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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第一章・一部 召喚魔法使い ベイ・アルフェルト
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アリー・バルトシュルツ

 さて、魔法の練習をしたり教本を読みふける内にとうとう俺も7歳になった。元の世界では、小学校1年生くらいか? この世界にも学校的な物はあるものの、特に行く義務は無いらしい。この7年間、暇さえあれば知識を身につけようとしていた俺が行っても退屈だろうから、それはとても助かる。


(にしても)


 人と知り合う機会が少ない。近所の人達とは、挨拶や多少の話をするぐらいにはなっているが、近い歳の子とはまだ出会えていない。こういう所が、学校などに行けていない弊害と言った所だろうか。まぁ、特に悪いという訳ではないけれど。知識や見聞を広めるには、人との繋がりがあった方がいい。だから、少なくていいけど1人ぐらい知り合いが欲しいなぁ。と、思う今日この頃だった。


(機会があるとすれば、もうちょっと先か……)


 カエラもノービスも学校に行ったことがあるらしいが、12歳の時からという話だった。と言うのも、若い内に入る学校というのは、貴族などの権力者の子供が多く。問題を起こせば、厄介事に巻き込まれるのは確実らしい。知識が得られてもリスクが高いならそれは、行かなくて正解だなと俺は思った。


(俺も、親に迷惑は掛けたくないしな。そんな学校に、行きたい訳でも無い)


 特に俺の場合は、もうこの年で無詠唱で、中級までの魔法が使える。少しでも自分より実力が高い者を見ると争いを起こしたくなる様な貴族の子供がいるなら、行った結果は問題の嵐だろう。


(さて、そうは言ってもいいかげん外にぐらい出ないとな)


 何度か買い物に付き合って出たことはある。が、遊びに行くなどの自発的な外出はしたことが無い。そろそろカエラに、行ってみてもいいよ。と言われる年齢だろう。見聞を広める意味でも、そろそろ散歩ぐらいはしておきたい。で俺は、早速行動に移すことにした。


「母さん、ちょっと散歩してきてもいいですか?夕方には戻ります」

「あら、ベイもお外が気になる年頃なのね。分かったわ。でも、危ない所に行っちゃダメよ?」

「はい、行ってきます」


 よし、問題なく許可を貰えた。さて、どこに行こうかな?


(選択肢としては、森、町、町の外か?……外は論外だな。と、すると)


 自宅があるのは、サイフェルム王国の端のほうだ。王国の中心街は、貴族や王国の有力者などが住んでいる。王国魔術師であるうちの家族なら、そこに住むことも出来るだろうが。ノービスもカエラも、いざこざが起きやすいとこに住む気は無いそうだ。つまり、町の中心街は問題が起きやすいという事。う~ん、そこら辺を考えた結果今日は、家の近くにある森に行ってみることにした。



「ここならいいかな」


 結構歩いた所で木が少なく開けた空間を見つけた。ここなら、多少魔法を撃っても大丈夫だろう。


「ウインドブラスト!!」


 ウインドブラストは、風属性の中級魔法だ。複数の風の刃が、突き出した手のひらから放出され広がる。範囲も広く、威力もある危険な魔法だ。今、俺がこれを使ったのは、生えている雑草を刈り取る為だ。周りには、木しかなくウインドブラストも木をなぎ倒す程の威力は無いので安心だ。とは言っても、枝は切れ表面に深い傷がつく。ゼロ距離で当て続ければ、切断は可能かもしれない。


「ふふふ~ん」


 鼻歌を口ずさみながら魔法を乱射していく。魔法は、使う魔力量を調節することで効果範囲や威力を決めることが出来る。家では、無差別に中級魔法は撃てないからいい練習になるだろう。家にいる時は、中級回復魔法をビービーとレーザーのように手のひらを光らせて練習していた。とはいえ、各魔法ごとに使ってみないとどれほどの威力があるのかは分からない。だから、これもいい魔法練習になっているだろう。ぶっちゃけ詠唱も魔法名も言わなくても発動出来るのだが、かっこいいから言ってみたくなるのだ。仕方ない。仕方ないんだ……。


(とは言っても、いざという時のために言わずに撃つってことだけは心に止めとかないとなぁ)


 そう思いながら、ウインドブラストの調整をしつつ草を刈り取り吹き飛ばしていく。ある程度草を刈り終えたらお手製の魔法練習場の完成だ。


「よっと。まぁ、こんなもんかな……」


 次に、土魔法で簡易なベンチを形成していく。疲れたので、これに座ってちょっと休憩しよう。やはり、魔力を消費するのは疲れるな。運動なんかとは、違う部分を鍛えているような感じだ。連発していると筋肉痛のような感覚に襲われることもある。少しずつだが、強化されているということだろう。そのお陰か、最近は撃てる魔法の回数も増えてきた。



(もう何回か練習したら戻るかな)


と、思っていたその時……。


「なぁぁぁぁぁぁああああああっ、はっ、はっ、は~!!」

「!?」


 後ろから、突然大きな笑い声が聞こえてきた。振り向くと、小さい少女がそこに仁王立ちしている。


(だ、誰だ、この子?)


 紫色の魔術師服。いかにも、魔術師がかぶってそうな帽子。魔術師の杖。スラっと伸びたロングヘアーの赤い髪と、鋭い目。前の世界なら完全に痛い子に見えるような服装を、その少女はしていた。もしくは、ハロウィンのコスプレだ。だがその顔はとても整っており、いわゆる美少女と呼ぶにふさわしい顔をしていた。


「ふっ、ふっ、ふっ」


 少女は、不敵な笑みを浮かべると俺の横を抜け、完成した練習場の中央を目指して歩いて行く。少女が歩いて行く前に、土魔法で出来た階段が形成され少し高いステージのようなものが出来上がった。ステージの中央で、こちらを腕組みし少女は振り返る。


「我が名は、アリー・バルトシュルツ!!世界最高の、天才魔術師である!!」


 発言と同時に、少女の両脇に小さな雷が2本落ちた。え、何今の演出? 無詠唱の魔法でわざわざ雷を? え~~、無駄に凝った演出するなぁ~。


(しかし、何だろう。何処か、その、痛々しい感じがする。残念な、とも言うけど……)


 そんな全体から残念な子であると言った雰囲気をさせている自称天才魔術師のアリーさんではあるのだが。今までの行動をよく考えると、確かに彼女は天才魔術師のようだった。今の無駄に凝った演出を、無詠唱で発動させ位置や威力まで調節して発動させたことが分かるからだ。ただの痛い子では無いだろう……。無いはず、だ……。


「……」


 少女は、こちらを不敵に見下ろしたまま動かない。何だ? ……ああ、なるほど!! 次は、俺が名乗る番なわけだ。えっと……。よ、よし!! いっちょ、やったりますか!!


「我が名は、ベイ・アルフェルト!!白銀の光を放つものだ!!」


 スッ、と立ち上がりこちらも格好を付ける。ちなみに、白銀の光は回復魔法で放たれる光のことだ。上級魔法で使えるのは回復魔法しかないので、これが俺のアピールポイントになる。


「……ふ~ん」


 ゆっくりと壇上を降りながらアリーは、俺に近づいてくる。背が低いので、俺を見上げるようにアリーは睨みつけてきた。俺もアリーを見つめていると、アリーの杖先に魔力が集まるのを感じる。


「……ドラゴンフレイム!!」


 彼女が杖を後ろに振ると、杖の先から龍の形をした火炎が放たれた。後ろにある彼女が形成した階段とステージを粉々に吹き飛ばし、空中に弧を描いて魔法は消えていく。ドラゴンフレイムは、火魔法の上級に当たる魔法だ。普通の幼女が使える魔法ではない。しかも、見た感じ制御も完璧だ。


「トルネードストーム!!」


 トルネードストームも上級魔法だ。でかい竜巻を発生させる魔法で、威力も並では無い。使いこなせる者は、この竜巻を圧縮し自由自在に規模を操ることが出来る。アリーの出した竜巻は、見事に圧縮されており練習場の木々をなぎ倒して無駄なく消えていった。


「ふふ~ん!!」


 得意気に、アリーが顔を向けてくる。どうよ!! どうよ!! みたいな顔だが、そこが地味に可愛い。ならば、俺も答えなければならないだろう。


「ホーリーキュア!!」


 俺が今使える唯一の上級魔法。それを、俺は唱えた。俺の手のひらからまばゆい圧縮された白銀の光が放たれる。なぎ倒された木の根は、再生を促進され新たな木の幹を生成し始めた。すぐに再生が終わり、なぎ倒された木は、まるで何事もなかったかのようにそこに立っている。


「へ~~、やるじゃない。白銀のベイ・アルフェルト、まさか私以外に上級魔法が使える子供がいるなんて思わなかったわ」


 アリーが、肘で小突いてくる。いや、確かに白銀の光とはいったけど、それ二つ名で決定ですか。そうですか。


「そちらも上級魔法を2つも使えるとは、感服いたしました」


 完璧に操っていたし、お見事の一言だ。天才の名乗りは、伊達ではないということか。


「ふふふ、なかなか見どころがあるじゃない、ベイ。……いいわ、私と友達になりましょう!!」


 お互いを認め合い手を差し出してアリーは握手を求めてくる。勿論、こちらからも手を差し出し握手をした。


「よろしく、アリー・バルトシュルツさん!!」


 後で聞いた話だが、彼女は俺より一つ年上だった。実際は、俺が精神年齢的に29ほど上ではあるのだけれども。まぁ、こっちの世界では、俺は彼女より年下らしい。完全にアリーのほうが年下だとこの時の俺は思っていた。


「うっ」


 と、突然、握手していたアリーが体勢を崩す。


「えっ!!あっ、おわっと!!」


 反射的に、彼女の倒れそうになる体を支え抱きあう形になった。


「ど、どうした!?大丈夫か?」


「……、魔力を……、使い……、すぎたわ……」


 小さく、辛そうな声で彼女は言った。あ~~、なるほど。魔力切れか。俺は、作っていたベンチを拡張して、彼女を寝転がらせる。


「うっ……、うー……」


 と、うめきながら、身体の中心あたりを腕でかばうようにアリーは押さえていた。


(……辛そうだな)


 魔力とは、筋肉のように根本的に身体を構成している物ではない。が、使えば負担がかかる。自分たちでは自覚出来ないが、身体の中心辺りに自分の魔力量の限界が近づくほど強烈な負担がかかり始める。そして、今のアリーのようになる痛みに襲われる。この世界で読んだ本には、身体が限界を感じるとブレーキをかける作用のようなものだ、と書いてあった。やりすぎれば意識が飛び、1週間寝たままになることもあるらしい。


「ふっ、この程度で魔力切れするなんて。私もまだまだね……」


 ニヒルに痛みを抱えながらも、アリーは笑ってみせる。アリーは、この状況に慣れているのだろうか? 自分も、この状況には何度かなったことがある。魔力が切れ目に近づく感じがいまいち分からず、使いすぎてしまったのだがかなりの痛みだった。お腹の辺りが攣った感じといえばその激痛が分かる人には分かるかもしれない。きっと、彼女も前に体験したことがあるから耐えられるのだろう。ここまで魔力をコントロール出来る練習をしているんだ、不思議ではない。


「これが魔力切れの痛み……。くぅ……、初めてなったわ」


 初めてだった。


(う~ん、取り敢えず、回復してあげるか)


 すぐさま彼女に上級回復魔法をかける。ホーリーキュアは、回復魔法で身体の外傷を回復してくれる魔法だが、少しずつであるなら魔力も回復させることが出来る。これでかなり痛みが楽になるはずだ。


「……あんっ!?くふぅ!!うぅん!!」


「!?」


「うぅう!!はぁう!!いっ!!はぅ!!」


 いきなり苦痛の声をあげていたとは思えない声を、アリーはあげ始めた。艶めかしく身体を左右に揺らし、顔を赤く染め息を荒げ始める。振り乱されたロングヘアーの赤い髪がよりアリーの魅力を引き立てていた。


(な、なんだ!?なにが起こっているんだ!!俺は、回復魔法を使っているだけなんだ!!ち、違う。俺は、アリーを喘がせようとなんてしていない!!おまわりさん俺は無実なんです!!)

「ふぅ、うぅ、はあぁぁ……。いいの、そこ、胸の下らへんにかけて……。お願い……」

「え。あ、は、はい」


 落ち着け、落ち着くんだ俺!! これは治療行為だ!! 言わば、今の俺は医者なんだ!! 患者さんを、変な目で見てはいけない!! これは、エッチなお医者さんごっこではないんだ!! 治療行為だぞ!! 無心!! 無心だ!!!! 俺は、治療マシーンになるのだ!!!!


「ふぅ~、はぁ~、ありがとう、もういいわ!!」


 スッと、アリーは起き上がる。そして、元気よく柔軟をはじめた。


「上級回復魔法って、こんなに気持ちいいものなのね。まるで丁度いい温度のお風呂に入りながら、マッサージでも受けた気分だわ!!ん~~!!こんなにいいのなら、私も習ってみようかしら?うちには、回復魔法専門の人がいないから今まで習ってこなかったのよねぇ。でも、回復魔法が気持ちいいなんて話聞いたことないし。私が、魔力切れしてたからかしら?それとも、ベイだからかな?まぁ、なんにしても助かったわ!!」

「あぁ、そう……。よかったよ」


 もうちょっとで、俺が大変なことになるとこだったが(精神的に)。まぁ、アリーが無事回復したことだし、良しとしよう。



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