聖魔級・回復魔法
「ハッ!!」
いつもどおりの早起きを、俺は華麗に決めた。が、フィーとレムに挟まれて起きれなかった。う、動けない。仕方ない、ちょっと強引にでも動いて……。動かない!! ガッチリ、レムに掴まれた腕が動かない!! 太ももに挟まれ、腕も絡められている。や、柔らかい!! だが、全く抜け出すことが出来ない。どんなパワーしてるんだ。腕が潰されてないのが幸いだ。なら最終手段だ!! 召喚解除して魔石に戻そう。あれ、戻らない。つまり今のレムは、召喚魔法で呼び出されてないレムなわけか。一体、何故……。し、しかたない。
「レム。レム。起きてくれ」
「うぅん、主、おはようございます……」
「むぐっ」
顔を、胸元に抱きかかえられた。むにゅっとしている。温かい。朝からデリケートなところに、突然の試練が襲い掛かる。落ち着け。肉体年齢は低いが、俺の精神は大人なんだ。そうだ、暴れるなよ。暴れるな。
「れ、レム。いいから、魔石に戻りなさい。やばい、やばいから……」
「うぅん?魔石に……。あっ!!」
レムは、あっ、そうだ的な顔をした。分かりやすい。しかし、あのレムがここまで表情豊かに。ちょっと感動。
「すみません、主。朝からで恐縮なのですが、ミルクを迎えに一緒に行ってはくれませんか?」
「えっ?ミルクを?」
「はい、出すことは出来たのですが、主でないと魔石に戻すことが難しいらしくて……」
「?」
瞬時に転移魔法で飛ばされて気づくと俺は、レムと風属性中級迷宮にいた。フィーは、召喚解除して魔石に戻そう。ベッドに置いとくわけにもいかないしな。で……。
「ミルク、なんで隠れてるんだ?あと、なんでこんなところに?」
正確には、でかすぎて隠れれてないが、顔を見せないように背中を丸めて縮こまっているミルクが居た。
「(ああ、いえ、少し朝のトレーニングをレムとしまして!!ああぁ、ご主人様、あまり見ないでください。マッチョな私を、目に焼き付けないで……)」
だいぶミルクは、マッチョになってしまったのを気にしているようだ。身体を腕で抱きしめて、必死に隠そうとしている。隠れれてないが。
「……大丈夫だ。俺に、ミルクは必要な子だ。マッチョだからって、嫌な印象を持ったりはしないよ」
「(いえ!!私が美少女化した時、いざ実戦というところでこの姿を思い出してもらって乗り気にならないなんてことになったら目も当てられませんからね!!幸せな家族計画に、支障が出ますから!!)」
なんというか、ものすごい未来の展望を聞かされたような……。いや、まぁ、もしもの話だし。
「……とにかく、ほら」
手からミルクの魔石と、レムの魔石を出して触れさせる。二人共、魔石に戻った。
「そう考えこむなよ、ミルク。お前が進化で得た力だ。なにも恥じることはないし、俺が変に思うこともない」
「(うぅ、優しさが胸にしみます……。ありがとうございます、ご主人様)」
「まぁ、ともかく帰るぞ。レム、ミルク」
レムを召喚して、部屋に転移してもらう。う~ん、ミルクのために何か進化に役立つことをしてあげるべきかな。何か考えてみよう。とりあえず、やりたいこともあるのでそれを先に済ませてからにするか。俺は、朝ごはんを食べてから話を切り出した。
「母さん」
「うん?なにベイ、今日はお弁当いらない日よね?」
「ああ、弁当のことじゃなくて、聖魔級の回復魔法を教えて欲しいんだけど」
「えっ?」
カエラは、ひどく驚いた顔をしていた。
「いい、ベイ。聖魔級魔法は、簡単に撃てるもんじゃないのよ。熟練の魔術師が、ようやく一回撃てるようなものなの……」
「ああ、大丈夫だよ。ちょっと、研究してみたいだけだから」
嘘である。レムが進化したことで、共有魔力が恐ろしいほど跳ね上がっている。だから、今の俺ならレムの魔力を使ってだが、聖魔級魔法を連発出来るだろう。レムが、聖魔級魔物になっているとすれば、聖魔級魔法を通常で使っても大丈夫なほどの実力があるはずだ。それに、この前はレムの回復に時間を取られた。より上位の回復魔法を俺が覚えれば、仲間にとってプラスになるだろう。そ、それにほら、相手を喘がせる効果も、今回はつかなくなるかもしれないし。
「うふふ、ベイが私と同じ治癒魔法を研究してみたいなんて。嬉しいわ。ちょっと待っててね。今、呪文書持ってくるから」
こうして俺は、呪文詠唱をして聖魔級回復魔法・ヘブンズキュアを使えるようになった。このクラスの回復魔法になると人体欠損も回復させることが出来るらしい。状態異常回復、魔力回復など全体的にトップクラスの回復魔法だ。
「(うわっ、ご主人様の回復魔法が高威力に。ゴクリ……)」
「(マスター)」
「(主、恐ろしい力を得られましたね)」
いや、まだそうと決まったわけじゃないじゃん!! 皆、そんなリアクションしないでよ!! 今度こそ、今度こそ普通の回復魔法のはずだ!! はずなんだ!! 使ってみないと分からないけど……。
「(と、とにかく、テストするべきですご主人様!!戦闘中に使えるかどうか、見ておかないと)」
何故か俺の回復魔法は、戦闘中に使うと隙ができるので使うところを考慮しないといけない。普通の回復魔法は、そういうのじゃないはずだが。取り敢えず俺たちは、練習場に移動することにした。
「よし。じゃあ、使ってみるか……」
「フィーが!!フィーが受けます!!」
「主、私も実際に体感しておいたほうが、後々覚悟ができるでしょう。今のうちから、受けておきたいのですが」
「(あっ、私はちょっと様子見しますね……。この姿で、すごい顔したくないので)」
お、落ち着け俺。大丈夫。今回は、普通の回復魔法のはずだ。そんな何度も変な効果が出るわけないじゃないか。これでいつでも、戦闘中に撃てる回復魔法になるはず。はずだ……。ここで、証明すればいいんだ!!
「お、おっし。やるぞ。ヘブンズキュア!!」
輝く光の円が出現し、そこから黄金色の光が2人に放たれる。とても見た目的には神々しい。正常に発動しているように見える、が。
「「んんっ❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤!!」」
光を浴びたフィーとレムは、その場で顔を真っ赤にして驚く。数秒後、前のめりに力を抜いて倒れた。
「お、おい、大丈夫か!!」
俺は、前に出て慌てて2人を受け止める。が、2人は頬を赤く染めたまま俺に抱きついてきた。
「ま、マスター」
「主」
「ど、どうした2人共?」
抱きつかれたまま、頬ずりされる。がっちり2人に挟まれて、柔らかく、いい匂いがした。そのまま押し倒される。
「はぁ、はぁ、マスター……」
「主……、主……」
「お、おい!!ちょっと!!」
やたら撫で回される。やばい、この状況はやばい……。なにがとは言えないが、止めないとやばい気がする。
「(ストォォォォォォォォォオオオオオオオオオオップウウウウウウウ!!!!二人共!!そこまで!!!!)」
「マスター、スキ、ハッ!!」
「主、お慕いして、ハッ!!」
危なかった。ミルクの声で、撫で回す手が止まった。2人共、抱きついて離れないが。
「(ふむ、やはり超兵器ですね。ご主人様の回復魔法。この威力、敵に撃ってもいいかもしれませんね)」
いや、回復魔法を敵に撃つってどうなんだ。というかこれは、どうなってるんだ? また実戦では、使えない気がするが……。残念ながらというか、2人に立たせてもらったけどまだ離れてもらえない。
「と、というか2人共?ちゃんと回復してる?」
「は、はい!!身体は、すごく軽いです!魔力も回復しています、マスター!!」
「回復しすぎて、動き出したくなりますね。心なしか、身体がつやつやしている気もします」
う~ん、回復魔法としては一応機能しているのか。よかったのか、悪かったのか。この後数分ほど、2人は離してくれなかった。