待ちきれないアリーさん
「そろそろお昼かぁ……」
ニーナとロザリオの行き来が、10回目に突入しようかというところでそんな腹具合になってきた。ライアさんを見ると。
「そうね、お昼にしましょうか」
と言って、滝から全員で出ることにした。俺が、おーい!!と木々が吹っ飛んで宙を舞っている部分に向かって叫ぶ。すると、即座に皆が帰ってきた。遅れて、サラサとレラもやって来る。
「はぁ……、はぁ……。皆さん、早すぎでしょう……」
「ちょっと私でも、ついていくのキツイ……」
あのサラサとレラが、ここまで疲れているとはなぁ。皆は、疲れが見えない辺り流石だ。と言うか、シデンも疲れてなさそうだな。やっぱり、強くなっているのか?それとも、戦い方の問題だろうか?シデンがここに飛んで来る時、紫色の鎖みたいなのに引っ張られていたな。あれで移動しているから、そんなに疲れないんだろうか。
「良し、お昼にしましょう!!」
ライアさんの声で、お昼の準備をする。用意したサンドイッチを皆で食べた。なんか、サンドイッチが減るスピードが速い気がする。皆疲れているみたいだし、お腹も減っているんだろう。それでかな。多めに作ったサンドイッチは、あっさりとなくなっていった。
「それでおばさん、個人で保有魔力の特性に違いがあるっていうのは、どういう考えでそう思ったの?」
「ああ、やっぱり気になる、アリーちゃん?そうだねぇ……。まぁ、元は魔力を回復する研究をしてたんだよねぇ。でね、魔力を回復するには、魔力を吸収出来るようにするのが一番じゃない。でも、吸収って、魔力を自分の中の魔力にぶつける行為なのよね。でも、魔力は消費されずに保持される。そこで、ふっと思ったのよ。何で体内にある魔力は、相殺されずに保持出来てるんだろう、ってね」
「なるほど、確かにそうですね」
「でしょう。そこで仮説を立てたのよ。保持している魔力は、相殺しあわない何らかの処理をされて保持されているってね。そこからは、ちょっとした実験をしたわ。協力してもらって魔力をぶつけあう研究とか、合体魔法とか……。まぁ、見事に相殺、相殺の実験結果だったけど。まさか、個人での保有魔力に合わせられる魔法使いが居たなんてね。ちょっと信じられないわ。まぁ、ベイ君とニーナちゃんの間でだけかもしれないけど……」
「なるほど、絶対に相殺されるのではなく。合わせることによって相殺されずに保持することが出来る様になるという仮説が、立証出来た訳ですね。ベイの行為によって」
「まぁ、多分だけどね。しかも、体内に直接送ってとか、かなり危ないことを平気でするんだもん。おばさん、思わず目を見開いちゃった。あれ、かなり危ないからね。気をつけたほうが良いよベイ君。体内で魔力が暴発したら、ニーナちゃん、吹っ飛んじゃうからね」
「……」
想像したくない光景だな。……気をつけよう。
「大丈夫です、私、ベイ君を信じていますから!!」
「ああ、ありがとうニーナ……」
命が危険に晒されていたニーナではなく、俺が励まされるのか。ありがとうニーナ。
「……つまり、ベイは他人に、魔力を分け与えることが出来るということですか?」
「それだけじゃないよ。他人の魔力を、自分のものとして使えるということでもあるね。まぁ、そんな使い方、あまり意味があるとは思えないけど」
「何でですか?かなり使えると思いますけど……」
「見たところ、ベイ君の保有魔力量はかなり高いと私は思うのよね。その年でそれだけの魔力量があれば、他所からの補充なんてまず必要ないでしょう。むしろ、他の人が魔力枯渇するほうが速いと思うわ」
「……それもそうですね」
……もしかして、俺が皆の魔力を使えているのって、それが理由なのか?つまり他の人では、俺の召喚魔法による魔力の底上げは出来ないってことなんじゃあ……。まさかな……。いや、それよりも何時からこういう体質になっていたんだ。いつからだ……。
「うーん、後はあれが試せれば、あってるか分かると思うんだけど……」
「あれとは?」
「合体魔法ね。自分で放った魔法は、途中でくっつけることも出来るの。これは、アリーちゃんもやったことあるんじゃないかなぁ。威力を打ち消しあわずに、両方の威力を保持するようにするの」
「はい。うちにも、いくつかそういう魔法がありますね」
「でもね、この魔法って、2人でやると全然上手くいかないの。必ずお互いの魔法が、お互いの魔法を相殺して威力を弱めてしまう。これが出来れば、ベイ君が相手の魔力に合わせてるって確定できると思うんだけど……。やってみる?」
「……でも、自分で合わせてる実感が無いですからねぇ。出来るかどうか……」
「まぁ、物は試しよ。ほら、今私がつけた火の魔法に、同じ火の魔法を合わせて大きくするイメージを持ってやってみて。駄目なら相殺、上手く行けば火が大きくなるってわけ。さぁ、どうぞ」
俺は、ライアさんの指先についた火に、空中に出現させた火を合わせるイメージで放ってみた。すると、ライアさんの指の上の火と混じり、大きな火に変化する。……わぁーお、成功しちゃったよ……。
「まさか、本当に出来るなんて……。何で?」
「いや、俺にも分からないんですけど……」
ライアさんが、驚愕したような表情を浮かべる。そして、大きくなった火に魔力を注ぎこみ、その形を何度も変化させていった。
「うーん、2人の魔力が合わさった火なのに、まるで自分の魔力みたいに素直に使えるわね。……凄いどころか、逆に怖いわね、これ」
「えっ」
ライアさんは手で火を握りつぶし、そのまま消した。そのまま、なんとも言えない表情で俺を見ている。その目は、なんで? と、俺に言っているように感じたが、俺が答えられるはずもなかった。
「うーん、まぁ、考えても分からないんじゃあしょうが無いか。さて、次の修業をするわよ!!次、次!!」
ライアさんは、迷いを振り払うように勢い良く立ち上がる。俺も釈然としないまま、その後を付いて行った。




