VS 英雄末裔・受け流し双剣士筆頭3
瞬間、即座に俺は、サリスを突き出した!!そこに、ジーンが突きを合わせてくる!!俺達の剣は、お互いが触れ合わないように再度通過し、お互いが体の動きだけで、また剣を回避した。
「ふっ…」
「ふはは…」
間を置かず、次はアルティで攻撃する!!ジーンがまたも剣を合わせてくるが、これも触れ合わない!!お互いに間合いを取って、剣を回避する。剣を繰り出しては、軌道を逸らせ、受け流しを回避しつつ、合わされた剣の攻撃も避ける!!高速の剣の連撃が、俺とジーンを踊らせていた。
「凄い…、パパも、ベイ君も…」
「有り得ねぇ…」
「あれだけの速度で斬り合って、お互い無傷なのか…。どちらも、普通では無いな…。ジーンの野郎、腕を上げていやがる…」
確かに、端から見たら、おかしい動きをしているだろう。さっきも、空中にジャンプして滞空している間に、二十回程斬り合った。しかも、お互いに空中で姿勢を変えたり、回転したりして斬撃を繰り出している。まるで曲芸だな。だが、お互いが出している攻撃は、間違いなく致命傷になりかねない一撃ばかりだ…。しかも俺は、剣を打ち合わせても、駄目ときている。明らかに、俺のほうが不利だろう。でも、何だか楽しいな…。そう、思ってしまう自分がいる。何故だか、とても綺麗に剣が振るえている気がして…。
「…」
「…」
地上で間を取り合って、再び剣を構え、俺とジーンは睨み合った。すると、ジーンが足に体重をかけていく。来るか…。
「…ふっ、馬鹿正直な奴だ。この状況で、俺に剣で挑んで来てるんだからな…。だが、ベイ・アルフェルト!!お前、手加減しているだろう…?」
「…」
「おいおい、ジーン!!何を根拠に、そんなことを言ってやがるんだ!!明らかにベイ君も、必死で剣を振るってただろうがよう!!」
「剣に限ればな!!だが、こいつは魔法使いだ…。だと言うのに、この状況で魔法攻撃を一つもしてこない!!剣を優先的に修行して、魔法を疎かにしている可能性もあるが!!今のベイ・アルフェルトが使っている身体強化。間違いなく、魔法の類だろう!!そんな魔法が使える奴が、他の威力がある魔法が、使えないはずがない!!!!」
…ごもっともな意見です。と言うか、その通りです。
「俺に、遠慮でもしているつもりか!!!!!だと言うのなら、そんなものは不要!!!!全力で、俺を叩き潰しに来い!!!手加減をされている方が、イライラする!!!!!!お前の奥義を、見せてみろ!!ベイ・アルフェルト!!!!!!!!!!」
「パパ…。お願い、ベイ君。あんまり、使いたくないのかもしれないけど、あの力を使ってあげて…」
「…本当に、あるのか。まだ、そんな力が…」
「レラ、あんたねぇ…」
「ごめんなさい、アリーさん。でも、少しだけ。少しだけ、お願いします…」
「…他言無用。皆、良いわね…」
「…ああ。さぁ、これで心配は無くなっただろう、ベイ・アルフェルト。見せてみろ…!!!」
「…」
皆、一応頷いているな。…やれやれ。そして、ジーンの熱い言動を汲みとってか、1人観客席から消えている奴がいる。
(行きましょう!!主人!!このカザネ、お供します!!!)
(しょうが無い、…やるか!!)
(はい!!)
俺はサリスを戻し、おもむろに胸の前で、拳を構えた。拳が光、緑色の宝玉を付けた、アイテムが手元に出現する。あれ…、すぐに一体化するんじゃないのか?と言うかこの状況、まさか…。
(さぁ、主人!!変身しましょう…!!!)
(!!!!!!)
お、男の憧れ。変身、だと…。まじか…。おいおい、ポーズも何も、考えてねぇぞ!!いや、それ以前に、凄いワクワクして来た!!俺、凄いワクワクして来たよ!!!
「…」
いかん!!相手が待っている!!ええい!!アドリブだが仕方ない!!やるしかねぇ!!!!俺は、勢い良く変身アイテムを、手首に叩きつけながら、緑の宝玉を押した!!
「変身!!」
「「モードオン!!カザネスタイル!!」」
アルティとカザネの声が重なったような電子音が響くと、緑の宝玉から、勢い良く風の魔力が吹き出していく!!その魔力は、音楽を響かせながら、俺の全身を鎧で覆っていった!!俺が腕を振り払うと、風の魔力が霧散して消える!!
「…」
「…それが、お前の力か…」
めっちゃ警戒する目で見られているが、俺はそれどころではない。長年の夢が叶ったかのような、変な高揚感の中にいた。いや、一体化とさほど違いはないけれど、変身シーンだよ!!変身したんだよ!!!そんな、謎の達成感が俺を支配していた。というか、やっぱカザネの鎧、格好いいな!!それが、更に俺の高揚感を引き立てている。…さて、あまり相手を待たせるわけにもいかないな。俺は、アルティを変化させて、脚に纏った。脚のアーマーが、強化されたように、緑色の光を放つ。
「…来い!!ベイ・アルフェルト!!!!!!!!!!!」
…残念だが、もう戦いは終わったようなものだ。ここに居る、誰が今の俺達の動きを、知覚出来るだろう。既に、俺は動いている。その間、周りはまるで、止まっているかのようだった。数発のパンチ、そして、蹴り。スローモーションのように動いている、ジーン目掛けて叩き込む!!その後すぐに、俺は、一体化を解除した。
「…ぐわあああああぁぁぁぁあああああああああ!!!!!!!!!!!」
何が起こったのか、遅れて理解したかのように、ジーンが痛みの声を上げて吹き飛ばされる!!多少手加減したけど、半端な攻撃だと、この人凌いでくるからな…。これぐらいは、仕方ない。衝撃でジーンは、練習場の壁に、叩き付けられた!!
「グホッ…!!」
そのまま、ドサッと、地上に倒れる。やっぱ、やり過ぎてるなぁ…。とも、思わなくもない。まぁ、相手の望みだし、これで良いんだろう。俺は、ゲイルさんに視線を移した。
「…ハッ!!し、勝者!!ベイ・アルフェルト!!!」
「…はぁ。まぁ、こうなるわよね…」
「えっ、何をしたんだ?」
「まったく、見えなかった…」
「ベイ君…」
俺は、倒れているジーンに近寄っていく。すると、すくっとジーンは起き上がった。やはり、この程度の手加減でよかったなと、俺は思った。多分、受け流しを自身の体内で用いて、威力を分散させたんだろう。あの見えてもいない攻撃を、よくそんな風にいなせるものだ。やはりこの人は、普通の人が相手に出来る領域にいないだろう。
「ふぅ…、俺も、まだまだだな…。いや、いい戦いだった、ベイ君。これなら、娘を任せられるな。レラを、よろしく頼む」
「ちょ、パパ…!!!」
その流れのまま、俺は、ジーンと握手をした。何処か清々しい顔を、ジーンはしている。その顔は、あっさり負けたことの悔しさなど、微塵も感じさせないほど爽やかだった。だが、まだ俺も強くなれる、と物語っている気もする。俺と握手をすると、ジーンは、すぐに練習場から出ていこうとした。
「パパ、何処に行くの!!」
「修行のやり直しだ!!風属性神魔級迷宮に行ってくる!!俺もまだまだ、速さが足りないようだ!!鍛え直してくるよ!!レラ、勉強もしっかりな!!」
「ちょっと、パパ!!」
そのまま、ジーンは行ってしまった。あの攻撃を、受け流したとはいえ、あんな元気に出て行くなんて…。恐ろしい相手だった、ジーン・サルバノ…。