武闘派魔法使い
「さーて、次の修行はこれよ」
「これですか」
とある場所で、ライアさんは足を止める。俺達は、その場所を見渡した。……どう見ても崖なんだが、大丈夫だろうか。
「ふふふ、ここは山頂の最も高い位置から見渡せる崖よ。そして、風が吹きすさぶ、強風ポイントでもあるわけ」
そう言うとライアさんは、片足でぎりぎり乗れるような不安定な岩の足場に飛び移る。そして、吹きすさぶ強風から風魔法で身を守って、バランスを保っていた。今度は、そういう修行なんだろうか?
「はい、皆も同じようにして~」
ライアさんの合図で、俺とアリー、ヒイラ、ニーナ、ロザリオが、ライアさんが新しく作った同じような不安定な足場に飛び乗る。……ニーナとロザリオ大丈夫かなぁ。すごく不安だ……。
「それじゃあ、今から戦闘訓練をしまーす!!」
「……はぁ?」
「ベイ、ルールはこの不安定な足場にしか乗っちゃいけないことよ。それ以外は、延々と戦闘訓練。まぁ、私達の学校の大会の、足場が悪いバージョンってことよね。あと、対戦相手が複数ってとこかしら」
「そうそう、皆が皆、他の全員を狙う気で攻撃してね。まぁ、ニーナちゃんと、ロザリオちゃんを助けるのは良しとしましょう。ちょっとその2人は、不安な気がするからね」
そりゃあそうだろう。既に二人共ビクついて、腰が引けてしまっている。つついたら落ちそうだ。
「それじゃあ、始め!!」
合図とともに、ライアさんが20発の炎の弾丸を射出する!!俺達に、それぞれ4発ずつの攻撃をして来た。
「「ひええええええぇぇぇぇぇぇえええええええ~~!!!!!」」
ニーナとロザリオが、かなり必死な体勢で回避のために飛び退く。だが、お互いに同じ場所に飛び乗ろうとしたため、早くも落ちそうになっていた。
「あ、ちょ!!」
「お、落ち!!」
バランスを崩しそうになる2人。その2人を、誰かが支えた。2つの鎖で2人を持ち上げて、別々の足場に下ろす。
「危ないですね」
「シデンちゃん……」
「ご主人様、私が2人のサポートをします。お任せ下さい」
「……ああ、頼んだぞシデン」
どうやら、シデンも危なっかしくて見ていられなかったようだ。これで、2人に関しては安心出来るだろう。なんとなく、俺もホッとした。
「うーん、まぁ良いでしょう。面白い魔法を使うみたいだし、その2人のサポートを許可します」
「呑気に言ってる暇はないですよ、おばさん!!」
「おっと!!」
アリーが、聖魔級強化をかけて、ライアさんに殴りかかった!! えー、そこまでするんですか、アリーさん。しかし、ライアさんも難なくその攻撃を避ける。 ? 今のどうやって避けた? 風魔法かな?
「よっと。アリーちゃん、少し合わない間に面白い魔法を身につけたね。前に、ヒイラちゃんが言ってたやつかな?」
「その完成形ってとこですかね……」
「なるほどねぇ。これは、迂闊に油断も出来ませんな~」
言葉とは裏腹に、ライアさんの口調は余裕そのものだ。再び、ライアさんは足場を蹴って飛ぶ。すると、空中で瞬間加速した!!
「ふっ!!」
ライアさんの空中回し蹴りを、アリーが受け止める。……最近の魔法使いは、武闘派なんだなぁ。怖い。そして、蹴りの衝撃で足場が壊れそうになったので、アリーが飛び退いた。別の足場に着地して、体勢を立て直す。
「うんうん、成長したねぇ、アリーちゃん。おばさん、嬉しいよ」
ライアさんも、別の足場に着地した。着地の瞬間、ライアさんの足元から火花が散る。……火魔法か? いや、風魔法と火魔法の合わせ技って感じかな。それで、瞬間加速をしているのか。通りで速いはずだ。
「でもねぇ、大抵の魔法使いは接近戦に弱いかもしれないけれど、おばさんほどになるとそんな戦いは、嫌という程経験しててねぇ……」
そう言うとライアさんの身体を中心に、風が逆巻いていく。その風は小さな竜巻となり、上にピンと伸ばしたライアさんの指先の上に止まった。
「だから……」
ライアさんが、ゆっくりと指先をこちらに向ける。来るか……。
「その程度じゃあ、……私には届かない!!」
ライアさんが、勢い良く指を持ち上げる。それと同時に、竜巻が俺達の中心に飛んできながら巨大化した!!
「うわあああぁぁぁあああ!!!!!」
「こん、大丈夫ですニーナさん。落ち着いて」
シデンが、片方の鎖で2人を捕まえて、片方の鎖を地面に刺してバランスをとっている。だが、飛ばされるのも時間の問題だろう。
「くっ!!」
ヒイラが、竜巻に向かって別の竜巻を発生させ、竜巻を相殺した!! 続けて、ライアさんに攻撃を仕掛ける!!
「炎神!!」
巨大な炎の魔神の腕がその場に出現し、ライアさんに殴りかかった。しかし、ライアさんは涼しい顔をして目を閉じている。
「風神」
パーーン!! と、炎の魔神の腕がはじけ飛ぶ!! そこには、風の魔力で出来た巨大な腕が存在していた。
「うーん、前よりは良い威力出るようになったね、ヒイラちゃん。でも、まだまだかな」
風の腕から、徐々に体が出現していく。造形的にも筋肉モリモリで厳つい、風の魔神がそこに出現した。
「ああー、でも、今日はベイ君も、アリーちゃんもいるし。こいつ一体だと、ちょっと不足かもしれないね」
そうライアさんが言うと、風の魔神と並び立つように、ライアさんの炎の魔神が姿を表していく。2体の巨大な魔神が、空中に吠え、辺りに爆炎と強風を撒き散らした。俺が、皆を庇うように風魔法でその衝撃を防ぎきる!!
「くっ!!」
俺達の乗っている足場以外の地面が、一瞬にして火の海に変わった。ライアさんが笑みを浮かべると、2体の魔神がこちらに向かって身構える。
「さぁ、始めようか。修行を」
ライアさんは、とても楽しそうな表情でそういった。……ちょっとやり過ぎじゃないか。いや、そうも言っていられないか。
「ベイ……」
「ああ。シデン、そっちは任せたぞ」
「お任せ下さい!!」
俺とアリーは、ライアさんに向かって身構えた。