力の先で
なんか、黒甲冑が気の毒な気さえしてきた。でも仕方ない。さっさと倒そう。
「我を倒せると?いかに貴様らが強くなろうとも我は不死身。不死身の者は、殺せぬのが道理よ!!」
黒甲冑が喋っている間に、黒甲冑の右腕が消し飛んだ。ただ、速く近づいて切った。それだけだった。それだけで黒甲冑は、反応できなかった。しかも、切リ飛ばされた腕は再生しない。
「なっ!!!!」
「教えてやろう。何故再生しないのか。お前は、闇魔法を使って自分の体を霧状に変えることが出来る。それで、今まで切られようが潰されようが魔法で再結合して元の姿に戻ることが出来た訳だ。だが、レムがそれを見抜いた。あとは簡単だ。お前が霧状に変化するために闇魔法の魔力を使うそのタイミングで、こちらから送った同威力の闇魔法の魔力で発動を相殺する。俺がやったのは、それだけだ。今からお前は、闇魔法が使えない、つまり死ぬってことだ」
レムが軽く剣を振る。黒甲冑の右足が吹っ飛んだ。断面から血は一滴も出ない。やはりこいつは、魔物だったようだ。何故、こんなところにいるんだ? 迷宮でもない場所に何故わざわざ居る。
「くっ!!」
「転移魔法も使えないぜ。同じ理由でな」
どうもレムの一体化は、転移魔法に似た性質があるらしくそれから解析して魔力だけは練れるようになった。それに一回転移させられたからなんとなく分かる。相殺ぐらいなら出来る。というか、一体化してから魔力操作力も魔力解析力もいつもより上がってる気がするな。でも相殺が出来るのは、アリーのおかげだな。ありがとう、アリー。いや、でも一回飛ばされたからとか、似た性質だから出来るとか正直なんで出来るんだって感じじゃないか?いや、でも出来るんだよな。出来るって分かる。一体化の効果だろうか?
「ぐぬぬ、アリーってどこの馬の骨ですか!!フィー姉さん!!」
「アリーさんは、いい人だよ。一緒に魔法の練習をしたの!!」
そういえばレムもミルクも、いずれアリーに紹介しなきゃいけないのか。レムは普通だけど、ミルクとアリーが絡むとどんな風になるのか想像出来ないなぁ。そうこうしているうちに、レムが剣を振って相手の左足を吹っ飛ばす。
「……」
黒甲冑にしてみれば、もう絶望しかないだろう。というか、俺自身もここまで差が出るなんて思わなかった。レムが、左腕を切り飛ばす。次で最後だな。というか、なんでじわじわ切っていくんだ?やはり、まだ怒ってるのか。
「私達の主への侮辱は、許せるものではないですからね」
「うん、うん」
「許さない!!」
黒甲冑、全てお前が蒔いた種だ。甘んじて受けろ。剣に、闇・土・風の魔力が宿る。
「これで、終わりだ」
振り下ろされた剣は、大きな魔力の斬撃となって塵も残さず黒甲冑を吹き飛ばした。この城の壁を外まで突き破って、付近に強い風を巻き起こしようやく斬撃は威力をなくす。やり過ぎだな。
*
一体化を解除し、攻撃で出来た壁の裂け目から一旦外に出てみてこの城を見渡してみた。すると、この城に見覚えがあった。108年前に魔王と言われた魔物、そいつが居たという神魔級迷宮がここにそっくりだった。今は、迷宮として機能していないはずだが。そこに、あいつが移り住んだというところだろうか。
「主、上の方に何か魔力の気配がありますね。行ってみますか?」
「……分かった。行ってみよう」
「(……)」
ちなみにミルクは、一体化を解除して早々に、召喚解除してください!! と言って魔石にこもってしまった。余程、進化した身体を見られたくないらしい。カッコイイと思うんだけど、それをミルクに伝えても慰めにはならないだろう。風魔法で浮遊して移動する。城の屋上に、魔法陣が設置されていた。
「これは、転移魔法の魔法陣か?」
「まだ使えますね。どうします?」
「……一応、調べておくか」
転移魔法の魔力で、魔法陣を起動した。俺達は、光りに包まれる。移動した先は、巨大な大樹のある泉だった。巨大な魔力がその周囲のそこかしこにあふれているのが分かる。
「なんというか、ここは危険地帯のようだな」
「ええ、そうですね」
「(私も、早く出たほうがいいと思います)」
「フィーも」
皆の意見が一致した。ここに来るのは、まだ早い。そんな気がする。
「う~ん、これは推測になるが。この魔方陣を使ってあいつは、魔力の補充をここにしに来ていたんじゃないか?迷宮の外にいるにしては、強い魔力をしていたし」
こんな魔力密度の濃い空間なら、普通の転移では来られない気がする。そのための魔法陣だろう。
「その可能性はありますね。……ん?」
「どうした、レム?」
レムは、泉を見つめて止まっていた。
「ここには、私の欲しいものがあるみたいですね」
「欲しいもの?」
「はい」
レムは、ゆっくりと泉に入っていく。
「お、おいレム!!」
「(どうしたんですか、いきなり!!)」
「レム?」
レムは、迷わず全身で泉に浸かった。念話で話しかけてくる。
「(ここには、私の欲しい魔力があふれています。フィー姉さんにも、ミルクにもある魔力。生き物としての、生物としての魔力。私だけが、持っていないもの)」
俺の胸の中の魔石が光りだす。熱い、熱い!! たまらず俺は、レムの魔石を外に出した。
「(貰って行きます。この先どれだけ、私が進化しても、これがないと……)」
レムの鎧に亀裂が入る。何だ。何をしているんだ。
「(生まれ持ったものを壊す、それが難しいのは分かっています。ですが私は、この身をあなたの、ために……)」
レムの鎧に、一際大きな亀裂が入った。鎧の亀裂に、泉の魔力が吸い込まれていく。レムの身体が、光りに包まれた。
「レム!!おわっ!?」
レムの魔石が砕け散った。光が収まると、レムはまだ泉の中にいた。胸には、大きな穴が開いている。レムだったものは、ゆっくりと砕け散っていった。
「レ、レム!?」
「(嘘)」
「レム」
泉の中から、何かが上がってきた。それは大きいが、スマートな鎧だった。さっきまでのレムよりは小さく、外見はもっと凶悪だ。主役キャラのライバル悪役か、ラスボスの腹心って感じだ。所々が鋭利な作りになっていて、より凶悪さを増しているが格好良さも出ている。全身が黒く、放たれている強大な闇の魔力からは、俺を大幅に凌ぐ実力があるのが分かった。
「レ、レム?」
「……」
そのまま鎧は倒れた。俺が慌てて受け止めると、鎧が消えていく。俺の腕には、黒髪ロングヘアーの巨乳美人が横たわっていた。