形態色々
「うーん、おはよう、ベイ」
「ああ、おはよう、アリー」
牛車から、アリーが出てきた。伸びをして、俺達に近づいてくる。アリーに続くように、皆もぞろぞろと牛車から出てきた。皆、水着は、着替えたようだ。そして、順番に朝の日課をしていく。その後、皆で朝食を食べることにした。昨日使った食器などを持って、厨房に移動する。すると、ロザリオとロデの母さんが、ご飯を作っていた。
「皆、起きたのね。もうちょっとで出来るから、待っててね」
「手伝うわ、母さん」
「あら、ロデが手伝いなんて、珍しいわね。貴方、料理なんて出来たかしら?」
「一応、一人暮らししてるんだけど、私…。料理ぐらい、出来るわよ。魔法アイテムを作るより、簡単だわ」
「なら、お願いしようかしら。そっちのスープに、お塩を入れて貰える?」
「はーい」
ロデと、ロザリオも、一緒に台所に立って準備を始めた。うんうん、母と娘の共同作業は良いなぁ。何だか、ほんわかする。特に、ロザリオのお母さんは、かなり嬉しそうだ。かなり嬉しそうだ…。
「私達は、お皿の準備でもしましょう」
「そうですね、ご主人様は、あちらで休んでて下さい。サエラ」
「はい!ベイさん、行きましょうね。あっ、飲み物も持って行きましょう」
俺は、サエラと食堂で、出来上がりを待つことにした。コップに飲み物を注いで、両隣に座って待つ。そう言えば、サエラと2人っきりとか、かなり珍しいシチュエーションだな。色々聞く、いい機会かもしれない。
「あ、あはは…」
「?」
何処か照れた様子で、サエラは俺を見て、ごまかすように笑っている。何だ?…ああ…、そう言えば、昨日の続きだとすると、今はサエラと過ごす時間ということか。それで、どう行動しようかと、悩んでいる感じかな?う~ん、初々しい…。今では、キスぐらい普通にする仲なのに。こういう状況になると照れてしまうとわ…。サエラ、可愛いじゃないか…。俺は、サエラと手を繋ぐことにした。ギュッと、サエラの手を握る。
「あっ…、ベイさん…。…嬉しいです」
サエラは、照れながら笑顔をみせてくれた。そして、俺に寄り添ってくる。俺は、サエラの腰に手を回した。
「緊張してるのか、サエラ?」
「あはは…、いつもミエル様や、シスラ、シゼルさんが一緒にいてくれましたから…。ベイさんと2人っきりとなると、ちょっと緊張してしまいますね」
サエラは、はにかんだように笑う。
「そっかぁ…。そう言えば、どうなんだ、俺が見てない時の皆の様子は?」
「えっと、どうと言われましても…。皆さん、いつも通りといいますか。こうすればベイさんが喜んでくれるとか、戦闘に活かせるとか…。基本、そんな話ばかりをしていますね。特に私達や、シデンちゃんは、熱心に皆さんの戦術の話を聞いています。少しでも、皆さんに追いつこうとしているのですが…。私達は、あれから進化しましたし。多少、実力に不安がなくなってきましたけど、まだ、シデンちゃんがですねぇ…」
「そう言えばシデンは、まだ中級のままだなぁ…。だけど…」
「?」
「確実に強くなっているし、力も着けている。前は、人化が数分と持たなかったが、今では常時していられるようになった。それに、あいつの目標には、もっと高い力を持っている奴もいる…。すぐに進化しない辺り、その力も物にする気だろう。一気に強くなるだろうなぁ…」
「なるほど…。私達も、まだまだ頑張らなきゃ、シデンちゃんに抜かれてしまうわけですか…。気合を入れないとですねぇ…」
「まぁ、そんな焦らなくていいよ。やるべきことを、しっかりやっていこう。それが、意外と強くなる近道のはずだ。焦って、体を壊してもいけないしな」
「はい」
にしても、シデンかぁ…。確かに、もう進化してもいいだろうほどの、戦闘経験をしているよなぁ…。神魔級ボスとの戦闘を、2回も一体化した状態とはいえ経験しているんだから、上級にもうなっていてもおかしくないだろう…。なのに、まだ進化しないということは、まさか、フィー以上にやばい存在になるんじゃぁ…。
「…ミエル様」
「えっ?」
「ミエル様も、この前の私達が一体化した時の経験から、何かをひらめいたようでした。4人の力が合わさった時、これ以上ない力への目標というか、兆しが見えたそうです。…案外、神魔級進化が、一番早いのは、ミエル様かも知れません…」
「ほぅ、ミエルがねぇ…」
そうこう会話をしていると、ご飯の準備が出来たようだ。アリー達が、料理を運んでくる。そして、皆で席について、朝ごはんを食べ始めた。サエラと、お互いに食べさせあったり、料理の感想を言い合ったりしながら、朝の食事を楽しむ。こういう仲睦まじい感じのイチャつきも良いなぁ…。俺は、そう思った。
「はい、ベイさん。お口拭きますね」
「ああ、ありがとう」
サエラに口を綺麗に拭いてもらって、食事を終えた。そして俺は、アルティを呼び寄せる。
「何でしょうか、マスター?」
「いや、レラの父さんと戦う前に、ちょっと聞いておきたいことがあってな…」
「何でしょうか?」
「アルティ…、お前、どんな武器に成れるんだ?」
「えっと、全部で、ということでしょうか…」
「そうそう。俺が知っているのは、基本形態と、ミルク、シデンだな。ガントレットと、鎖か。他はどうなんだ?今、成れるのか?」
「そうですね、私が成れるのは、マスターが従えている魔物の武器に依存している形ですので。まぁ、基本と合わせて、12形態ですね。簡単に言いますと、魔石、鎧、拳、触手刀、棒、斧、槍、弓、杖、鎖、脚、剣ですね」
触手刀…、ミズキの武器か?やばそうだな。というかカザネは、翼じゃなくて、脚重視なんだな。意外だった。錫杖も持っていたはずだが、そっちより脚よりなのかぁ…。
「触手刀っていうのは、どんなのなんだ?」
「マスターの首周りから、自在に動く触手を8本出します。ただし、普通の触手ではありません。先が刀のように鋭くなっていて、切ることが可能になっています。しかも、吸盤も付いているので、敵の捕獲も可能です。なかなか、強い武器だと思いますよ」
「へー、扱いが難しそうだなぁ…。あと気になるのは、鎧と、脚かな?鎧は、レムのやつそのままなのか?」
「はい、因みに、剣と盾も一緒に装備されております。鎧だけということはないので、そこら辺は、ご安心を…」
「なるほど…。残りは、脚かぁ…。というか、なんで脚なんだ?錫杖とか、翼じゃないのか?」
「マスターは知らないのかもしれませんが、カザネさんの鎧形態での必殺技は、脚が起点となって放たれるようです。なので、脚が優先される武器対象となりました」
「へー、そうだったのかぁ…」
カザネの脚力が強い理由とかは、そこら辺が関わってるのかもなぁ。というか、足技がメインだったのか。まじで、知らなかった。今度、カザネと訓練してみるか…。
「おーい、ベイ君。ちょっといいかな?」
「あっ、はい。何でしょうか、ゲイルさん?」
「実は、練習試合用に会場を借りていてね。お昼が過ぎたら、移動する予定なんだ。そのつもりでいてくれるかい?」
「はい、分かりました」
「じゃあ、頼むよ。では、お昼にまた…」
…いよいよ、受け流しの使い手と戦う時が、近づいてきたか。俺は、自然とアルティの頭に手を置いていた。