あれが無くなる
「…、分かりました!!」
ロザリオは、目をキュッと閉じた後、そう、声を絞り出した。かなり、決死の覚悟をしたような声色に感じる。大丈夫だろうか?
「そう。本人の了解は、得られたわね。後は、貴方の両親の、判断次第だけれど…」
「ちょ、ちょっと待ってくれ…!!つまり、それは…!!」
「良いのです、父さん!!…覚悟の上です…!!」
「し、しかし…!!」
「?」
何やら皆さん、かなりやばげな形相をしていらっしゃるのだが、本当に大丈夫か?何か、勘違いされてるんじゃないか?まぁ、性別が変わるのだから、そんな形相にもなる…のか?
「…?どうされたんですか。そんなに焦って…」
流石に、アリーも、何かおかしいと思ったらしい。俺と同じ疑問を、口にした。ロザリオが、震える声で、その質問に答える。
「アリーさんは、こう、おっしゃっているんですよね…。私に、その、物を切れと…」
「…あっ」
そうか。そういうことか。魔法で変えるとは、一言も説明していなかった。
「確かに、考えれば、そうですよね…。このような容姿でも、私は男。付いている物は、付いています。ですが、そんな奴がベイ様とベッドを共にするなど、女性の方達から見れば、危なっかしく見えて、仕方ないですよね」
ロザリオは、スッと立ち上がる。目に涙を溜めて、少し震えながら、俺のもとに来た。
「その手の手術の話は、昔、聞いたことがあります。その際は、傷が塞がるまで、じっとしていなければならないとか。体の機能が、正常に動かなくなる場合があるとか…。ですが、私は、それでも、それでも…」
もうロザリオは、泣きそうになっている。ゆっくりと俺の手を握ると、床にへたり込んだ。
「ベイ様の、そばに居たい…」
…やばいな。完全な乙女だ。乙女がいる。ついているけど。いや、いかんな。早く、間違いを正さねば。俺は、ロザリオを慰めるために、手を握り返した。
「ロザリオ、勘違いしていることがある」
「…勘違い…ですか?」
「ああ、性別は変えるが、手術とかはしない」
「しない、んですか…。まさか、皆さんが切り落と…!!」
「いや、それも違う。魔法だ。魔法で、完全に性別を変える」
「ま、魔法…」
「ああ、魔法だ」
正確には、能力の進化系だが。まぁ、細かいことは、どうでもいいだろう。
「そんな、魔法が…」
「ああ、あるんだ…。詳しくは言えないが、痛くもないし、身体に不具合も出ないぞ。本当の女性と、何も、変わらなくなる」
「本当の女性と…。つまり、それは…」
「うん?」
「妊娠、出来る。と、いうことでしょうか…」
「ああ、出来るぞ」
それまで、悲しみに染まっていたロザリオの表情が、一気に明るくなった。
「はい!!ベイ様!!アリーさん!!このお話、喜んで、受けさせていただこうかと思います!!」
「おい、ゲイン。そんなことが、可能なのか?」
「私も、聞いたことが有りませんね。ですが、魔法です。それぐらい出来ても、有り得ない話では、無いでしょうね…」
やはり、流石魔法。説得力が違う。ロザリオも立ち直ったようだし、良かった良かった。
「やっ…」
「?」
うん?ロザリオのお母さんが、小刻みに震えている。もしかして、性転換に反対なんだろうか?
「やっ…」
「お、お母さん?」
「やったーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」
「!?」
ロザリオのお母さんは、いきなり立ち上がると。駆け寄って、そのままロザリオを、抱きしめた。かなり浮かれた様子で、ロザリオに頬ずりしだす。
「ああ~、ロザリオちゃんが、女の子になるなんて。何と言う幸運、何と言う親孝行!!」
「か、母さん!!」
…いや、凄い嬉しそうだな。何だろう。それだけこの状況を、望んでったってことだろうか?
「ロザリオちゃん、今だから言います。私、娘が欲しかったんです!!」
「ええー!?は、はい!!」
「あなたを生む前に、私は、出来ることをしまくりました。女の子を生みやすくなるという、食べ物があれば食べ。神様にも、お願いしました。娘と買い物、娘とお料理。そして、結婚を見届け。孫を産んだ、幸せそうな娘を見る。そんな未来を、願っていました」
「お母さん…」
「ですが、私達の間に生まれたのは、男の子。…最初のうちは、ひどく落ち込みました。あれだけやっても駄目だったのかと、そう思ったほどです。私の人生設計は、もろくも崩れさったと、言っても良かったでしょう…」
そ、そんなに、娘さんが欲しかったんですか…。
「その絶望の反動からか、ロザリオちゃんに、考えていた女の子の名前をそのまま付け。今の今まで、女性物の服を着させて来ました。最初は、申し訳なく思っていました…。成長するに連れ、服も似合わなくなっていくだろうなぁ…。その時は、やめよう。そう、思っていました。ですが、ロザリオちゃんは、私に答えてくれるように、容姿も、服装すらも、完全に女性とも言えるような形で成長し、着続けてくれました。…ああ、これでいい。私は、男の子を産んだけど、いい子を産んだ。最高の娘を産んだんだ。私は、ロザリオちゃんのお陰で、今の今まで、娘を生むという夢を成し得なかった絶望を、凌ぐことが出来ました。お買い物も、お料理も、ロザリオちゃんのお陰で、叶えることが出来ました…。しかし、しかし!!出産だけは、諦めるしかなかった。そう、思っていたのに…!!」
ロザリオのお母さんは、俺のことを見る。そのまま、俺の腕を取って、強く握った!!
「ベイ君、ありがとう!!ロザリオちゃんを!!娘を!!よろしくお願いします!!!」
「……あっ、はい…」
ロザリオのお母さんからは、最早、頷くしかない迫力が出ていた。そのまま、俺の肩に手を回し、ロザリオ共々、抱きしめられる。その顔は、本当に、幸福そうだった。
「ちょっと待ってくれるか、母さん」
「えっ?何ですか、あなた。まさか、反対だなんて、言い出しませんよね?」
「勿論、俺も、反対だなんて言う気はない。ロザリオが、ここまで覚悟を決めているんだ。反対なんて、言うだけ野暮だろう?空気が読めて無いにも程がある。だが、その前に、俺達は、息子の婿…。いや、娘の婿のことを、何も知らねぇ」
「そんなのは、おいおい、確かめていけばいいじゃないですか。気に病むことでもございません」
「いやいや、それは違う。お前の望みは、ロザリオが幸せそうな顔で、出産をすることだろう?だったら、俺達が相手のことを何も知らないまま結婚させたとあっては、親としての責任を、放棄したとも言える。ベイ君が、とんでもねぇ悪人とは思えんが、何か、問題を抱えてるかもしれねぇ。ロザリオが、幸せになるためにも、何かあるなら、早い内に知っておいたほうが良いだろう?」
「それはまぁ、そうですね…」
「という訳でだ、ベイ君には、少し試験を受けてもらいたい」
「試験、ですか?」
何だろう、ペーパーテストとかじゃないよな?
「なぁに、ちょっとした質問に、2,3、答えてもらうだけさ。そんなに気にしなくていい。ああ、だがベイ君は、戦闘もいけるんだっけか?なら、そっちの腕の方も、見ておきたいなぁ…」
えっ、まじ…。
「それは、私も見たいですね。未来のロデの、夫となるかもしれない人ですし。あのガンドロスさんを、倒したのです。その実力、是非とも、拝見したい」
「いや、その…」
「なら、決まりだな!!相手は、こっちで用意する!!ガンドロスさんに勝ったんだ。並のやつじゃあ、意味は無いな。すげぇ、強い奴連れてくるぜ!!楽しみにしてなよ!!それじゃあ、善は急げだ!!」
「いや、あの…!!」
「ガハハ!!」
アランさんは、俺の話も聞かず。部屋を出て行ってしまった。




