しばしの別れ
「というわけで、帰ってきましたねっと」
「もう、真っ暗ですね……」
地下道を再び通って、俺達は家に帰ってきた。空は既に暗くなっている。晩ごはん時だろう。取り敢えず、食堂に向かうことにした。
「おかえりなさいマスター」
「ああ、アルティ、出迎えありがとう」
「ベイ、お帰り」
「おかえりなさいベイ君」
「えへへ、ベイ君の右腕ゲット」
「私は左」
「無事みたいだね、よかった……」
「うーん、やはりベイ君しか私の夫は居ない……。神魔級迷宮で無傷。最高じゃない」
「ロデ……。ベイ様、おかえりなさい!!」
「ああ、皆、ただいま」
待機していた皆と合流して食事を取る。……ちょっと気になる事があったので、食事が終わると俺はヒイラに声をかけた。
「ヒイラ、あの本を見せてくれないか?」
「え、何か気になるのベイ君?」
「ああ、人間の寿命を延ばす方法をちょっと詳しく見たくてね」
「あ……。うん……」
ヒイラは、何故か暗い顔で俺に本を渡してくれた。……ヒイラも、俺より先に死んじゃうんだよなぁ。まぁ、寿命的な話ならだが……。俺のほうが先に死にそうだけどな。戦う相手が相手だし、そう言う気では常に居ないと……。
「ありがとう。……ふむ」
方法として書いてある過程は、大きく分けると3つだ。解析、構成、定着。まずは解析。人ごとに魔力や肉体の構成が違うため、魔法を使う人にあった魔法調整をするため、10年ほど時間をかけて相手の身体を調べる必要がある。構成、その情報を元に、魔力で置き換える器官を作る。これに10年。定着、ちゃんと作ったものが馴染んでいるか調べつつ調整する。これが1年。……今すぐ使える魔法ってわけじゃなさそうだな。
「……まぁ、覚えておくか。何があるかわからないし」
「なるほど……」
「うん?アルティか」
「使える情報かもしれませんね。今やっていることと大差はありませんが、置き換えて構成、定着ですか。となれば、起点を変えれば定着率が上る可能性が?いや、どっちにしても今の情報では危険か……」
「?」
なんだか知らないが、色々考えているらしい。変なことじゃないといいけど……。
「いえ、どっちにしても、あっちを優先した方がいいですね。そっちの方が、更に強くなれる……。期待していて下さい、マイマスター」
「あ、ああ。なんだか分からんが、頼んだぞアルティ」
「はい!!」
アルティはそう言うと、レムに近づいていく。何だろう、アルティの力はまだ俺でもよく分ってないからなぁ。ともかく、色々アルティなりにやっていてくれているらしい。いい剣だなぁ。
「ありがとう、ヒイラ」
「どう致しまして」
俺は、ヒイラに本を返す。すると、ライアさんが俺とヒイラに手招きをしていた。俺達は、ライアさんに近づいていく。
「合格!!」
「え?」
「ヒイラちゃん、今回は神魔級迷宮に行ったり、瞬爪を覚えたり。おばさんも眼を見張るほどの成長を見せてくれたね。だから、今回の修行はこれで良しとするよ。あとは、ベイ君とゆっくり夏を楽しみなさい」
「ほ、本当ですか、おばさん!!」
「ライアさんに、二言はありません!!……ベイ君、自慢の家族をよろしくね」
「はい、勿論です!!」
「うん、良い返事だ!!」
その話を聞いた夜のこと、そのことを皆に話した。すると、一つの提案をサラサが言う。
「なら、次は私の実家に行かないか?ここから近いところにあるんだが」
「サラサの実家かぁ」
「ああ。そろそろ、実家の周りでちょっとした祭りが開かれるんだ。それを、皆で見るのも悪くないんじゃないかと思ってね。それに、……わ、私も、ベイを家族に紹介したいし……」
「サラサ……」
サラサは、顔を赤くして照れている。可愛いな。
「祭りねぇ……。面白いの、それ?」
「勿論ですよアリーさん。びっくりさせたいので詳細は伏せますが、盛り上がること間違いなしです!!去年もかなり盛り上がりました。そして、ここに居る皆さんが来るとなれば、……とても面白くなるでしょう」
「皆が?」
サラサが目線を向けたのは、俺、フィー、レム、ミルク、ミズキ、カヤ、ミエル、シスラ、サエラ、シゼル、シデン、カザネだった。まぁ、うちの実力者たちだな。そんな皆に目を向けるということは、戦闘系の祭りなのかな?
「美味しいごちそうもありますし、どうでしょうか?」
「うーん、まぁ、いいんじゃない」
「サラサの実家かぁ……」
何と言うか、筋肉モリモリマッチョマンの人がいっぱい居そうな印象なんだが、実際どうなんだろうか? ガンドロスの爺さんも居るのかな?
「それでは、明日辺り移動しましょうか。それでいいですかねご主人様?」
「ああ、そうしようか」
その日は皆、ぐっすりと睡眠をとって、朝から移動の準備を始める。昼前にはすべての荷物を積み込み終え、ヒイラの家族とお昼ごはんを食べて皆で牛車に乗り込んだ。
「それじゃあライアさん、お元気で」
「ええ、ベイ君も元気でね。また、会いましょう」
「はい」
「ヒイラー!!」
「貴方は黙ってなさい!!」
「ぐほっ!!」
今にも牛車に駆け寄ってきそうだったヒイラのお父さんを、お義母さんが蹴りを入れて止めている。その光景に苦笑いしながら、俺達の牛車はゆっくりと動き出した。
「また遊んでねー!!」
「ヒイラちゃん、しっかりー!!」
「他の子に負けちゃ駄目よー!!」
「うん!!」
徐々にミルクが速度を上げ、それと共に、牛車が魔法で浮いていく。ヒイラの実家が、見えないような点になるまで、ヒイラは手を振っていた。家族って良いなぁ……。家族かぁ……。俺の、元の世界の家族はどうなったんだろうなぁ。まぁ、幾分か貯金も残してあるし、あっちで俺が死んだ扱いになってても元気には暮らしているだろう。……もう、身体も完全に別物になっちまったしな。これで元の世界に帰っても、意味が無いか……。それに……。
「うん、どうしたのベイ?」
「いや、何でも無いよ」
嫁達を残して帰るなんて言えやしないしな。……元気だと良いんだけどなぁ。俺は、そう思いながら空を見上げていた。