顔合わせ
「う~ん、食べた食べた!!さて、主様。お口拭いてあげるね」
「ああ、ありがとう」
カヤのおかげで、至れり尽くせりだな。口周りの油を拭いてもらって、食べた後もすっきりだ。料理もうまかったし、言うことなしだな。
「えへへ~、主様。…ちゅっ」
「んっ…、ありがとうカヤ」
「どういたしまして!!その、…妻として当然のことだし…。あはは…」
照れたように、カヤは笑う。俺は、そんな可愛いカヤを抱き寄せた。
「あっ、主様…。えへへ…」
カヤの、もふもふの赤い髪を撫でる。カヤは、甘えるように、俺に顔をすり寄せてきた。うんうん、この甘えている感じがカヤらしい。最初の時も、夜の時間も、カヤは俺に、身体を擦り付けるのが好きなようだった。それに、こうしているとカヤの体温が伝わってきて、とても暖かい。今は夏なのに、全然不快に感じない暖かさが、俺に染み渡っていった。うーん、良いよなぁ、カヤ…。俺は、カヤを力強く抱きしめた。
「幸せ…」
「よしよし…」
「ううっ…、ベイ様が、ベイ様が…」
「落ち着きなさい、ロザリオ。今は、先輩の行動を見て、どうすればベイ君が喜ぶのか、観察するべきでしょう。慌てても、何も始まらないわよ」
「でも、ロデ…。何だか、何だか、…羨ましくて」
「…あんたも相当ね。でも、見てみなさい。あのカヤさんの幸せそうな顔を。あんただって、いずれあんな顔をするんだから、それを邪魔されたらどうなるかぐらい分かるでしょう?」
「…うん」
「ベイ君と付き合うなら、嫉妬するだけ無駄よ。全員が幸せになる、そんな心構えで行かないと。家族で仲間割れなんて、みっともないわ」
「そ、そうだね…。私、ベイ様のために、強い心を持つよ!!」
「その意気よ。あんたが暴走して、私まで割を食うのはゴメンだからね。おとなしくするのよ」
「うん!!」
う~ん、何だかんだで、ロデとロザリオは、いいコンビなのではないだろうか?互いが、支え合えるというか…。夫婦としては、無理かもしれないけど、友人としてなら高い位置を作れるというか…。多分、そう言う相性なんだろうなぁ。あの2人は…。
「よし、ベイ君、ちょっと良いかな」
「はい、何でしょう?」
ゲイルさんが、食堂に戻ってきた。その後ろから、全身黒い装備の男性が、歩いてくる。
「ん?」
「あっ」
「げっ!!パパ!!」
「…レラ、居たか。元気そうだな…」
英雄の末裔であるアリー、サラサ、レラが、その男性に反応した。と言うか、パパ?レラのお父さん?
「ベイ君。彼は、私の友人でジーン・サルバノと言うんだ。君の対戦相手をしてくれる。かなり強いから、油断しないほうが良いぞ」
「対戦相手、ですか…。ああ、ベイ・アルフェルトと言います。よろしくお願い致します」
俺は、カヤを背中に抱きつかせて、挨拶をした。…ちょっと不格好だっただろうか。
「うむ、よろしくな…。…なるほど、期待出来そうだ…。それに…」
ジーンは、部屋の中を見回す。自分を睨んでいる、皆の視線に気づいたのだろう。相手の力量を測るように、1人ずつ目線を流していった。
「この部屋は、化け物揃いか…。いや、ベイ君だったか。彼が強い理由が、これというわけか…。確かに、こんな強さに囲まれていては、強くならざるおえんだろうな…。楽しみだ…」
「ちょ、ちょっと待って!!パパ!!」
レラが、俺とジーンさんの間に、進み出てくる。そして、ジーンさんの方に、向き直った。
「ほ、本当に、ベイ君と戦うの?」
「ああ、仕事だからな…。何か、問題でもあるのか?」
「その、ベイ君がパパに嫌な印象を持っちゃうのが、嫌かなぁ…。なんて、思っちゃったり、しちゃったり…」
「ほう…」
ジーンさんは、再度俺を見る。俺の腰付近に、アルティが抱きついてきた。えっ、何。抜くかもしれないってことか?いやいや、ここでアルティを抜くわけにはいかな…。
「シッ…!!」
「…」
ギィィィィイイイイイイイインン!!!!!!と、ジーンの放ったレイピアが、俺の剣に防がれる。勿論、アルティではない。アリーに貰った剣でだ。だが、もう1つ、その剣を抑えている剣があった。レラの剣だ。
「ほう…、腕を上げたな、レラ。まさか、俺の剣先を逸らすとは…」
「パパ…、巫山戯ないで…。次やったら、私が相手になるよ…」
「むっ、言うようになったな…。だが、それほど強くなったということだろう。ベイ君か…。感謝せねばならんな…。娘に、いい刺激をくれたようだ」
「ちょっ!!…パパ!!」
「フッ、照れるな…。俺も、母さんと結婚した身だ。お前の反応で分かる。ならば、この仕事、一切手は抜けんな…。ベイ・アルフェルト!!俺が、責任を持って、お前の強さを見定める。全力でかかってこい!!娘に相応しいかどうか、俺が直接見てやろう!!」
「えっ…!?」
「パパ!!何を言って…!!!」
「では、また後でな…。レラ、折角の休みだ。ゆっくりするのもいいが、修行を忘れるなよ。じゃあな…」
「ちょ!!パパ!!!」
そう言うと、ジーンは振り返らず、ドアから出て行った。
「な、俺の言った通りだろ。もし俺が相手になってたら、ロザリオに嫌われてたぜ」
「ああ、そうかもな…。俺でも、娘の前で、あんな返しは出来ない。あいつだから、出来る説き伏せ方だな…」
マッチョ2人は、そう言いながら、ジーンを追いかけて行った。…にしても、今の攻撃、かなり手を抜かれてたな。しかも、最初から当てる気がなかったようだ。俺が防いだ理由は、カヤが、ジーンの剣を叩き折りそうだったから、静止させる意味で止めたんだけど。まぁ、ジーンが強いのは確かなようだ…。
「ご、ごめんね、ベイ君!!パパが、何か変なこと言っちゃって…」
「いや、気にしなくていいよ。それにしても、レラの父親かぁ…。強そうだな…」
「ああっ…、実力だけはね、間違いなくうちの家で、1番だと思うよ。でも、ベイ君の敵じゃないって!!どーんと、倒しちゃってよ!!私、応援するから!!」
「えっ!!いいのか?」
「うん!!パパには、厳しく修行させられた嫌な思い出もあるし、これぐらいなんともないよ。だから、ベイ君!!頑張って!!」
「…ああ。頑張るよ!!」
カヤが、頬ずりをしてくる。俺は、そんなカヤの頭を撫でながら、受け流しの熟練者とどう戦うかを、考え始めた。




