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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第二章・六部 攻撃魔法のスペリオ家
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見えないゴール

「……」


 なんとなく目が覚める。外はまだ暗い。何時だろう。俺は周りを見渡した。皆寝てるな。そして……。


「むにゃ……」

「……」


 ミルクは、俺の股下で寝ていた。相変わらずだな。……何故か全然眠くない。目が冴えてしまっているようだ。アリーの寝顔をスッと横目に見る。可愛いな。心が落ち着く。だが、何処かまだ寝る気になれなくて、俺は布団にシデンとミルクを残して外に出た。


「はぁ……」


 聞こえるのは、風の音だけだ。月が静かに周りの景色を照らし出している。雑魚寝。布団を敷いて、それぞれの布団に寝る寝方だが、その分皆と寝る距離はあいてしまう。いつもと寝方が違ったからだろうか、今日はやけに変な気分で起きたな。……俺は、静かに目を閉じた。そのまま、魔力を感じ取る感覚を広げていく。その距離は伸び、一瞬にして大きな距離を超え、その場所を捉えた。


「……近いな」


 創世級迷宮。どうやらあの場所は、ここからそう遠くない距離にあるようだ。と言っても、俺達が行くのならと言う限定的な近さではあるが。


「ふぅ……」


 身を震わせる。今は皆と一体化もしていない。今だとこんな感じなんだろうか。俺とあいつらの実力差は。だいぶ縮まったようだが、それでも震えが止まらんな。何処があいつらに勝てるゴールなんだ?俺の思考では、考えられないほどの実力差があるように思える。しかも、まだ完璧に近づいたわけでもないのにこれだ。至近距離で捉えたら、まだ俺達でも死ぬかもしれないな。そんな感覚が、全身を走っていた。


「クッ……」


 だが、殺さなければいけない。アリーのために、皆と生きていくために。俺は、力強く拳を握りしめて震えを止めた。……爪が食い込んだせいか、血が出始めたな。回復魔法で治しておかないと。


「……」


 本来、こういう立場にいるんだよな俺は。皆と楽しく過ごせているが、いつ壊れるか分からない日常の上に立っている。今までの時間だって、もっと有効に使えたんじゃないか。そう、あいつらと戦うために、少しでも強く……。


「ウェッ……」


 くそっ!! 体の震えの次は、吐き気かよ!! 本当にやわな体だな。そう内心で悪態をつきながら、我慢して俺は身体を平常心に戻していった。ヒイラの実家で吐くというのも、嫌だし。


「はは、まったく、俺は1人で何やってんだかな……。1人でやるわけじゃないのによ……」


 確実に、フィー達には手伝ってもらうことになるだろう。俺1人では無理だ。あいつらが居ないと、もう壊れそうなほど柔らかい精神をしている。身体もだ。こんなにも鍛えてきたのに……。


「人が立ち向かう問題じゃないよな……、まったく……」


 月を見ながら、俺はそう思った。ケタ違いの問題過ぎる。開き直って、来世に期待しても良い。そう言う問題だ。だけど俺は……、俺は……。


「眠れないのかな、ベイ君」

「……ライアさん」

「よっと、難しい顔をしてるねぇ。1人で考え事かなぁ……。まぁ、あんな人数のお嫁さんが居るんだもの、1人になりたい時だってあるよね」

「あはは、…ええ、はい」


 ライアさんに向けて、俺は無理やり笑顔を作った。身体を落ち着かせる。こんな無様な姿を、ヒイラのおばさんに見せる訳にはいかない。俺は、深呼吸して表情を整えた。


「……無理してるね」

「えっ?」

「まぁ、年頃の子のことなんて、おばさん分からないけどさ。無理して色々貯めこむと、最後には爆発しちゃうよ。体ごとね」

「は、はぁ……」

「まぁ、何が言いたいかというと……」


 ライアさんは俺に近づいてきて、ゆっくりと抱きしめてくれる。俺は座っているから、後ろから抱きしめられた。暖かい、安心するな。


「何抱え込んでるかしらないけどさ、おばさんみたいに頼れる大人に相談してみなさい。こう見えても、一つの家を仕切ってる家長なんだよ。大抵のことはなんとかしてあげられるしさ。さぁ、爆発しない内に、相談してごらん」

「……」

「あっ、男女仲に関しては、付き合ったことも、結婚したこともないから、あんまりアドバイスしてあげられないかもしれないけど。それでも、言うだけでも楽になるもんだよ、ベイ君」

「……ありがとうございます、ライアさん」


 優しさが心にしみる。でも、言うわけには行かないんだよな。こんなの、言ってもライアさんが眠れなくなるだけだろう。……こんな気分、他の人に伝える訳にはいかない。俺には皆が居るんだ。だから、今まで潰れずにやってこれた。それを他の人に伝えたとこで、他の人にはこの感覚から抗うすべがあるのだろうか? 途方も無い絶望感。諦めという、重くのしかかる言葉。そして、世界が終わるという、明らかに逃れようのない真実。誰でも潰れてしまうと思う。いや、潰れるだろう。その状況に負けず抗えたとしても、あいつらが出てきたら、それすらも……。


「……」

「ベイ君?」

「いえ、何でもありません。気にしないでください……」

「……そう」


 力を入れて立ち上がる。だが、ライアさんに引き寄せられて、また座らされてしまった。ギュッと力を入れて、抱きしめ直される。ちょっと痛い……。


「ら、ライアさん?」

「気にしないの、おばさんがしたいだけだから……」

「は、はぁ……」


 何で、ライアさんが泣きそうな顔してるんだろうな。伝わってるのかな。同じ創世級迷宮を見てきた人間同士だから、この感覚が分かるのかもしれない。立ち向かわなきゃいけない俺とは、少し違うかもしれないけど。


「……ライアさん」

「……」


 そのまま数秒、そして、ライアさんの力が緩んだ。ライアさんは、勢い良く立ち上がる。


「良し!!修行しましょう!!ベイ君も一緒に!!」

「えっ?」

「しましょう、修行!!それしか無いわ!!前に進むこと。それしかこの不安を晴らす手立てはないわ!!だからやりましょう、ベイ君!!」

「……えっ?」

「やりましょう!!」

「えっ、あっ、…はい!!」

「良し!!そうと決まったら寝るわよ!!明日は忙しくなるわ!!ベイ君も早く寝るのよ!!おやすみなさい」

「えっ、は、はい。おやすみなさい……」


 そう言うと、ライアさんは寝床に戻っていってしまった。そうだよな。前に進むしか無いよな。俺自身のためにも、皆のためにも……。


「……寝るか」


 もう一度月を見上げて、俺も布団に戻ることにした。




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