頼りになる魔法使い
そこからは、一方的な展開だった。俺という脅威に、シデンと協力して耐えるアリーとヒイラ。ニーナとロザリオは、もう戦える状態ではなかったので休ませることにした。耐える3人だったが、明らかに俺のほうが速いし、強い。あっさりと地面に落とされてしまった。それから、夕方になるまで同じ訓練を休みながら繰り返した。
「よし、そろそろ帰ろうか!!」
「はい」
「は、はぁ~…い」
「う、うん……、おばさん」
「大丈夫か、アリー、ヒイラ?」
「な、何とか……」
「帰れはしそう……」
疲れている2人が、身体を引きずりながら帰宅しようとする。流石に辛そうなので、シゼルを呼んで回復してもらうことにした。……俺のだと、変なことになるからな。……むしろ、ライアさんになら見せたほうが良かったか? 原因が、分かるかもしれない。いや、でもこれ以上意外な事実が分かって、俺に都合の悪い情報が漏れても嫌だからな。自重することにしよう。
「シ、シゼルさん、すまないが、私にも……」
「私にも」
「はいはい」
「サラサと、レラもか」
「フィー姉さん相手に、頑張ってましたからね。私は途中でご主人様観戦に入っていましたが、あれだけ動けば、まぁ、そうなるでしょう」
「なるほどなぁ……」
シゼルが皆の回復を済ませ、皆揃って家に帰宅する。その間、フィーが皆の戦い方にアドバイスをしていた。ほぼ全員、近距離戦が得意なせいか、遠距離などでどうしても遅れを取ってしまうらしい。そこを考えたほうが良いとかなんとか……。色々見てるんだなぁ、フィー。そうこうしている内に、家についた。
「よし、今日はお願いして夕食作ってもらってるから、早速食べよう!!そして、お風呂入って寝よう!!」
「「は~い」」
流れるように、家に入って食事をして、ご飯を食べて、布団を敷く。疲れていたのか、アリーとヒイラは、あっさりと寝てしまった。お風呂でも眠そうに俺に寄りかかってたからな。仕方ないか。というか、サラサ、ニーナ、レラ、ロザリオ、レノン、サラもあっさり寝てしまったな。ロデは、まだ起きているか。
「いやぁ~、ベイ君、お疲れ!!」
「ライアさん」
「うんうん、あそこまで強いなんてねぇ。ヒイラちゃんにも好かれてるし、いうこと無いよ。大腕を振って、うちに婿に来なさい」
「はぁ~、ありがとうございます」
「……大丈夫だよ。君は強い。私が保証するよ。だから、怯える必要なんて無いんだ」
「……ライアさん」
「な~んてね。でも、強いと言ってもまだ伸びしろがあるし、私の元で魔法研究をしたらもっと強くなれるよ。そりゃあ、今すぐにでも」
「今すぐにでも、ですか?」
「勿論!!」
それは、凄い興味が有るなぁ。というか、スターはマジで教えてほしい。あの爆発魔法、便利そうだし。
「でも、君も学生だからね。なかなか時間が取りづらいでしょう?というわけで、これをあげよう!!」
「これは……」
「うちの特殊転移魔法石だよ。これがあれば、何時でも頼りになるライアさんが呼べると言うわけさ!!」
「え、良いんですか?」
「勿論!!……私のは、誰かに渡す気なんて無かったんだけどね……」
「え?」
「ああ、いや、何でも無いよ!!どーんと貰っちゃいなさい!!私が、悩める若者を導いてあげましょう!!」
「ありがとうございます、ライアさん」
「いやいやー、気にしないで」
俺が魔法石を見つめていると、ロデが近づいてくる。俺と同じように、魔法石を見つめていた。
「解析して売ろうとか、考えないほうが良いぞ……」
「まだ何も言ってないですよ、ベイ君」
「目がそう言ってた」
「確かに、夫婦で持つ新しい結婚アイテムとかにすれば売れるかなぁ~とかは考えましたけど。解析しようとか、決して、決して考えていたわけでわ……」
「思ってたな」
「思ってました」
「こら」
ロデが、軽くライアさんに小突かれる。それが面白くて、俺達は少し笑った。さて、寝るとするか。さっきのやり取りで切りが良くなった気がする。俺は、布団に入ろうとした。
「ああ、ベイ君、ちょっと寝る前に来てくれるかな?」
「え、何ですかライアさん?」
俺は、ライアさんと共に部屋を出て、庭にやってきた。なんだろう、いったい……。
「……アリーちゃんは、ベイ君のお嫁さんで、正妻なんだよね?」
「はい、そうです」
「……ガーノの爺さんに、その話してないでしょう。アドミルの奴にも」
「えっと、誰かわかりませんが、してないと思います」
「そう。アリーちゃんの爺さんと、お父さんよ。二人共アリーちゃんを溺愛しててね。しかも頑固なの。まぁ、そうなってるでしょうね。マリーちゃんには、言ってある?」
「はい。マリーさんには、良いよと言われています」
「う~ん、なら当面は良いかな。でも、無駄に戦闘知識のあるキレやすいバカどもだからね。ベイ君なら大丈夫だろうけど、おばさんちょっと心配だなぁ……。あれ、使ってくるかもしれないし……」
「召喚魔法ですか?」
「そう、それ」
バルトシュルツ家に伝わるという、神魔級召喚魔物。それ程強いんだろうか。いや、迷宮のボスが3体居ると考えれば、十分脅威かも知れないな。しかも、皆の力を使わずにとなると、かなり辛いかもしれない。
「うーん、あれ、教えてあげよっかな……」
「あれとは……」
「いい、ベイ君。うちは、何に対してでも用意をする家でね。そんなのが居ると知っている以上、対抗策も考えてあるわけよ」
「本当ですか!!」
「うん……。ただねぇ、家の最高魔法でもあるからねぇ。私一人で決めて、あげちゃう訳には行かなくてねぇ」
「なるほど……」
「という訳でだ、ベイ君!!」
ライアさんは、クルッと回転して俺をビシっと指差した。可愛い。
「明日は、皆の前で実力を見せてもらうよ。それで、皆に認められなさい!!その暁には、あの魔法をあげよう!!火・水・雷の獣に対抗するために用意した、三種の神魔級魔法を!!」
「す、凄そうですね」
「まぁね~。威力は、保証するよ。間違いなく、うちでトップクラス。瞬爪よりも、もっと凄い!!」
はぁ~、あんだけてこずった瞬爪よりも凄いなんて、それ、使って大丈夫なんだろうか?国1つ滅んだりしない?
「よし!!明日やることも決まったし、寝よう!!そうしよう!!おばさん、もう眠い!!」
「はい、ライアさん」
その言葉を合図に、俺とライアさんは寝床に戻って行った。スッと布団に入ると、皆が静かに俺の周りに集まってくる。そして、いつも通り密集して俺達は眠った。
「明日こそは、私と過ごす時間を下さいね。主人」
カザネが、耳元でそう言いていたのが、寝る前に聞こえた。