巻き込まれました
「ま、まぁ、2人の問題みたいだし、話し合いでもすればいいんじゃないかなぁ…。それじゃあ、俺はこれで…」
そそくさと、その場を俺は立ち去ろうとする。
「ま、待って!!!」
するとロデが頭のバンダナを外し、俺に、再度抱きついて来た。ロデがバンダナを外すと、即座に女性姿のロデが出現する。…バンダナが、マジックアイテムか何かなんだろうか?
「こ、こいつと2人にしないで!!女の子を見捨てるの!!行かないで!!」
「…って、言われても。本当に女の子かどうか、妖しいし…」
「さっきの話を聞いてなかったの!!私は、女!!れっきとした女の子よ!!ほら、このバンダナで、男に見せてただけ!!だから、助けて!!」
「ええ…」
俺は、困惑しながらも、ロデに引き止められて、立ち去りづらくなっていた。それは、ロデがあまりにも必死でそう言っているのが分かったせいだが…。目の前のロザリオは、そんな嫌なやつなんだろうか?そうは見えないが…。いやいや、見た目美少女なのに、男らしいからなぁ…。見た目だけでは、分からないもんか…。
「…お二人とも、仲がよろしいんですね…」
俺とロデを見て、何を勘違いしたのか、ロザリオはニコニコしながらそう言う。顔は微笑んではいるが、どこか笑っていないような…。銀の髪を、頭の左右で結った、ツインテール。女性物のシャツに、可愛いリボン。紺色の短いスカートをつけた愛らしい様相からは、今は、威嚇にも似た黒い雰囲気を醸し出していた…。というか、本当に男?声まで、女性なんですけど?あれか、これもマジックアイテムでの変装とかだろうか?魔法、恐ろしいな…。
「いやいや、そんなことは…」
「そうよ!!私達は、仲が良いの!!」
「って、おい…!!」
ロデが、猛烈な大嘘をしれっと吐く。
「だからあんたは、お邪魔なの!!ゴー、ホーム!!帰れ!!」
「…なるほど、恋のライバル登場というわけですか…」
「…いや、あの…。全然そんなことないっていうか、仲も何も、会った回数すら少ないんですが…」
「そんな少ない回数会っただけで、ロデに抱きつかれるまでの関係に…。これは、強敵ですね…」
「…」
駄目だ。何故か、俺がロデといい感じの仲だと、何を言っても思われてしまうっぽい…。いかん、2人の問題に巻き込まれ始めている。何とかして、逃げださねば…。
「ベイ・アルフェルトさんと言いましたか…。それでは、私と勝負しましょう…!!」
「えっ…」
「ロデに、どちらが相応しいか!!ここで勝負しましょう!!私が勝ったら、ロデから身を退いてください!!良いですね!!」
「えっ、ああ、はい…」
…何故か、勝負をすることになってしまった。でもまぁ、いいか。さっさとおわらせて、この場から離れよう。勝っても、負けても、どっちでも良さそうな勝負だし…。
「それでは最初に、どちらがよりロデを愛しているのかを、見せ合う勝負をしましょう。見てください、私のこの胸元のリボン!!これは子供の時に、ロデに貰ったものです。こうして、今でも大切に私は、身に着けているんですよ。もう、あの頃からロデは可愛くて…。おっと、他にも、ロデが幼い頃身に着けていた服、下着、制服や、持ち物に至るまで。多くの思い出の品を、私は、保管しています。この場に全部は持ってきていませんが、それぐらい私は、ロデを愛しています…!!」
「…」
それって…、かなり陰湿なストーカーか何かなのでは?いや、思い出の品を持ってるのはいいことなんだと思うんだが、制服、下着?そこまで行くと、どうなの?という感じになってしまう。というか、何故持っているんだ…。
「気持ち悪い…。気持ち悪い…」
「…」
ロデが震えている。過度な愛情は、愛を超えて、気持ち悪さとして認識されるようだ。そんなことは気にせず、ロザリオは、愛おしそうにリボンを撫でている。…これがロデが彼女…、いや、彼を嫌がっている理由なんではないだろうか?ロザリオ自身は、そのことに気づいていないようだが…。
「しかし、…俺の方は、特に物とかは持ってないな…。情報を、タダで教えて貰ったくらいか…」
「…な、なんだってー!!!…ろ、ロデに、タダで、情報を貰ったと…。タダで…」
「ええ、ああ、うん。そう。タダで…」
瞬間、ロザリオは、その場に崩れ落ちる。
「私ですら、ロデに物をただで貰ったことはないのに…。このリボンも、お菓子と交換だったのに…。情報を、タダで…。…そんな…」
「…」
よく分からないが、かなりのダメージを与えてしまったらしい。そんなに、ショックだったんだろうか…。
「…くっ、いえ、私もかなり多くの物を持っていますからね。その程度で、へこたれはしませんよ…。ええ…。それにこれは、どれだけロデを愛しているかの勝負です。ロデに、どれだけよく思われているかの勝負では…、勝負ではないのですから…」
「…大丈夫か?」
「ふっ、私を気遣ってくれるとは、心の広い方ですね。恋敵に対してその態度…、余裕とも取れるかもしれませんが、今は、ありがたく頂いておきましょう。大丈夫です。ご心配ありがとうございます」
ロザリオは、足に力を入れ、何とか立ち上がる。本当に大丈夫だろうか?
「ふぅ…、まず最初は、私の勝ちですね。では、次の勝負と行きましょう!!…やはり、ロデは商人!!商人と言えば、お金です。この場で持っている、お金の総額で勝負しましょう!!やはり、商家の娘と付き合うからには、それなりに裕福でないと、ご家族に与えるイメージが良くないですからね。これは、避けて通れない試練と言えるでしょう」
「はぁ、…なるほど…」
「ロザリオ…、さっきから、自分に有利な勝負ばかり持ち出してない?」
「ドキッ…、いや、そんなことは…」
「あんたも、商家の一人息子でしょう。一般人のベイ君と、どっちがお金を持ってるかなんて、見る必要もなく明らかよね?」
「い、いえいえ、そんなことは…。私だって、今日は200万フェールしか持ってきてませんからね…。いつもは、2倍くらい持ってきてますし…。負ける可能性は十分…」
「200万…、そんな大金、持ち歩いてる奴がいるわけが…」
「俺の今の財布には、1000万フェール入っているな…」
俺は、財布のお金を、軽く数え直しながら答える。100万フェールの束が10組。うん。合っている。
「「!!!!!!!」」
魔法で収納力がアップした財布だから、これぐらいは入るんだよなぁ…。しかし、神魔級魔物の素材は、これでも入りきらないほどの値段で売れた。普通に働くより、良い稼ぎだろうな。多分。あれ、2人が固まっている…。まぁ、大金だからな…。俺も、旅行じゃなかったら、10万ぐらいしか持ち歩いてなかっただろう…。
「ベイ君、どこでそんなお金を…。というか、ベイ君の家って、お金持ち?」
「いや、普通の庶民の家だよ。今日は、運良くそれだけ持っていただけさ。いい感じに、持っている素材が売れてね」
「ふ~ん、素材を売ってねぇ…」
「うわ、本当に入ってる…」
ロザリオが、俺の財布の中身を確認して、返してくれる。そして何故だか、俺の後ろに隠れていたロデの、密着率が上がった気がした。