報酬
数時間すると、眠気が襲ってきた。まだ、身体が完全回復してないせいか、それとも習慣のせいか。ともかく、アリー達も呼んで、寝直すことにした。その次の日、休みとしては、夏休み前最後の休みになるわけだが。その日は、引っ越しの手伝いをすることになった。誰のって?ヒイラと、サラサのだ。神魔級回復魔法は、なんだかんだで完成を急がなくてはならない。なのでヒイラは、暫くは泊まりが多くなるだろう。だから、1通りの物を、持ってくることにしたようだ。サラサは、良い妻になるため、また、レム達のような強者と訓練したいために、ほぼ完全に家に移ってくるらしい。と言っても、持ってくる荷物は少ないようだったが…。
「よっと。では、これからお世話になります!!アリーさん!!ベイ!!」
「いいのよ、改まらなくて。同じベイの妻として、もう、家族みたいなもんじゃない。気楽に行きましょう!!」
「…!…は、はい!!」
「で…」
アリーは、ヒイラの荷物を見つめる。ちょっとした山になっていた。正直、全部いるのか?と思うようなアイテムも、複数入っている。さて、何処に置いたものだろうか…。
「ヒイラ…、これ…」
「…アリーちゃん、いつ、いかなる時も、持ち物確認を怠るな。これ、うちの基本姿勢だから…。多いとは自分でも思ってるんだけど、分かって…」
「はぁ…、分かったわよ…。何処に置こうかしら…」
ヒイラの荷物とにらめっこしながら、アリーは考える。考えた末、皆で、新しい棚を買いに行くことにした。お金は、俺が出した。実は、旅行に備えて、小金を稼ごうと神魔級魔物の素材を売ったのだが…。予想外に、財布がずっしり重くなってしまった。と言うか、財布に入りきらなかった。お金に関しては、旅行で困ることはなさそうだ。むしろ、出先で別荘すら買ってもいいぐらいな気がする。…いや、流石に無理か?
「べ、ベイ君、ありがとう」
「いいって、いいって」
棚は、ミルクが素手で、担いで家に持っていく。道行く人が、変なものでも見たような目で見てきたが、それもしょうがないだろう。幼女が、軽々、大きめの棚を持っているように見えるんだからな。事情を知らなかったら、俺でも、そんな表情すると思う。その上、たまに指先に乗せて、回したりしているもんだから、かなり余裕で運んでいるのが、よく分かっただろう。その後、研究と訓練を軽くしていると、日が暮れてきた。軽くとは言え、フィーと訓練した疲れが出ているので、その日は、早めに寝ることにした。
*
「ベイ、起きろ、朝だ!!ご飯の時間だぞ!!」
「うん?」
目を開けると、ヒイラと、サラサが、俺を覗き込んでいた。そのまま2人共、朝のキスをしてくれる。まだ照れているのか、少し顔が赤い…。2人共、可愛いな。そう思いながら、俺は、ベッドから這い出た。
「お弁当よーし。教科書よーし。ノートよーし。後はベイ、ニーナのこと、頼んだわよ」
「ああ、行ってきます!!」
「行ってらっしゃい!!」
「アリーさん、行ってきます」
「行ってくるね」
朝食を食べ、アリーと玄関で行ってきますのキスをして、学校に出発する。サラサと、ヒイラも、腕を振って、行ってきますをした。さて、どうニーナを誘ったもんだか…。俺は、少し考えながら学校に向かった。
「おっはよう!!ベイ君!!」
「おっと、レラ…」
「先輩、おはようございます」
「えっと…、おはようございます」
「おはよう、サラサちゃん!!っと、ヒイラさんだっけ?おはようございます!!」
登校していると、後ろからレラが、俺目掛けて抱きついてきた。…周りの目もあるので、ちょっと恥ずかしい。でも、すぐ離れてくれたから、まぁ、いいか…。
「先輩、調度良かった。今度、夏休みに旅行に行こうと思うのですが、先輩も行きませんか?」
「旅行!!良いね!!行こう、行こう!!勿論、ベイ君も行くよね?」
「ああ、俺も行くよ…」
朝からレラのテンション、とても高いなぁ…。何か、良いことでもあったのか?
「何か、機嫌よさ気ですね、先輩。何かあったんですか?」
「ふふっ、分かる?実はね、うちの親父が何と、修行の旅に出ててさぁ。実家に帰っても、無理な訓練しなくて済みそうなんだよねぇ!!これは、ウキウキしてしまうのも、仕方ないってもんですよ!!」
「はぁ…、なるほど」
「休み中、ゆっくり羽を伸ばせるなんて、これ程、嬉しいこと無いよね!!しかも今年は、皆と旅行だって。最高じゃない!!…で、何処に行く予定なの?」
「ああ、行き先は、アルナファティクでして…」
登校しながら、サラサがレラに、旅の内容を説明する。これで、レラは行くことが決まったか。後は、ニーナだけだな。旅の話と、ヒイラが一緒に登校している訳を話していたら、学校に着いたので。俺達は別れて、また、お昼に話しをすることにした。俺は、1人で自分の教室に向かっていく。まぁ、皆が一緒にいることはいるが…。うん?
「張り紙?」
教室の黒板をふと見ると、俺を呼び出す張り紙が貼ってあった。いつでも良いので、校長室に来るように、とのことらしい。…まだ、授業開始まで時間があるな…。何かは分からないが、俺は、取り敢えず行ってみることにした。
「…校長室なんて、初めてだなぁ。というか、今、いるんだろうか?」
俺は、校長室の扉をノックする。すると、どうぞという声が、中から聞こえてきた。
「失礼します」
俺は、扉を開けて中に入る。すると、校長先生が、机に座って待っていた。
「おお!ベイ・アルフェルト君か。早かったね。ここに来たのは、呼び出しの張り紙を、見たからかな?」
「はい」
「おお、そうか。わざわざ来てもらって、すまないね。実は、これを、君に渡しておこうと思ってね」
「これ、ですか?」
俺は、校長から、小さなカードのようなものを手渡された。そこには、全課程終了と書いてある。
「これは、闘技大会の優勝報酬だ。勿論、これを無くしても、卒業は出来るから安心して欲しい。このカードは、まぁ、形として残せるものとして、一応作ったものだ。記念にでも、持っておくと良い」
「はい」
つまり、今日から俺は、この学校に来なくても、卒業出来る訳か…。うーん、僅か三ヶ月で、ここまでこれるとわな…。感慨深い…。でも、それだけの価値のある戦いを、あの場ではすることになった。普通、あんなガンドロスや、サラサみたいな、強者に勝てる奴なんていねぇって。まぁ、勝った俺が言うのも、何だけど…。
「いやぁ、あれは素晴らしい試合だった!!私なんて、まだ興奮が収まりきらない!!しかも君は、あの、ガンドロスさんに勝ったんだ!!文句無く、この全課程終了の報酬を渡すに、値する実力と言える!!君のその実力があれば、この社会を生き抜くことなど、造作も無いことだろう!!この報酬を使い、好きに時間を使って、更に成長したまえ!!君の、今後の活躍に期待する!!」
「はい、頑張ります!」
「宜しい!!…で、今から授業に出なくても、良くなるわけなんだけれども。今から、ホームルームが始まる。最後の出席にするかは、君次第だが、どうする?出てくるかね?」
「おっと、そうですね。出てこようと思います」
「うむ、なら、教室に戻ったほうが良いだろう。では、頑張って来たまえ!!」
「はい。失礼します」
俺は、そう言って、校長室から出て、教室に戻って行った。教室に戻ると、先生がすでに来ており、まさにホームルームが始まる直前だった。席につくと、ニーナと目が合う。ニーナは、優しく微笑むと、手を軽く振ってくれた。俺も、軽く振り返す。さて、誘えるかな?俺は、不安を抱きながら、始まったホームルームを聞いていた。