巨大ザメVS牛鬼
「(おお、でかい魚ですね!!殴りがいがありそうです!!)」
俺達から見れば巨大怪獣大決戦という感じだった。巨大ザメVS牛鬼。ますますB級映画っぽいな。先に攻撃を仕掛けてきたのは、サメの方からだった。サメが出現した水溜まりから無数の水の槍がミルクと俺達目掛けて放たれる。
「(おっと、避けにくい攻撃をしますね)」
ミルクが軽く地面に触れると、そこから巨大な石の壁が現れた。その壁がミルクに突っ込んで行く水の槍を全て防ぎきる。俺達の方は、レムが盾で。フィーと俺が魔法で迎撃して無傷ですんだ。
「(さて次は、私の番ですね!!)」
ミルクは、まだ残っている石の壁ごとサメ目掛けてパンチした。ミルクの拳は、壁を軽々と粉砕してサメの鼻っ柱に突き刺さる。サメからは、壁でミルクの攻撃が見えなかったため受け身を取るタイミングすら合わせられなかっただろう。今の一撃でかなりのダメージが入ったはずだ。
「ギャアアオオォォォォ!!」
サメが悲鳴のような声を上げた。ミルクの拳が当たった鼻先は、その部分が拳の形に凹んだままの状態になっている。身悶えするサメの姿に、ミルクのほうが圧倒的に優勢かと思われたが。
「(むっ。これは、硬い皮膚ですね)」
見ると、ミルクの拳から血が出ていた。ミルクは、自身の体を土魔法で硬化させている。生半可な攻撃では、傷一つつくことがない。だが、相手のサメの皮膚も同様に固く、さらに皮膚に細かなトゲが付いているようだ。いわゆる鮫肌ってやつだな。それが殴ったミルクの拳にダメージを与えている。ミルクがパワーを込めて殴れば殴るほどミルクの拳にもダメージが返ってくることになるだろう。恐ろしや、鮫肌。
「(なら、こいつですね)」
ミルクは、土魔法で腕にガントレットを作って装着する。腕を保護したミルクは、再びサメを殴るために腕を突き出した。サメは、突き出されたミルクの腕目掛け口を開ける。巨大で鋭利な牙が見えた。そのまま殴りに来たミルクの腕にサメは、容赦なく口を閉じて噛み付いていく。
「(おっと、サメにやる肉はないですよ!!)」
その声と共にミルクのガントレットから土の槍が発生して伸びた。土の槍がサメが口を閉じるよりも早く相手の口内を突き刺す。サメの口内が槍の傷で出血し大量の血が流れた。土の槍の柱によって口をサメは閉じられなくなっている。だがサメは、力ずくでミルクの腕を噛み千切ろうと血が流れ出ているのさえも気にせずに口に力を込めていった。徐々にサメの力で土の槍にヒビが入りはじめる。だが槍が砕けるよりも早くミルクは、サメを横合いから殴りつけた。サメは、そのまま口を閉じることも出来ずにミルクの一撃で洞窟内の壁へと吹っ飛ばされていく。
「う~ん、ガントレットに傷が」
「ミルク、油断するな!!」
サメは、そのまま吹っ飛ばされて壁に激突するはずだった。しかしサメは、水魔法で巨大な水の玉を壁前に作りその中に入ると身を捻って即座に反転した。その速度に身を任せ大きく口を開けてサメは、ミルク目掛けて勢いをつけると全力で突っ込んで来る。
「(うおおおおっと!!)」
ミルクは、サメの鼻先を真剣白刃取りのように挟んで受け止めた。サメは、全身の力を使って進もうと身体をうねらせ口をガチガチと開閉させて無理矢理にでも進もうとする。その上更にサメの周りから水魔法の噴射口が出現してサメ自身を、まるでロケットのように加速させて前進させていった。
「ぐぬぬぬ、なんとぉぉおおおお!!」
今のサメは、一つのミサイルのようなものだ。ミルクは、それを受け止めたまま足に力を入れて地面に踏ん張り押さえている。だが、ミルクの巨体が徐々に地面上を滑って動き始めた。焦ったミルクが土魔法で土の槍を地面から出し突っ込んで来ているサメを刺す。サメの肌が貫かれ出血した。しかし、怯むどころかお構いなしにサメは、突っ込む力を強めていく。
「くっ、タフなやつですね!!!!」
ミルクがサメの勢いを削ぐ為の次の攻撃に移ろうとした。しかし、その時サメが出現した反対側の水溜りから巨大な触手が伸びて来てミルクの腕に纏わり付いた。
「(な、なんですと~!!!!)」
触手は、ミルクの腕を開かせようと力を込めていく。本当にタコとイカの足のような見た目をしてるな。ミルクの腕を開かせようとするのと同時に、更に追い打ちをかけるかのようにミルク目掛けて触手を出してきた魔物は、菱型の形の水を水中からミルク目掛けて投げ放ってきた。
「(ちっ、こんなタイミングでお目当てと遭遇ですか!?)」
ミルクが土の壁と土の槍で応戦する。ミルクは、水の手裏剣を撃ち落としたり壁で防ぎきって全ての手裏剣を消した。だが、触手の攻撃は一度では終わらない。その上どんどんと早くなり手数も増していく。
「(グギギ!!)」
「ミルク!!」
「(だ、大丈夫です!!このぐらい、どうってこと、ない……、ですよ!!!!)」
触手は、ミルクの腕をこじ開けようと更に力強くミルクの腕を締め上げた。だが、逆にミルクの体の筋肉が膨らんでいく。やべぇ~~、格好いい!!!!
「(な、舐めるなよ!!このミルク!!痩せても枯れても!!パワーには、パワーには、自信があるんですよおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!)」
ミルクの腕の筋肉が一気に膨れ上がった!! ミルクは、そのまま力に任せて受け止めているサメの鼻っ柱を押しつぶす!!
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
「(邪魔なんですよ!!)」
あまりの激痛に身を捩ったサメにミルクの追撃の膝蹴りが炸裂した。蹴りは、サメの顎にめり込み蹴りの反動で跳ね上がって接触を起こしたサメの歯をそのまま粉砕する。
「(フンッ!!)」
ミルクは、サメの鼻っ柱を掴んだまま触手に構わず振りかぶりサメを投げ捨てた。そして空いた手で自分に巻き付いている触手を握り、振り回してサメと同じ方向に向かって投げつける。
「(さあ!!こそこそしてないで出てきてもらいましょうかぁ!!)」
サメが洞窟内の壁に激突した。その衝撃で洞窟内が揺れる。そして、そのサメに続いて壁にぶつかるはずだった者は、完全にミルクの投げの勢いを回転して殺して壁にへばりついた。その容姿は、タコでもイカでもなく。
「(へっ、女の子?)」
ミルクの言った通りその姿は女の子だった。見えている肌は褐色。水色の髪をポニーテールのように束ねている。だが、髪はそれほど長くない。彼女の後頭部、首の後ろぐらいから細い触手が出ている。それが先端に行くほど巨大になっていた。布で口元と頭を隠していて、カラー的に水色で統一された服を彼女は着ている。一見触手がなければ普通の女の子に見えなくもない。ただ、その服装から受ける印象がどうも俺にはあれに見えた。
「ニンジャ?」
そう、全体的にニンジャっぽい服装に見えた。壁に張り付いた彼女が片腕の指を2本立てるポーズをしているのも余計にニンジャっぽい。
「……退き時か」
彼女は、そう言うと口元の布をずらし黒い霧を吐いた。フィーが慌てて風魔法で黒い霧を吹き飛ばす。だが、既にそこに彼女の姿は無かった。
「(まさかすでに人化している魔物だったとは、驚きですね)」
「ミルク、お前が驚くのも無理はないが見ろ。あっちは、まだやる気みたいだぞ」
見ると、壁に投げつけられたサメがこちらを向き口を開けていた。口の中には、大量の水の魔力が溜まっていくのが見える。
「(ちっ、しつこいやつですね!!)」
サメ目掛けミルクが突進した。サメが慌てて水魔法を放とうとするがミルクのほうが速い。
「(これで、おわりです!!!!)」
ミルクの地面すれすれから突き上げたアッパーがサメの顎に激突して轟音を響かせた。サメは、そのまま口を閉じて天井に激突。口の中で行き場を失った自身の水の魔力を暴走させて破裂した。フィーと俺とレムは、魔法でバリアを張って返り血を防ぐ。返り血の雨が止むとミルクは、全身真っ赤になっていた。
「(全く、最後までしつこいやつですよ……。うっ、生臭い!!)」
こうして俺達は、ミルクの活躍で水属性上級迷宮を攻略した。だが、お目当てには逃げられたままだ。弱ったな。追うべきか、追わざるべきか。
「(ふむ、あの引き際の良さ。攻撃の速度とパワー。それに可愛い容姿。どう思いますフィー姉さん?)」
「う~ん、いいと思います!!」
「私も悪くない人材。いや、魔物材だと思います」
え。皆さん何を言っていらっしゃるのでしょうか?
「(ふむ。では、決まりでいいですかね?)」
「いいと思います!!」
「私も賛成ですね」
か、勝手に話が進んでいく!!
「(それでは、これからあの子の生け捕りを目的とした捕獲・契約作戦に移ろうと思います!!)」
「がんばろう!!」
「頑張りましょう!!」
……俺が喋らずとも次の目的が決まってしまった。