進化する魔神
「行くよー!!」
風炎魔神が、俺の魔神達目掛けて襲いかかる。拳を握るのではなく、広げた状態で腕を突き出してきた。まるで相撲の張り手のようだが、魔神達がその手のひらの直線上から飛び退く。すると、地上に大きな風の爪痕が残った。まるで切り裂かれたかのように、綺麗に地面が抉れている。えげつねぇ……。
「威力を抑えないと足場ごと崩れちゃうから、そこだけしんどいのよねぇ。思いっ切りぶっ飛ばすのが気持ちいいのに……」
「……」
そんな威力の魔法を、どう対処するべきだろうか。俺の防御力に秀でた土の魔神の腕を易易と吹っ飛ぶほど、ゼロ距離であの魔法を受けた時の攻撃力は凄まじい。かと言って、身構えてるのもよくなさそうだな……。地形が狭いから、追い込まれる可能性もある。何とかしないと。
「ベイ、援護するわ!!ヒイラ!!」
「うん!!」
「クリムゾンランス!!」
「瞬爪!!」
「おっと、直接私を狙ってくるとか、遠慮がないねぇ。クリムゾンランスはうちにはないけど、それ相手には丁度いい魔法があるよ!!」
ライアさんの腕から、光の粒子のようなものが放たれた。その粒子は空中にゆっくりと広がり、ヒイラと、アリーの魔法にぶち当たる。瞬間、粒子のきらめきが大きくなり、大きな爆発を連鎖的に起こしていった!! どうやら、その爆風でヒイラとアリーの魔法を相殺したようだ。だが、その爆風自体が凄すぎて、ライアさんも、俺達も魔法で防御壁を作って凌いでいる。足場は、ライアさんが魔法をコントロールしたからなのか、抉れてはいなかった。
「名づけてスター、煌めく爆発する粒子。面白いでしょう」
「……敢えて魔法同士を小さく分けることで、威力を増幅させ合っているというの?」
「まぁ、ムラを作っているといったほうが合ってるかな?威力の集中と、拡散を自由に行えるようにしたのが、このスターなの。爆発によって、捕まえた魔法を綺麗に相殺するようにしてあるわけ。勿論、人が食らうと塵も残らないわね」
「……ぞっとするなぁ……」
「因みに、威力と規模を大きくしたギャラクシー・スター、コスモ・スターって魔法も今考えてるんだよねぇ。まぁ、ここでは使えないから意味は無いけどね」
「……」
ライアさん怖いんだけど。と言うか、このライアさんを圧倒したレムとミズキが凄い。流石だな、あの2人は……。
「さーて、スターを張り直して……。これで、2人の最大攻撃魔法は封じたかな?さぁ、改めて勝負と行こうか、ベイ君!!」
「くっ、まだ魔法はあるけど、この状況じゃ意味が無いか……。ヒイラ、あんたは?」
「この状況で撃てる魔法は、正直ないかな……。意味がなさそう」
2人は手詰まりか。じゃあ、俺がなんとかするしか無いな。2体の魔神が、ライアさんの風炎魔神目掛けて襲いかかる。土のガントレットで右側から殴り、火の棍棒で左側から攻撃した!!両方の攻撃が、風炎魔神に当たる。だが、攻撃したはずのうちの魔神の武器が、逆にはじけ飛んだ。……瞬爪を、使われたか。厄介だな、あの魔法。
「無駄無駄!!ガードにも使えるんだから、その程度じゃあ、意味が無いよ!!さぁ、どうする、ベイ君!!」
風炎魔神が、再度瞬爪を放ってきた。魔神達は、再び回避する。攻撃しても意味が無い。かと言って、待ってても意味が無い。マジでやばいな、どうすればいいんだ? なにか、なにか無いのか。この状況を打ち崩せるような何かは……。俺は、そう思って自分の魔神達を見つめた。
「……」
前のミルクと、カヤに近い形をしている魔神達。だが、こいつらは形が似ているだけで2人ほど強くはない。もし、このどちらかが本物であったなら、俺はこんな悩まなくてよかっただろう。カヤ……、そしてミルク。お前なら、たとえ瞬爪を受けたとしても、ガントレットで受け流せただろう。腕が吹っ飛ぶこともなく、逆に相手の腕をふっ飛ばしたはずだ。お前の密度の高い土の魔力なら、ライアさんの魔法にすら対抗できただろう。そうだったなら、腕も吹っ飛ばされずに……。なぁ、そうだろう……!!
「ミルクゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!!」
「モォォォォォォォオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」
俺は、頭の中で決めた。土の魔神が腕を吹っ飛ばされたんだ!!! だから、土の魔神で決着をつけよう。そう考えた。ミルクの魔法を真似して、再度魔神を再構成していく!!雄叫びをあげた土の魔神を魔力が包み、新たな姿へと変化させていった。一回り小さく、愛らしい見た目へ。そして、戦闘に関係ないであろう最高の胸をつけた姿へと……!!
「お?」
「わ、私だーーーーー!!!!!!!!!!!ご主人様!!!!!!愛してる!!!!!!!」
地響きをたてて、土の魔神が降り立った。今のミルクに、近い姿となって。
「破神のガントレット!!」
巨大なミルクの武装を、土の魔神に装備させる。そして土の魔神が、ライアさんの魔神目掛けて飛びかかった!!
「うーん、魔力密度は濃くなったようだけど、無駄だよベイ君!!その程度では……」
風炎魔神が、空中の土の魔神目掛けて瞬爪を放った!! 普通なら、避けることも出来ないだろう。だが、土の魔神は、ガントレットに重心を持ってきてそこを起点に回転し、空中で瞬爪を回避した。そして、そのままの勢いで風炎魔神に蹴りを入れる!!
「うわっ!!動きはや!!何、その動き!!」
対応が遅れたのか、風炎魔神は何も出来ないまま吹き飛ばされた!!だが、ライアさんが火の魔力を魔神の背中から放出し、その場にとどまらせる。俺の土の魔神と、ライアさんの風炎魔神が向き合った。
「やるねぇ。でも、次は油断しないよ!!」
風炎魔神は、防御姿勢を取る。どうやら、瞬爪での防御に徹するようだ。なら、こっちにも都合がいい。土の魔神に、右腕を突き出させる。そして、腕のガントレットが勢い良く回転し始めた。俺の火の魔神が、土の魔神の背中を持ち、魔力を与える。回転しているガントレットから勢い良く炎が噴出し始め、ガントレットの回転力を上げ、その力を高めていった。
「……なんか、やばそうなんだけど!!」
「まだですよ……」
火の魔神が、土の魔神の背中に魔力となって融合する。そして土の魔神が、右腕に渾身の力を入れて構えた。
「これは魔法というより、物理攻撃じゃないかな、ベイ君?」
「モデルが、そういうやつですんで」
土の魔神が、脚に力を乗せる。そして、風炎魔神目掛けて、勢い良く地面を踏み抜いた!!そして、ガントレットから強烈な火の魔力が放出され、更に加速する!!
「瞬爪!!」
「螺旋破神!!」
風炎魔神に、土の魔神のガントレットが突き刺さる!! 激突の衝撃で、周囲の大気が吹き動いた!! その時、風炎魔神から瞬爪が放たれたが、ガントレットの回転が、その風をいなし破壊する!! そしてガントレットが変形し、杭打ち機のようにガントレットに更に力を加えた!!
「粉砕、ってな……」
風炎魔神を構成している魔力をガントレットで吹き飛ばし、土の魔神の攻撃が、風炎魔神を完全に破壊した!! 地響きを上げて、土の魔神が着地する。そして、ライアさんに向かって拳を構え直した。
「ありゃ~、……こ、降参!!」
「ふぅ……」
ライアさんが、足場から飛び退く。多分、まだライアさんは実力を隠しているだろうが、この場はこれで良しとしてくれるようだ。良かった。これ以上、こんな戦いを続けるのはキツイからな。精神的に……。
「良し、じゃあ、後は皆でがんばってね!!」
「えっ……」
俺は、アリーとヒイラと向き合う。後ろに目を向けると、シデンがしょうが無いなぁというような顔で、気絶しかけの2人を支えていた。……アリーと、ヒイラと戦うのか……。はぁ……。俺は、深くため息を付いた。