水属性神魔級迷宮・死の雪山1
「よーし、いい時間になったし、お昼にしよう!!」
ライアさんがそう言う。少しお昼を過ぎたくらいだろうか。確かに、いい時間だな。俺達は、軽く皆で料理をして食事を済ませた。その日の残りは、アリーとヒイラに、迷宮での動きなどの指導をして終わった。翌日の朝。食料を持ち、防寒着を着こみ、俺達迷宮探索組は、最初にこの家に転移してきた場所、魔法練習場に集まっていた。
「ベイ君、気をつけてね」
「ああ、ありがとうニーナ」
「ベイなら大丈夫だと思うが、気を抜かないようにな」
「ああ、サラサ」
軽く、残る皆に行って来ますの挨拶をする。でも、ここから出てもまだ敷地内なんだから、今しなくても良いんじゃないかと思った。どうせ、家の玄関からでて歩きだろう。俺は、そう思っていた。
「よーし、皆集まったね!!トイレとかは大丈夫?なら、よーし!!それじゃあ、行こうか!!」
「ヒイラー!!行くなー!!死ぬぞー!!」
「お父さん……」
「大丈夫大丈夫!!なんたって、私がいるしね!!」
「でも、でも、お父さんは心配なんだー!!特に、1人男が付いて行くところとか!!」
「いい加減黙りなさい!!」
「あびひょ!!!!」
ライアさんに、ヒイラのお父さんは軽くビンタされる。そして、なくなく見送りの家族の列に戻っていった。
「気をつけてねヒイラ、アリーちゃん」
「お母さん、はい!!」
「行って来ます、おばさん」
「ベイ君。ヒイラをよろしくお願いします」
「はい、任せてください」
「よし、それじゃあ行こうか!!」
ライアさんが壁に向かって腕をつき、魔力を流し始めた。すると、魔法練習場の壁が開いて、道が出来ていく。……まさかの地下道か!!
「しゅっぱーつ!!」
ライアさんが先頭に立って、風魔法で飛び出していく。俺達も、それぞれの高速移動方で後を追いかけて行った。20分ほど飛ばしただろうか。明るく、広い空間に俺達は出た。ここは、山の中か何かだろうか? 土に囲まれた空間に、天井に薄っすらと亀裂が入り、光が差し込んでいる。そして、その空間の中心に、怪しい魔力の空間が存在していた。……こんな所に雪山があるとか、意味が分からない。だが、確かにその神魔級迷宮は、そこに存在していた。山の中に、山があるとか、訳が分からんな。
「うん。じゃあここからは、気をつけて行こう。……行くよ」
恐れずに、ライアさんは進んでいく。一人で先に、神魔級迷宮に入って行った。
「あ、ああ……」
「ヒイラ……」
「ベイ、君……」
ヒイラの腕を、ギュッと握ってあげる。すると、ヒイラはすぐに通常通りの顔に戻った。やはり、ヒイラにはまだ早かっただろうか? まぁ、行けそうだし良いか。このまま行こう。俺は、ヒイラと手をつなぎながら、迷宮に入って行った。
「……さっぶ!!!!」
「ベイ!!」
即座に、アリーが抱きついてきた。まぁ、寒いもんな。ひっついた方が暖かい。だが、ここは神魔級迷宮。移動を制限するような行為は、命取りになるのだ。でも、俺は怒らない。抱かれて幸せだからだ。
「予想以上に酷いわね、こりゃ……」
ライアさんが、吹雪いている中で地図を広げる。そして、俺達を集めて隊列を組み直した。
「良い?私が先頭に立って歩くわ。皆は、出来るだけ離れないようについてきてね。この視界だと、すぐにはぐれてしまうかもしれないし。前の人を見失ったら、すぐに大声で叫ぶのよ。皆で後退するから、そこで待つように」
「はい」
一応の決まり事の確認をして、俺達は雪の中を進んでいく。カヤを中心にして、周りの空気を温めてもらいながら進んだ。さて、こんな牛歩であの山まで何時間かかるかな。俺は、そう思いながら歩みを進めた。
*
「……久しぶりの客かぁ……」
ベイ達の侵入に、1人気づいている者がいた。白いローブをかぶったそいつは、洞窟から抜け出て山の麓を見渡す。
「おかしな客だな。魔力が強すぎる……。まるで……。いや、普通の人間もいるしなぁ。それはないか。さて、あいつの子孫か、あるいは別の奴らか。どちらにしても、確かめなきゃならんかな……」
男は、自分の顎に手を当てて考えていた。すると、ふと気づく。俺、髭なげぇなと。
「……人に合うことなんて無かったからなぁ。剃ってから行くか」
懐から、小さなナイフを取り出す。男は洞窟に戻り、髭を剃ることにした。
*
「……」
「主」
「今、あそこになにか居なかったか?そんな気が……」
「はい、私もしました。しかし、敵意というか、観察されたというか……」
「ああ、そうだな。そんな感じがした。……魔物か?」
「可能性はあるかと……」
吹雪いている景色の中、俺達は薄っすらと見えている雪山に目を向ける。間違いなく何かが居る。俺とレムは、そう感じていた。
「……ライアさん、止まって下さい」
「うん、どうしたのベイ君?」
俺は、雷魔法の弾丸を遠くの雪面に向かって撃ち放った。その数、20。……暫くして、魔法が地面に着弾し、獣の雄叫びを響かせた!!
「えっ!!あんなとこに、魔物が!!」
「最初から伏せていたんでしょう。あの魔物、いや、狼達は……」
雪面を蹴って、仕留め損ねた狼型の魔物が、5頭ほどこちらに向かって駆けてくる。速い、流石神魔級だ。だが……。
「失せろ、野良犬共」
うちのカザネの方が、もっと速い。狼達の首は、駆けている途中で、ズルっとその胴体から落ちていた。一瞬で移動してからの、ウインドカッター。えげつない倒し方だな。
「す、凄い」
「流石、カザネね。頼りになるわ」
「恐れいります」
その後も、狼型の魔物の群れと何度か戦闘をこなした。他には、サソリみたいな奴、熊みたいな奴、雪の玉の塊のような魔物が居た。だが、出会った大半は狼型の魔物だった。連中は毎回隠れてはいるが、魔力で探っている俺達からすれば丸見えだから、隠れている意味が無い。本当は、不意打ちがある分、強いんだろうなぁ。俺は、そう思いながら狼をさくさく倒して行った。
「おっ、そろそろ山に入りそうだね」
ゆっくりと登り坂になっている斜面を、俺達は踏みしめていく。……魔物とも違う、何か得体のしれない気配を感じながら、俺達は山に入って行った。




