水属性神魔級迷宮・死の雪山5
(お待たせ致しました、マイマスター)
「おう、頼むぞ。ちょっと厄介な相手でな……」
(存じております。ですが、マスターなら勝てるでしょう。例え相手が、伝説の英雄だろうとも)
「おーーい、準備はいいかぁ?始めるぞー!!」
雪が吹きすさぶ。その中に、俺達は立っていた。……寒い。だが、気を抜いてもいられなさそうだ。何故なら、俺の前に立っているのは伝説の英雄なのだから。
「対人戦なんて、久しぶりだな。若いもん相手だっていうのに、ワクワクするぜ。じゃあ、行くぞ……」
足に力を込め、ライオルさんが一歩を踏み出す。俺は、アルティを構えた。それを見ると、ライオルさんは更に一歩を踏み出し……、消えた!!
「くっ!!」
大きく一歩下がる。辛うじて、ブレたようにライオルさんの動きが見えていた。神魔級強化を展開して、アルティで斬撃を受け止める!! ライオルさんの放った剣圧で、足元の雪が吹き飛んだ!! ライオルさんの斬撃をいなし、後ろに回転して着地して、体勢を立て直す。……流石、伝説の英雄だな。只者じゃねぇ。
「……今のに反応出来るか。なら、昔のあいつらには太刀打ち出来るだろう。だが、問題はあいつらも成長してるかも知れねぇってことだ。ここからは、力を上げていくぜ。ついてこいよ、ベイ君!!」
「はい!!」
神魔級強化を使った今、ライオルさんの動きは、問題なく見えている。行けるだろう。再び、ライオルさんが切りかかってきた。素早く左右に飛びながら、剣を叩きつけてくる。……何かの動物の動きみたいだな。これが、神魔級召喚獣の動きなんだろうか。
「問題なく捌けてるな。次だ……」
そう言うと、ライオルさんの体が光を放ち、空を飛んだ!! え、聖属性魔法で、空をとぶのか!! 初めて見るやり方だ!!
そのまま聖属性の魔力を纏いながら、ライオルさんは俺目掛けて降下してくる!! その周りの光は、まるで鳥のように形を変えていた。俺は、覚えた魔法を撃ち放つ!!
「フロストストーム!!」
俺の腕から氷の魔力が、小さな雪を発生させながら渦を巻く!!その氷の魔力は、ライオルさんの身体を凍てつかせ、その聖の魔力ごと周りを凍らせていった。だが、それでもライオルさんは止まらない!! 俺は、その場から飛び退いた!! 大きな地響きとともに、ライオルさんが地面に着地する。また、周りの雪が吹き飛んだ。何も無かったかのように、ライオルさんは佇んでいる。
「うーん、いい感じだな。だが、あいつらもこの魔法は一回見てるからな。そこだけは注意して使え」
「はい、分かりました」
「……」
なんだ? ライオルさんの雰囲気が、変わった気がする。剣の持ち方も、大雑把じゃなくなった。無駄な動き1つなく、ライオルさんは綺麗な構えを取る。すると、神魔級強化を纏っているのにもかかわらず、ライオルさんの姿が消えた。
「!!」
「このくらいか……」
ギーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
下段から切り上げられたライオルさんの一撃を、辛うじて反応して受け止める!! だが、簡単に俺は吹っ飛ばされた!! アルティが、腕から弾き飛ばされそうになる。俺は、アルティを離さないために後ろに飛んだ。だが、ライオルさんの追撃のほうが速い!!
「嘘だろ……」
「マジだ」
ライオルさんの放った蹴りが、俺に向かって直撃する!! 片腕で防いだが、今の一撃で折れそうなほどの威力だった。俺は、そのまま先にあった氷の山に体を打ちつける。ここ最近感じたことのない、圧倒的な痛みを俺は感じていた。
「ガハッ!!」
「ベイーーーーーー!!!!!!!!」
「4割ってとこか。普通の人間としては、規格外な強さじゃないか? これなら、あいつらには勝てるかもな……」
4割……。嘘だろ。俺が、こんな簡単に……。
「ベイ君の実力を見極めるのに、少し時間がかかったが。まぁ、これよりちょっと下くらいだろうな。いやいや、やるもんだ。神魔級迷宮に入ってくるだけのことはある。君は十分強いよ。だが、俺程ではないな。残念だが、俺の方が修行期間が長いからな……」
馬鹿な。俺は、神魔級強化をかけているんだぞ!! それを、こんなにもあっさり……。これが、英雄なのか。家族を守る為に、寿命を伸ばしてまで戦い続けた男の力……。
「悔しいだろうな。だが、君が悪いわけじゃない。俺が先に強くなっていた。唯それだけだ。気にするな。君なら、これから先鍛えれば、俺より十分強く……」
「……けられない」
「うん?」
「例え練習試合でも、俺は、アリーの前で負けられないんだよ!!!!昔ならいざしらず、強くなったこの俺が、アリーに心配をかけさせるようなまねが、出来るかーーー!!!!!!!!」
「……若いねぇ」
「ベイ……」
俺は、ぶつかった衝撃で凹んだ穴の中で立ち上がる。……4割。恐らく嘘じゃないだろう。ライオルさんは、まだまだ余裕がありそうだ。だから、無策で突っ込んで太刀打ち出来るとも思えない。……あれしか無いか。
(やりましょう、マスター。皆さん……)
「うん」
「英雄何するものぞ」
「ご主人様のためならば」
「我ら、この力、振るう場所を選ばず」
「調度いい強さの相手みたいだし、久しぶりに行きますか!!」
「やりましょう、ベイさんのためならば!!」
「久しぶりっすね」
「私、なんだかワクワクします」
「地上であの力を……」
「こん、余裕かましてる英雄に、目にもの見せてやるです!!」
「我らが主人の真の力に、震え上がるがいい……」
俺は、ジャンプしてライオルさんの近くに着地する。そして懐から、ライアさんに貰った特殊転移魔石を取り出した。それを見せながら、ライアさんを俺は見つめる。
「ライアさん、今から起こること、黙っててもらえますか?」
「え、ええ……。でもベイ君、何をするつも……」
「ベイ!!やったれーーーーー!!!!!!!!」
「ベイ君の、全力……」
皆がその場から消え、魔石に戻る。俺を中心に、とてつもない魔力の渦が発生し始めた。
「ほう……」
「英雄・ライオル・ゲインハルト。今の一撃で分かった。貴方は、俺よりも強い。だから、俺も奥の手を見せよう。貴方の強さに敬意を表して……」
「何を見せてくれるんだ、ベイ・アルフェルト……」
「俺の、いや、俺達の本気!!これが俺達の、全力の力だ~~~~~~~~!!!!!!!!」
神々しい魔力の光の中、レムの鎧が俺を包んでいく。火、水、風、土、雷、闇、聖の力が1つに合わさり、その姿を変化させていった。皆の特徴と、強さ、魔力を完全に取り込み、その鎧は完成する。完全に鎧が変化した時、少し身じろぎしたが、その余波で山一面の雪が舞い上がり、空から雲が消えた。
「……マジかよ」
「さぁ、ライオルさん。続きをしようぜ……」
ライオルさんは、嬉しそうにニヤけている。流石、英雄だ。この姿を見ても怯みもしない。久しぶりの全員での一体化を果たした俺達は、そう言いながら地面に降り立った。