VS 英雄末裔・受け流し双剣士筆頭2
「…」
魔力が、変わったのが見えているのだろうか。それとも、俺の変化を察してか。ジーンは慎重になり、暫く、動かず構えていた。だが、埒が明かないと踏んだのか、また最高速の剣技で俺に突きを放ってくる!!俺は、サリスでその剣を、軽く防いだ…。
「んっ…?」
先程より、俺の動きに余裕があったのが、ジーンから見て分かったんだろう。初撃を放ち終えた後、隙を減らすために追撃はせず、すぐに身体をもう一本の剣で守る構えに移行させた。…まぁ、妥当な判断だ。相手の動きがおかしい、変わり始めていると思ったら様子を見る。何も、おかしいことではない…。だがなぁ、踊ろうといったのはお前だぜ、ジーン…。そんな、動きづらそうにしてんなよ…。俺は、ジーンが突いた剣を戻すのに合わせて、サリスを突き出した…!!勿論、最高速で…!!
「ぐっ…!!!」
ジーンが、受け流しを使い、剣を逸らす。だが、ジーンの頬には、軽い切り傷が付いていた。
「さっきまでの攻撃とは、速度に落差があるからな。相当、速く見えていたはずだ。それでも、その程度の傷で済んでいるのは、流石、と言ったところか…」
「いや、見損なうな…。お前、俺の受け流しも考慮して、力を込めただろう…。俺の技量と癖を、今、計りやがったな…」
「…」
…うーん、正直、その通りだ。本当は、頬のすれすれを、かすめるつもりだったのだが…。思わず、傷をつけることになってしまった…。まぁ、次はうまくやるさ。これで、調整は済んだ…。
「さぁてと…」
「…」
「打ち合いましょうか…」
「…ははははははは!!!!打ち合う!!この俺と、真正面からか!!いやぁ、最高だな!!最高の相手だ!!!」
俺とジーンは、また、静かに剣を構えた。そして数秒、もう、俺は待たない。
「…!!!!!」
風を切る音出しながら、アルティがジーン目掛けて放たれる!!!刀身を活かした長射程の突きを、ジーンは、見事に剣で受け流し、その突きを逸らした!!だが…。
「ふっ…!!!!」
「…」
立て続けざまに、サリスを放つ!!ジーンは、アルティを逸らしたことにより、若干動作に、乱れが生じていた。そこに、最高速!!高威力でサリスを突き出す!!!!
「ぬっ…!!!」
何とかジーンは、もう片方の剣でサリスを逸らした!!だが、その動作中に、もうアルティが再度動く準備を済ませている…。
「しっ!!」
横薙ぎに斬りつける!!ジーンは、飛んでアルティを躱そうとした。だが、ジーンの直下でアルティが、斬撃の向きを変える!!
「うっ…」
ジーンは、双剣をクロスさせて、切り上げてくるアルティの刀身をガードした!!そのまま、一回転して、地面に着地する。
「…俺の動きが、完璧に見えているな…」
「お陰様で…」
「下手な回避は、お前に、攻撃のチャンスをやるだけか…」
そう言うと、即座にジーンは、突っ込んできた!!ジーンが、突きを放つ!!俺は、サリスで防御しようとするが、その腕を払いのけられた!!!もう片腕の突きが、俺目掛けて放たれる!!俺は、アルティでその攻撃を止めようとした。が、こちらも払いのけられてしまう!!これは、本来ならまずい展開だ。逸らされた俺の腕のほうが、ジーンの腕の位置より開きがあるため、戻してガードする前に、俺はジーンに切られてしまう。そう、受け流しが使える剣士の、正当な戦い方というやつだろう。相手の隙を作り、その隙の間に、相手を切る。理にかなった戦い方だ。だがな、もう、調整は済んだんだ…。
「ぐっ…!!!」
俺は、蹴りを放った!!!ジーンの腕が戻ってくるよりも速く、射程と間合いを読みきり、蹴りを放つ!!慌てて、ジーンは回避する!!…ジーンは、気付けただろうか。間合いが、俺によってコントロールされていることに…。
「斬り合いか…」
「…」
どうやら、気づいたようだ。いかに、高度な受け流しの剣士と言っても、何も使わずに受け流す訳にはいかない。最悪でも、素手とか、何かしらの運動力を乗せられるものが必要になってくるだろう。つまり、剣を打ち合わせた瞬間にしか、受け流しは出来ない。その打ち合いの距離を調節出来るとしたら、相手の動きや間合いを、考えた通りに動かすことだって出来る…。さっき、俺がやったのはそれだ。蹴りやすい位置に、ジーンがやってくるように仕向けた。勿論、簡単にバレては困るので、ケリが飛んでこないと思う微妙な距離を狙ったが、まぁ、バレてしまったみたいだ…。やるなぁ…。
「若くして、ここまでの剣の才があるか…」
「…」
いやぁ…、精神的には、年もそれなりなんだけども…。それに、才能というか、レム先生と、フィーのせいというか…。おっと、いけない!!集中しよう…。俺は、再び剣を構え直した。
「ベイ・アルフェルト…、お前は、奥義を使うに相応しい相手だと判断する…」
「…奥義…」
受け流しの奥義…。なんだろうなぁ…。嫌な予感しかしないなぁ…。奥義とか言うくらいだから、それこそ、受け流しの理想形だろう。相手の力を、そのまま相手に帰す。パーフェクトカウンター。これが、最大の理想形なんじゃないのか?いや、自分の力も乗せて返すが、理想系かな…。まぁ、もしそうだとすると、1回でも打ち合うのは、まずいなぁ…。
「…」
ジリジリと、ジーンがすり足で間合いを詰めてくる…。来ないで欲しいが、そうも言っていられない…。俺も、覚悟を決めて、間合いを詰めて行った。
「「…」」
お互いに、切りあえる射程に入った。だが、ジーンは動かない…。ああ、俺の予想…、当たってる気がするなぁ…。俺が動いたら…、いや、剣を受け流されたら、腕が折れるとかしそう…。そんな気がする…。だが、何時迄も止まっているわけにもいくまい…。
「はぁ…」
短く息を吐いて、覚悟を決めた!!俺は、アルティをジーン目掛けて振り下ろす…!!!
「…!!!!」
予想通り、ジーンがアルティに剣を合わせて来た!!だが俺は、それに乗らない!!
「なっ…!!」
本当に、一瞬で見えるか解らないくらいだが。アルティは、軌道を変えて、ジーンの剣と触れ合わない位置を通過した!!慌てて、ジーンが回避する!!俺も、合わせて飛んできた剣を警戒して、少し身を動かした。
「…」
お互いの剣が、空振りで止まる。きっと、お互いに理解しただろう。ジーンは、俺の剣に受け流しを使えれば、勝ちが見える。俺は、ジーンに受け流しを使わせずに、攻撃を当てれば勝てる。その前提条件を、お互いが分かったことを、俺達は理解した…。
「「ふっ…」」
俺達2人は、自然と笑っていた…。口の端を吊り上げて、まるで楽しむように…。