力の変質
「(な、なんですと~~!!)」
「レム!!」
「レム~~!!」
黒い魔力に包まれたレムは、動かずにそこに立ち尽くしていた。レムの召喚を解除する手もあるが、今は魔力でレムが覆われている状態だ。下手に召喚を解除して戻すと、どんな影響がレムに残るか分からない。だから、その手はギリギリまで使いたくないと俺は考えた。
(レム、どうしたんだ!!大丈夫か!!)
魔力を通して話しかけるが、返事がない。
(レムが喋ることが未だに出来ないのは分かってる。だから、さっきみたいにでいい!!気持ちを伝えてくれ!!答えろ、レム!!)
俺の念話が通じたのか、レムから気持ちが伝わってきた。
(魔力!!魔力がいるのか!!レム!!)
だが今レムは、高密度の魔力に覆われた状態になっている。これでは、遠距離の魔力操作での受け渡しは不可能に近い。魔力を受け渡すのには、直接レムに触れる必要があるだろう。
「フィー、ミルク、これからレムに直接触れて魔力を渡さなきゃいけない。お前達の召喚を、一回解除する。俺の中で、フィーは風魔法で俺の身体の防御を。ミルクは、魔力操作の補助と身体の硬化を頼む」
「はい、マスター!!」
「(お任せください、ご主人様!!)」
2人の召喚魔法を解除し、俺はレムに近づいて行った。
「ぐっ……」
魔力の波の中を進んでいく。思ったより抵抗がでかい。一歩ずつ身体を魔力でガードして前に動けるスペースを作り進む。慎重に行かないと、俺もこの魔力の影響を受ける恐れがあるからだ。なるべく早く移動し、そして俺はレムの背中に触れた。
「よし、レム、受け取れ!!」
俺は、レムに魔力を流し込んでいった。 瞬間、レムに流し込まれた魔力がその場で消費され同時に周りの魔力がレムに吸い込まれていく。黒い魔力は消え、全てレムに吸い込まれた。
「ぐっ……、なんだ……」
胸の奥が熱い。恐らく、レムの魔石が反応しているのだろう。俺の目の前のレムは、黒い光りに包まれた。
「なるほど、これが進化か……」
聞いたことの無い声だ。男性? 女性? 判断がつかない。レムがいたところには、黒い鎧の騎士が立っていた。先ほどまで戦っていた騎士よりごつい。大きさは、先程の騎士と同じくらいかな。黒い大剣、大盾を持ち、盾の内側には別の剣が装着されていた。その剣の柄は、折れたレムの岩の剣と同じ形の柄だった。
「レム、……か?」
「はい、我が主。見た目と属性は変わりましたが、間違いなく私は、あなたの戦士レムです」
属性が変わった?俺は、レムの魔石を出してみる。色は、黒くなっていた。
「おそらく、先ほどの魔力を取り込んだためでしょう。主の魔力を使わせて頂いて、闇属性の魔力を全て吸収したのですが。もとより、土の保存魔力量が低かった私は、最終的に体にある属性魔力で闇が勝ってしまいました。それを維持するため身体が変化した結果、闇属性が私の属性になりました。勿論、そのまま土の魔法も使えます」
つまりレムは、2属性のハイブリッドになったのか。すげ~~。うん? というか闇属性?
「ということは、ここは闇属性上級迷宮ということか?」
「(それで合ってると思います、ご主人様。しかし、レムも進化しましたか。ふふふ、次は私が美少女になる番ですね~。待ち遠しくて、母乳がいっぱいできちゃいますよ)」
「……どういう理屈だよ」
しかし、先ほどレムに魔力を流し込んで結構な魔力を使ってしまった。牛乳を飲んで補充しておこう。うん、うまい!!
「(はわわ、ご主人様が私の牛乳を!!……ゴクリ。……えっ、ご主人様、なんでいきなり召喚し直すんですか!!(バシィン!!)痛い!!)」
ミルクは、なにか一言多い。あとツッコミの意味で叩いたのに、ハァハァ言い出すのやめてくれませんかね。フィーも、召喚し直す。フィーは、何故か頭を守った状態で出てきた。フィーは叩かないよ。俺は、フィーを抱きしめて撫でてあげた。
「(あ~~、叩かれるのもいいですけど、撫でられるのも良さそうですねぇ。まぁ、私が美少女になった時の楽しみにとっておきますか。搾乳えらいえらいって褒めてもらうんです!!)」
なんだ、その褒め方は……。でも、反応してこれ以上話を進められてもやばい気がするので、無視しておこう。
「とりあえず、先に進んで出口を探す必要があるな。レム、先頭を頼めるか」
「お任せください」
しかし、レムも普通に喋れるようになったんだなぁ。感慨深い。レムを先頭に、ミルク、俺、フィーの順で進んでいく。途中、幾つか部屋があったが、朽ちた木のテーブルや本棚があるくらいで魔物は出てこなかった。そうこうして進んでいるうちに、大広間のようなとこに辿り着いた。かなりでかい部屋だ。今のレムの大きさでも、かなり余裕がある。
「主、何か居ますね。しかも大勢……」
「……待ち伏せか。ここまで、ほぼ一本道だったからな」
「(いい根性してますねぇ。全員、叩き殺しましょう!!)」
「マスターには、指一本触れさせない!!」
通らないわけにもいかないみたいだし、進むとしよう。魔法をいつでも撃てる準備をして、剣を握り直しレムにゴーサインをだした。大広間に入ると、敵が見えてきた。先ほどの黒騎士と同じ魔物が50体ほど一体の魔物を挟むように整列している。残り一体の魔物は、甲冑だった。スマートな体型で黒いマントを付け、杖を持っている。でかいというわけではなく、人間の大人ぐらいの大きさだ。そいつが、パチパチパチと拍手をしてきた。
「まさか我の騎士を打ち倒し、その力までも取り込むとはな。素晴らしい……。ここに呼んだかいがあったというものだ」
呼んだ? 俺達がここに来たのは、こいつのせいなのか? つまり、転移魔法を使える魔物ということか。 あれは、転移魔法陣じゃなく転移魔法だったのか?
「どうだね、君?我が騎士団に入らないか?なぁに、お仲間が気になるならすぐにでも殺してあげよう」
「(このバカ、どの面下げて言ってるんですかね!!殺しましょう!!そうしましょう!!)」
ミルク、少し落ち着きなさい。ふぎぃぃぃぃぃ!! とか怒っていたミルクを、撫でて落ち着かせる。うっ、と一声言うと徐々に冷静になっていくミルク。その後、うっ、はぁ、ひぃう!! とか、喘ぐのをやめて頂きたい。
「寝言は寝てから言え!!私が使える主は、このお方唯一人!!邪魔をするのなら、死ぬのはお前達だ!!唯の一人も生かしておかん!!」
あれ~~? もしかして、レムも切れてます? いや、嬉しいけど。そんなふうに言ってくれて嬉しいけど、安い挑発に乗りすぎるのもどうかと思うんですけども。
「マスターの敵は、私が許さない!!」
フィーすらもファイティングポーズをとって殴る真似をしている。冷静なのは、俺だけのようだ。でも、俺のために怒ってくれてありがとう。
「なぁに、直ぐに結果が分かるさ。君達の死でな……」
黒甲冑の合図と共に、黒い騎士が隊列を組んで前に出てきた。まるで黒い壁だ。攻めにくそう。レムが身構えるが、その前に進み出るものがいた。ミルクである。
「(ああ、すみません。こいつら、私に任せてもらっていいですか。ご主人様に撫でてもらって、気分も良くなったんですけども。やはりご主人様を殺すなんて言う奴は、許しておけないんですわ)」
そう言いながらミルクは、敵の列に近づいて行く。
「(もうね、ここまで怒ったの初めてですよ!!今なら、なんでもぶっつぶせる気がしますね!!この私が、潰し尽くしてあげますよ!!!全員!!全員です!!!)」
ミルクの怒声とともに、ミルクの身体が光り始めた。俺の体の中のミルクの魔石も光る。ミルクを包んでいた土色の光がどんどんでかくなっていった。巨大なこの部屋でもギリギリの大きさになると、光の中から巨大な腕が現れる。
「(な、なんじゃこりゃあああああああ!!!!)」
ミルクの悲鳴が聞こえた。光が消えたあとミルクの居たとこにいたのは……。筋肉モリモリの肉体。いかつい牛の顔。人間のような腕に、牛の二本足。もともと生えていた角は、更に鋭くなっておりその大きさはまさに巨人だった。巨乳ではあるが、いかつすぎてアピールポイントにならない。乳というよりも胸筋。全身の所々が、白と黒の毛で覆われておりすごい強そうだ。簡単に言うと、ミルクは牛鬼に進化した。