反対理由
「長老は、なんで駄目だと思うのかな?」
「うむ……」
ライアさんが次に話しかけた人は、反対している人の中で、一番年を取っているおじいさんだった。只者ではない雰囲気が、びんびんする。
「ライアの説明で、この子にあの魔法が必要なことも分かった。使って役に立ったのか教えてもらえるのなら、わしらとしても都合がいい。是非とも、あげたいところなんじゃが……」
「なんじゃが?」
「……誰が取りに行くんじゃ、あれ?」
「誰って、そりゃあ、私と長老と大黒柱軍団でしょうよ」
「だと思ったわい。と言うか、ワシはお前に家長を明け渡したから引退したようなもんじゃ。あんな場所に行ってみろ。余生も何もなく、死ぬぞ。簡単に死ぬぞ?」
「またまた~、暴風と呼ばれた魔術師が何を言って……」
「いやいやいや、年取ると体力とかやばいんじゃよ!!それに、魔力だけではどうにもならんこともあろうて。あんな場所じゃしな……」
「えー……」
ライアさんは、腕を組んで考えている。暫くして、もう一度長老に向き直った。
「長老は、呪文覚えてないんですか?」
「ワシ、あれを前出した時は、神魔級魔法とか使えん実力じゃったからなぁ……。使えもせんわい……」
「ええー、まじ。長老、使えなかったの?あれ、前に取りに行ったのって、一体いつよ」
「さて、70か、60じゃったか……。まぁ、そんぐらい前じゃ」
「ああー、それじゃあ、神魔級魔法とか使えないわね。流石の長老でも」
「面目ない……。覚えとりゃあ良かったんじゃが、なにぶん昔過ぎることじゃからのう……」
「それだけ時間があけばねぇ……。良し、私と大黒柱軍団で行きましょう!!」
「いやだー!!」
「死にたくないー!!」
左側に移動したすべての男性陣が、ライアさんの言葉に反対の意を示した。もしかして、反対している理由って、そう言う……。
「お前らは、それでも一端の魔法使いか!!神魔級魔法も使えるくせして!!」
「ライアさんみたいに、あんなポコポコ使えません!!」
「行ったら死ぬ気がします!!」
「妻と子供を置いて、逝きたくない!!」
「……ガチで切実な言い方ね」
「はい!!」
……そんな危ない所に、魔法は置いてあるんだろうか? 一体何処だ?
「あの~、場所さえ教えてもらえれば、自分で取りに行きますけど……」
「君、死ぬ気か!!」
「ヒイラちゃんが、悲しむだろう!!」
「やめときなさい!!」
「……」
いや、マジで必死な引き止め方だな。ちょっと、俺も怖くなってきた。だが、場所も聞かずに行かないと決めるというのも、おかしい気がする。ともかく、聞き直してみよう。
「一体、何処にあるんですか?皆さんがそんな怯えるような場所とは、一体……」
「……はぁ~、神魔級迷宮よ。ベイ君」
「神魔級迷宮ですか……」
「そう。ちょっと、特別な場所にある迷宮でね。うちの家の人以外は、多分あることも知らない迷宮だと思う。そこに、先祖代々の魔法を書き記した書が、置いてあるわけ。取りに行くの面倒だよねぇ……」
いやいや、面倒どころの話じゃないと思うんですけど。そりゃあ、誰も行きたがらないわ。普通に死ぬし。というか、なんでそんなとこに隠したのだろうか。いや、かなり厳重な自然の警備に守られてはいるけども。取りに行くのが、命がけ過ぎる。
「まぁ、あそこに行けないような奴には、不要な魔法ってことでしょう。そんだけ魔力消費も、威力も高いと……」
「なるほど。そうですか……」
「にしても、あんなとこに置かなくてもねぇ……。今回で、持って帰ってこようかしら。その方が便利だし」
「そうですね。それが良いと思います」
「……もしかしてベイ君、行く気?」
「ええ、はい」
「……うーん、ヒイラちゃんの婿は優秀だなぁ。それに比べて、うちの大黒柱軍団は……」
「そんなこと言われても……」
「命は惜しい……」
あなた達は、ある意味では正しい。それに、必要なのは俺だしな。俺のために行って、死なれたら気分が良くない。俺が行くべきだろう。修行にもなるし。
「良し、それじゃあ、私とベイ君で行こう!!」
「いえ、私達も行きます」
「おっ、カザネちゃんだっけ?かなりやばいよ?それでも良いの?」
「主人と共にあるのが、私達ですから。それに、丁度いい修行になるでしょう」
「おい、神魔級迷宮で修行とか言い出したぞ、あの子」
「常識はずれ過ぎるな……」
スペリオ家の皆さんはかなり怯えているが、うちの嫁達は堂々としたものだった。前は怖がっていたシデンですら、やる気をみなぎらせている。さて、どうなるかな……。
「まぁ、そうね。確かに、良い修行になりそうだわ」
「え、アリー、何を言って……」
「私は正妻。そういうことよ、ベイ」
……いやいやいや、何言ってるのアリー!!!神魔級迷宮だよ!!何があるか分からないよ!!しかも、アリーは普通の、いや、超天才魔法使いだよ!!……あれ、字面的にはいける気がするなぁ。でも、無理だよ!!残るのが妥当だよ!!
「わ、私も……!!」
「あらー、ヒイラちゃんも隅に置けないわねぇ。でも、やめといたほうが良いんじゃないかなぁ。行っただけで、戦意削がれちゃうかもしれないし……」
「ふむ、私も行くべきだろうか。レラさん……」
「いや、やめといたほうが良いよサラサちゃん。お父さんの話だと、近接戦闘主体の戦い方をするなら、神魔級は最悪と言っていいほどの鬼門になるって言ってたからね。侮って行かないほうが良いと思うなぁ。それに、フィーちゃん達に守ってもらう負担を掛けたくないし」
「まぁ、そうですね……。残念ですが」
うーん、俺は頭を抱えて唸っていた。アリーを連れて行く? 神魔級迷宮に? あり得ない選択肢がいきなり出てきて、脳がパニック状態を引き起こしている。こういう時は、冷静な人に聞くのが一番だろう。
「どう思う、ミズキ?」
「そうですね。アリーさんなら、入るぐらいなら問題ないと思いますよ。かなり身体が強張り、動きが鈍くなるでしょうが、私達がいるので、そこは心配ありません。問題は、ヒイラさんですね。正直、入れるか微妙じゃないでしょうか。迷宮前で、体調を崩す場合もあります。あまり、お薦めは出来ませんね」
「そ、そうか……」
あそこに入れるってだけでも凄いんだが、流石に通常通りでいるのはアリーでも無理か。で、ヒイラはよした方がいいと。
「それじゃあ……」
「……」
ヒイラが、俺のローブの裾を掴んでいる。行く気しかなさそう……。何故だ、何故そんなに今回は乗り気なんだ? 二人共危ないのに。
「スペリオ家の最強呪文魔法書とか、ヒイラ専用のパワーアップ魔道具すぎるわよね……。私も、ここらで無茶して、弾みつけとかないと追いつかれそうだし……」
「呪文を覚えて教えるのは、専属契約の魔法使いである私の役目だもん。だからベイ君、私も連れてって!!」
「……分かったよ。でも、ボスとは戦わないからね」
「分かったわ」
「うん!!」
こうして俺達は、スペリオ家が管理している謎の神魔級迷宮に挑むことになった。さて、何属性神魔級迷宮なんだろうか。
「よし、それじゃあ準備しようか!!水属性神魔級迷宮に挑む準備を!!」
「…………み、水属性神魔級迷宮!!!!!」
息が出来ない……。2人を連れて行くのはやめよう。俺は、そう思った。