就寝
(10、いや11人俺の上に乗ってるのか……。それでも運べるんだから、我ながら凄いな……)
「主人、そこを右ですね」
「主様、そこ左」
「ああ……」
肩に乗っているカヤと、カザネの指示でアリー達を追いかけて行く。と言うか、シデンが顔に抱きついてて前が見えないんだよなぁ……。シデンは降りる気がなさそうだし、このまま行くしか無いか……。
「うーん、やっぱり寝るようの部屋じゃないから、床が汚いわね。少し掃除するしか無いかしら……」
「おばさん、机移動させるわね。ヒイラ、そっち持って」
「うん」
「皆も頼む。ミズキ」
「承知」
皆が俺から降りて、テキパキと机や椅子や、家具を運びだしていく。大きな棚もあったが、ミルクなら楽勝だ。その皆の脇で、ミズキが印を結ぶ。ニンジャっぽい……。
「水糸重網陣」
ミズキのその言葉と共に、部屋の一面に水の糸が広がっていく。細かな水の糸は一瞬にして部屋を覆い尽くし、きめ細かな水の膜を張った。ミズキが腕を持ち上げて、物を摘み取る動作をする。すると、部屋に行き渡っていた水が宙に浮き、丸い球体となった。そのまま転移魔法で、水の球体は外へと捨てられる。部屋を見渡すと、まるで新品同様のように、壁も、床も綺麗になっていた。
「す、凄い……。ちょっと気になってた壁のシミも、カビも、ホコリひとつ無い。何、この魔力コントロール?ま、マジであんた、何者……」
「ニンジャ、そして殿の嫁です」
「に、ニンジャ?」
何でも出来る。流石ニンジャだ!!この世界では知名度が低いようだが、いずれ伝説として語られていくだろう。ミズキの名前と共に。というか、今の魔力コントロール何?俺でも出来ないんだけど。
「ちょっと張り切りましたが、驚いて頂けたようですね。嬉しいです、殿」
「ああ……、ミズキは凄いなぁ……」
何が凄いって、カビやホコリ、いわゆる汚れだけを水で絡めとっている点だ。そのコントロールは、極小の動作を完璧に行っていることを意味する。しかも、この部屋全体でだ。人間では出来ないだろう。脳が焼け死ぬ。
「殿なら出来ますよ」
「あはは、どうかなぁ……」
無理です!!
「よーし!!ともかく掃除も出来たし、布団を敷きましょう!!こんなあり得ないコントロール、気にしてたら神経がやられそうだわ!!忘れましょう!!さぁ、行くわよ!!ヒイラちゃん、アリーちゃん!!」
「あ、待って下さい、おばさん!!」
「アリーちゃん、布団があるのは魔法道具倉庫だよ」
2人は、ライアさんに連れられて行ってしまう。何もしないというのも手持ち無沙汰だし、俺も行くか。その後、皆でわいわいと布団を敷いて並べた。
「よーし、寝る準備はいいわね。あとは、晩ごはんかしら。流石にもう、家の子達は食べ終えてるでしょう。じゃあ、食堂に行きましょうか」
ライアさんに付いて行って、皆で食堂に移動する。席に座ると、俺の隣にシデンがやって来た。
「えへへ、やっとシデンの番です」
「ああ、そう言えば次はシデンだったな。おいで、シデン」
「あ、ご主人様」
俺は、隣りに座ったシデンを抱き寄せて、俺の膝の上に座らせる。ちょこんと座っているシデンが可愛い。
「ご主人様、ここではご主人様に、あーんがしづらいです」
「そうかなぁ?はい、シデン、あーん……」
「あ、あーん……、もぐもぐ」
「美味しいかい?」
「美味しいですけど、嬉しいですけど……。シデンがします!!ご主人様、あーん!!」
「あーん」
率先して、シデンからリードを奪っていく。シデンが先に行動すると、ミルク並みに誘惑してくるからな。大事な行為だ。皆の前で、幼女に誘惑されるとか、どんなプレイだよ。いや、嫌じゃないけど、視線が気になるだろうし。仕方ないよな……。
「シデン、お口汚れてるよ。拭いてあげる」
「こん、ご主人様……!!もう……、そういうことは、シデンがしたいのに……」
「あはは、まぁ良いじゃないか」
「良くないです!!嬉しいですけど……、何か良くないんです!!」
シデンが、俺の上でユサユサと体を揺らして少し怒っている。あはは、シデンは可愛いなぁ。皆の前でなければ、きっと狐耳と、しっぽを揺らして怒っていたことだろう。ああー、それやばいな。めっちゃ可愛いな。見たかったなぁ……。
「こん……、でしたら!!」
「むぐっ!!」
シデンが、飲み物を口に含んで飲ませてくる。口移しかよ!!いや、流石にこれは、皆の前でするには高度過ぎるプレイでは?
「ぷはぁ~、美味しいですか、ご主人様?」
「ああ、美味しいよ……」
(見事です、シデン。後で、私がやりやすくなります)
(えっへんです)
……カザネとシデンが、目で語り合っている。大方こんな感じだろう。いや、君たちはいいかもしれんが、ライアさんの目線が痛いからね。少しは遠慮して頂きたい。まぁ、そんな感じで、食事は終わった。お風呂も入ったので、皆着替えて布団に潜る。ライアさんも、一緒に寝るんだな。そうか、監視役か……。
「こん、ご主人様、今日はシデンが腕枕してあげますね」
「えっ!!……いや、シデンには、抱枕になってもらおうかな」
「あっ、ご主人様……。分かりました。存分に抱いて下さい」
シデンの細い腕枕とか、折りそうで怖いよ!!いや、魔物だから、見た目より耐久力は高いんだろうけど、精神的に辛い。抱きしめる方が無難だな。シデンって体温が高いのか、ぽかぽかして良いなぁ。良く寝れそうだ。
「さて、皆おやすみなさい。ヒイラちゃん、明日はやるわよ!!」
「ひいいいぃぃいいいいい!!!」
「あれをやるのね。まぁ、頑張ってねヒイラ……」
「アリーちゃんもやるんだよ?」
「えっ!?」
「まぁ、おやすみなさーい」
「おばさん、どういうことですか!!おばさん!!」
「……」
アリーの問いかけも虚しく、ライアさんは寝てしまったらしい。速いな、寝るの。俺達も、そのまま寝ることにした。
「おやすみなさい、ご主人様」
「おやすみ、シデン」
「うぎぎ、シデン。羨まし……」
「ミルク、我慢だ……」
「分かっています、分かって……、います(後で、ご主人様の股下に行きましょう)」
「……」
ミルクの心の声が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。そのまま俺は、眠りに落ちていった。