魔法の応用
「ひゅ~、逃げ腰にならないなんて度胸あるねぇ、二人共。じゃあ、どう対処するのか、見せてくれるかな!!」
ライアさんの言葉を合図に、風の魔神が俺に、炎の魔神がアリーに殴りかかってくる。だが、その2体の魔神の攻撃は、突如出現した巨大な腕によって受け止められた。
「……へー、ベイ君も、うちみたいな魔法使えるんだぁ。将来有望なお婿さんだねぇ」
「おお!!私、じゃなかった!!土の魔神ですよ!!いやぁー、ご主人様の土の魔神は最高ですね!!誰かへの愛が、にじみ出ている気がします!!誰とは言いませんが!!誰とは言いませんが!!」
空中に出現した土の魔神が、徐々にその姿を現していく。それと同時に、その怪力で2体の魔神の腕を、握り潰した!!
「わーお、やるねぇ~!!」
2体の魔神は、体制を立て直すように後ろに少し身を引く。そして、魔神が腕に力を入れるような動作をすると、新たな腕が生えてきた。……ライアさん相手に、魔力切れを狙うのは難しいみたいだな……。
「おっと、高い火力の魔法が出せるのは、ベイだけじゃないわよ、おばさん!!」
「行きます!!」
アリーが手のひらを合わせてその腕を開き、巨大な火の魔力の槍を作り出す。その炎の槍は空中に浮き、アリーの手の平の上で、炎の魔神に狙いを定めて止まった。瞬間、強烈な加速とともに炎の槍が、魔神目掛けて突き刺さる!!
「爆ぜなさい……」
パチィンと、アリーが指を鳴らした。その時、炎の魔神の体内から光が漏れだし……。
「シデン!!2人を繋ぎ止めてろ!!衝撃が来るぞ!!」
「はい!!」
強烈な爆発と共に炎の魔神は、内部から砕け散った!!そして、その爆風に乗じて、ヒイラが魔法を撃ち放つ!!
「瞬爪!!」
ヒイラの目の前の地面が、何かに押しつぶされたかのように、突如としてへこんだ!!一瞬の後、柔らかな風が俺達を吹き抜ける。そして、目を向けると風の魔神は、なにか巨大な獣にでもひっかかれたかのような切り傷を受けて、その場から消滅した。
「おおー!!アリーちゃんの魔法、ガーノの爺さんがやってたやつじゃん!!しかもヒイラちゃんまで、家で結構威力のお高い魔法なんて身につけて。どうしたの?凄い、凄い!!」
掛け値なしで、ライアさんは2人の成長を喜び、拍手を送っていた。ヒイラは照れたように笑い、アリーは、当然といった感じで身構えている。……俺の嫁つええ。
「ヒイラちゃん、瞬爪なんて使えなかったでしょ!!いつから使えるようになったの?アリーちゃんも」
「最近は、良い練習相手が居ますからね」
「あはは、私は、アリーちゃんにアドバイスを貰って……」
「ふ~ん、ヒイラちゃんも、そんなレベルに達してきたのかぁ……。ああ、つい最近まで魔神創造の初期段階でつまずいてたのに、もうそんな所に。これが、若さって奴かしらねぇ……」
ライアさんは、目を閉じてしみじみとしている。だが、その脇で2体の魔神が、瞬時に復活していった。
「……はぁ、きりがないわね。分かってたことだけど」
「そうだね」
「ふっふっふっ、ここの地形は面積も狭く、攻撃も回避しづらい。そこに、この魔神のような広範囲攻撃が出来る魔法を撃たれ続けるのは、ちょっと厄介だよねぇ。さぁ、どうする?私と、魔力保有量の大きさで勝負でもしてみる?それとも……」
ライアさんが、怪しげな笑みを浮かべる。その後ろで、2つの魔神が渦を描くように魔力に戻り、その形を1つにしていった。
「諦めて降参する?」
風と炎の混じった魔神が、その場に降臨する!! その魔神は、俺の土の魔神めがけて、拳を振るってきた!! 俺も、負けじと応戦させる。2体の魔神の拳が、ぶつかり合った!! だが……。
「嘘だろ……」
俺の土の魔神の腕が、肩から無くなっている。間をおかずに、ライアさんの魔神は、更に攻撃を仕掛けてきた!! とっさにもう一方の腕で防がせるが、これも易々と腕を砕かれてしまう。すまん、ミルク……。
「はい、とどめ!!」
ライアさんの魔神が、土の魔神を消し去ろうと止まること無く拳を振り下ろした!! だが、そんな簡単に負けるつもりはない!! 最後の一撃だからと、気を抜いていたライアさんの魔神は、別の角度から放たれた攻撃をよけきれなかった。そのまま体制を崩し、ライアさんの後ろに戻る。俺の土の魔神の前には、カヤそっくりの炎の魔神が出現していた。土の魔神も、魔力を注いで腕を直す。
「へー、ベイ君、うちの炎の魔神まで……。誰が教えたのかなぁ……。何処かの恋する乙女さん?」
「!!!」
ヒイラは、ライアさんのからかうような言葉に、少し顔を赤くしている。可愛い。それはいいんだけど、この魔神での勝負、勝てるんだろうか? いや、魔神での勝負に拘る必要はないんだろうけど、魔神が居てくれないと、ライアさんの魔神の攻撃を防ぐのが面倒くさいことになる。かと言って、2体になったからと言って、相手より強いという気もしない。……果てさてどうしたもんだか。と言うか、なんで合体しただけであんな強いんだ? 特殊なやり方で運用してるんだろうか?
「おっ、ベイ君不思議がってるねぇ。まぁ、確かに君の土の魔神と、こっちの風炎魔神は、構成魔力量的にはどっこいどっこいでしょう。しかーし、それが魔神創造の強さじゃないわけよ!!いい、魔神創造っていうのは、言ってみれば巨大な魔力の塊なのよ。ということは、さっきヒイラちゃんが使ったみたいな魔法だって、その体から放てるということでもあるわけね」
「!!ということは……」
「その通り!!瞬爪を拳から放ったから、ベイ君の魔神の腕は易々と吹っ飛んだの。これが、魔神創造の強みなわけ。何が起こってるか、解らなかったでしょう?そりゃあ、魔神自体がでかい魔力の塊だもんね。その中で別の魔法を発動されても、魔神の魔力に隠れてて、何してるか見えないってわけよ。分かった?」
「なるほど……」
巨大な、カモフラージュでもあるわけか。しかも今の口調だと、魔神は最終的に、その身体の魔力すべてを攻撃魔法として放つことも可能というわけか。とんだ魔法爆弾だな。そりゃあ、神魔級の魔法だわ。
「さぁ、分かった所で立ち向かってみよう!!修行再開!!」
土の魔神と炎の魔神が、ライアさんの風炎魔神に向けて、身構えた。