明らかに人を押し潰せそうな巨大な岩が、そこには転がっていた。この重量上げ屋さんが置いている石の中でも、一番大きな石がこれのようだ。俺は、横にいるミルクを見る。……ミルクなら、指先で持ち上げそうだなぁ。余裕の笑みを浮かべて、ミルクは岩を見ている。
「凄いよね、サンサさん。こんな……、駄目だ、全然無理」
リサが、少し岩を押してみている。ピクリとも動かない。これが普通の人の反応か。それを軽々って、只者じゃなさすぎる。流石、サラサの母親といったところだろうか。その岩に、サラサがゆっくりと近づいていく。片腕でその岩を掴んだ。すると、岩が少し動く。
「……両手なら行けそうだな」
サラサでも両手じゃないと無理か。俺だとどうなんだろうか。俺は、岩を眺める。……なんか、軽く感じるんだよなぁ。片手でいけるんじゃないか? いや、普通は無理だろうけど、今の俺はそう感じてしまう。無理かもしれないが。
「ベイなら楽勝でしょう」
「いや、アリー、そう言い切られても」
「ご主人様なら、楽勝ですって」
「そ、そうかな、ミルク」
「はい、勿論です!!」
……祭りの時にでも試してみるか。俺はそう思った。それから、一通りできかけの屋台を見て回った。魚の塩焼きを売っているお店、飴細工を売っているお店。日本で見たような祭りの出店に近い屋台もいくつかあった。あと、祭りといえば花火だよなぁ。日本人だし、これは欲しい気がするが、まぁ、こっちではないだろう。アリーと皆と見たかったなぁ、花火。
「そろそろ家に戻りましょうか」
「そうですねアリーさん。行こうか、ベイ」
「ああ。みんなー、帰るぞー」
そうこうしているうちにだいぶ時間がたったようだ。日が落ちかけている。俺達は、夕食の準備をするために、リサと別れてサラサの家に帰ることにした。
「ふふーん、今日は良い食材を買ったからね。私がいいものを作ってあげよう」
「母さん、何を作る気ですか?」
「いいものさ。ふふふ……」
何かしらないが、サンサさんが悪戯でもしそうな笑みを浮かべている。何を買ってきたんだ。怖いな。だが、俺のそんな予想とは裏腹に、出てきたのは普通のスープだった。澄んでいて、とても美味しそうに見える。あっさり系かな?
「さぁ、食べてみなよベイ君。おばさんの自信作だ」
「あ、頂きます」
俺は、そのスープを飲んで見る。意外と濃い味だな。……何だろう、なんて言うか、元気が出そうな味だ。スタミナが付きそうというか、そんな感じだな。
「今夜が楽しみだねぇ、サラサ」
「何言ってるんですか母さん」
「ベイ君、そのスープ美味しい?」
「あ、はい。美味しいです」
「良かった。それは、ここらへんに生息している川亀のスープでね、色々と元気になるスープが出来るんだ。色々とね……」
「……」
もしかして、それってすっぽんってやつじゃないですか? いや、同じものではないかもしれんが。
「……」
「……」
えっ、何? 女性陣の俺を見る目が変わった気がする。何か、獲物でも見つけたかのような、そんな……。
「今夜が楽しみだね、サラサ」
「何を言ってるんですか、母さん」
……今日は、久しぶりに何もない普通の一日だった。それで終わるはずだった。だが、そうもいかないようだ。何故か食事が終わると、女性陣に周りを囲まれる形で、俺は連行されていく。そのあと、俺と皆が寝たのは、日付をまたいでからの事だった。
*****
「お、おはようベイ君。昨日は楽しかったかい!!」
「サンサさん、おはようございます」
「うーん、普通そうだね。うちの子が頑張らなかったのかなぁ。いや、でもあれだけの子たちが居て普通に起きてくるんだよねぇ。君、凄いんじゃないか?」
「ご想像にお任せしますよ」
「あはは、面白い婿をサラサは見つけたみたいだ。羨ましいね」
皆はまだ寝ている。……昨日はすごかった。川亀料理の恐ろしさを感じたな。まぁ、本当にあれが川亀の効果かどうかは微妙なとこだが。ともかく、俺は外で剣の素振りをすることにした。雑念を払うには、これが一番いい。サリスを持って、サラサの家の庭に出る。そして、数十回ほど集中して剣を振るった。
「……」
今何か、遠くで変な魔力を感じた気がする。魔物かな。俺は、その魔力を感じた遠くを見つめ、感覚を磨澄せたが、もう何も感じることは出来なかった。