夏の遭遇
まぁ、それでもアリー達は、大分回復したらしい。あんなヘトヘトだったのに、初級回復魔法、数秒ぐらいでいいとは…。やはり、威力が上がっているのか?と言っても、今までと同じ感覚で放っているし、何か違いが出るはずもないと思うのだが…。…魔法には、まだまだ分からないところが多いようだ…。
「日も暮れてきたし、そろそろ晩ご飯の準備をしましょう」
「「「「「「「「「「「「「「「「「はーい」」」」」」」」」」」」」」」」」
そうアリーが提案して、アリー達は一旦着替えに、牛車に戻る。ふと見ると、牛車の後ろの壁がスライドして、簡易的なシャワールームが構築されていた。…多機能だなぁ。そこで海水を洗い流して、アリー達は着替えて出てくる。カヤが起こした火で、鍋を煮こんだり、食材を焼いたり。滞り無く、楽しく、晩ごはんの準備は進められていった。
「バーベキューに、スープ。パンに、サラダ…。飲み物もある。充実した、晩ご飯だな」
「デザートに、フルーツ盛り合わせ、生クリーム添えもありますよ。ご主人様」
土魔法で出来たテーブルに、次々と料理が並べられていく。
「よっと、はっと」
カヤは、楽しそうに火の前に陣取りながら、バーベキューの食材を絶妙な焼き加減で焼いて、皆の皿に移していった。アリー達の作った料理と合わせて、これで、一通りの料理が、出揃ったことになる。
「それじゃあ、いただきましょう!!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「頂きます!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」
皆で席に付き、晩ご飯を一緒に食べる。日が暮れ始めている海を見ながら、楽しく食事を進めていった。
「皆さん、ベイ君のことをマスターとか、ご主人様とか言ってらっしゃいますよね?あれは、何でそういう呼び方にしてるんですか?」
「ああ、それは、皆が同じ呼び方だと面白みがないからですよ!それに私達は、夫・ベイ・アルフェルトにそれぐらい尽くしたいという思いがあります!!最初、出会った時からそんな感じだった呼び方の名残が、今でも残っているんですよ。勿論、結婚したら変えようと思いますけどね」
「へ~。そんなに、ベイ君のことを慕うような出会いが…」
「そう!!その通りなのです!!…お聞きになりますか!!」
「えっ、あっ、その…。…ええ、是非…」
「では、お話しましょう!!あれは私がまだ、故郷の森に住んでいた時のことでした…」
ミルクとレノンの会話をきっかけに、話は、俺と皆との出会いの話へと移っていく。勿論、所々ぼかして皆は説明するが、大抵は事実が語られた。魔物に追い回されているところを助けてもらい、傷の手当までしてくれてとか。1人で剣の修行をするだけの毎日に、冒険への誘いをくれただとか。周りから虐めにあい、食事すらまともに出来なかった毎日に、平穏をくれたとかだ。ああ、何だか懐かしいなぁ…。俺は、そう思いながら食事を進める。だが、皆がかなり俺を美化して語るもんだから、学生組の俺を見る目が、かなり関心したような目になっていた。…大したことしてないんだけどなぁ…。俺は、何だかいたたまれない気持ちになった…。
「…そこで私は主人と出会い、皆さんと出会い、ヒーローを目指す覚悟を決め…」
話は続き、カザネまでの全員が、出会いを話し終える。その頃には、皆がキラキラした目で俺を見ていた。…いや、違うんです。違わないけど、違うんです。そこまで、大したことしてないんです。そんな目で見ないで下さい…。
「…」
「うん?どうした、ニーナ?」
「いえ、その…、シデンさんのお話、どこかで見たようなお話だったから…」
「…ああ~」
どこかで見たも何も、そのキツネがシデンです。なんて、言っても分からないか。チラッと俺は、シデンを見る。シデンは、唇に人差し指を当てて、優しく微笑んでいた。
「まぁ、そんなこともあるよ…」
「そ、そうですよね…。ベイ君が、多くの命を救ってる、ってことですよね」
ニーナは、納得したように頷く。ごめんな、ニーナ…。事実を話す訳にはいかないんだ…。俺は、心の中で、そっとニーナに謝った。
「さて、そろそろ皆、食べ終えたわね。じゃあ、片付けましょうか」
「…」
「マスター…」
「ああ…、俺に任せて、皆は片付けをしてくれ。何かあったら、呼ぶから」
「分かりました。じゃあ、皆で片付けをしましょう」
「はい、フィー姉さん」
「そうですね」
「ミズキ」
「…承知」
「?」
学生組は、頭に?を浮かべている。俺達にしか、分からなかっただろう。こちらに、誰かが走ってきているようだ。感じからして、1人が追われている感じだろうか?魔力での察知だから、視認距離に入るまでは、事情が分からない。俺は、片付けをする皆から離れて、走ってくる者たちを、待つことにした…。
「来るなぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
「ははは!!ロデ、もう日が暮れたよ!!帰ろうよ!!」
「お前1人で帰れぇぇぇぇぇぇええええええええ!!!!!!!!!!!」
叫び声が聞こえてくる。1つは男性、1つは女性の声だ。ロデ?ロデ・マルシアのことか?何でこんな所に…。いや、どっちでもいいか…。にしても、不思議な光景だな…。
「…ロデが、女の子に追い掛け回されている…」
そう、男のロデが、美少女に追いかけられていた。しかも動きから、かなりの全力疾走で走っていることが分かる。だというのに、その美少女は、楽しそうにロデを追い掛け回していた。
「しつこ…、!!べ、ベイ・アルフェルト!!な、なんでここに!!…いや、助けてくれぇぇぇええええ!!!」
ロデは、俺を視界に捉えると、一目散に俺目掛けて駈け出して、俺の後ろに隠れた。そして、俺と対峙するように、ロデを追い掛け回していた美少女が止まる。
「はぁ…、はぁ…。さぁ、ロデ、帰ろう!!そして、私と愛を育もう!!」
「気持ち悪!!!!俺は、男だ!!同性となんて、ごめんだね!!!!」
「何を言っているんだ?君は、女性だろう?幼なじみの私が、知らない訳ないじゃないか!!」
????同性?ロデが男で、目の前の美少女が同性?そしてロデは、本当は女性…。ということは…。
「…あの~、初対面でこういうことを聞くのもあれなんですけども…」
「うん?ああ、申し遅れました。私は、ロザリオ・フェイン。このような格好をしておりますが、れっきとした男です。以後、お見知り置きを…」
「…」
俺は、ロデを無言で見る。
「そいつの言っていることは、本当だ。こんな可愛い容姿をしているが、れっきとした男だ。そんな顔になるのも分かるが、事実だ…」
「まじか…」
「ええ。よろしくお願いします」
ロザリオ・フェインは、スカートをつまみ。可愛く俺に、お辞儀してみせた。…なんか、面倒くさいことになりそうだな。関わりたくない…。俺は、そう思わずにはいられなかった…。




