最終戦前
「いやぁ~、死ぬかと思った…」
「お疲れ様、ベイ。でも、流石ね。結局は、相手を圧倒しちゃったし。やっぱり、ベイは最高だわ!」
アイラ戦が終わって、次の試合が始まるはずだった。だが、試合のリングは、未だかつて無いほどに、ひどい惨状にっており、修復に時間がかかっている。殆どの、先生が総出で土魔法で修復しているが、もうちょっと掛かりそうだ。…、何と言うか、申し訳ない。それで、俺は、親とアリーの様子を見に来たわけだけど…。
「…で、うちの親は、気絶していると…」
「途中までは、ベイ頑張れ!!って応援してたんだけどね…。2人共、ベイが殴られた辺りで、気を失ちゃって…」
「まぁ、やばかったのは事実だけど、親のほうがこうなってるとは…。2人の前では、迂闊に、攻撃を受けるのも駄目みたいだなぁ…」
「2人共、それだけベイが心配なのよ…。勿論、私もね!!次は、強敵のサラサだけど、今度は、楽に勝ってくれると嬉しいわ」
「…そうだと、いいなぁ…」
アリーの中では、勝ち上がってくるのは、サラサで決定らしい。まぁ、今のサラサを、止められる対戦相手なんて、そうそういないだろう。予想外の出来事でも起こらないかぎり、決勝の相手は、サラサのはずだ…。そう考えていると、アリーが俺の後ろに向かって、手を振りだした。
「あっ、おーい!!ヒイラ。何してたの、ずいぶん長かったじゃない?もしかして、トイレ?」
「アリーちゃん!!!大きい声で言うことじゃないよ…!!!!!」
ヒイラが、大慌てで駆け寄り、アリーに詰め寄る。恥じらっている所が、少し可愛い。にしても、ヒイラは、何処に行っていたんだろ…?まぁ、詮索するのも無粋か…。
「ほら、ヒイラ。ベイが、あなたのトイレ時の姿を、妄想しているわよ。どう?くるものがあるんじゃない?」
「…えっ?あっ…!!!!!!!(ビクッ、ビクビクッ!!)」
いや、してないからね!!ヒイラも、自分の身体を抱きしめて、小刻みに震えない!!ヒイラが、ローブで顔を隠していなければ、周りの人に変な目で見られたことだろう。多分、人前でしちゃいけない顔になっているはずだ…。若干、息も荒くなっている気がする。
「…それにしても、あの、アイラとか言う奴。本当に、何者なのかしら?あんな強力な魔法を操るなんて、只者では無いわね…。もしかすると、私並、いえ、それ以上の天才かも…。例えるなら、超天才ってとこかしらね?」
「…やっぱり、本人なんだ…」
「うん?ヒイラ、何か言った?」
「あ、いや、なんでもないよ…!!なんでも!!」
超天才…。つまり、アリーの進化系みたいなもんか…。いや、別人なんだから、進化系は、おかしいか?どうも、アイラと、アリーが重なって感じられるんだよなぁ…。そう思ってしまったのは、そのせいだろう。しかし、似ている点が、多過ぎた気がするなぁ…。まるで、アリーが2人いるみたいな感じだった。…そうだったら、俺的には、最高なんだけどなぁ…。創世級とか余裕で倒して、世界を守れるくらい、幸せなんだけどなぁ…。
「間違いなく、彼女が使っていた魔法は、どれも神魔級クラスに近いものばかり。世界は、広いわね…。あんな化物魔法使いが、存在していたなんて…。私も、頑張らなきゃ!!」
「アリーちゃんなら、あれぐらい、すぐに成れるよ…」
「うん、ありがとう、ヒイラ!!私、頑張るわ!!」
「成れるというか…。成ると思う、というか…」
??どうもさっきから、ヒイラの反応がおかしいなぁ?トイレで、何かあったんだろうか?…いや、だから、トイレを想像してはいけない!!この考えは、ここで投げ捨てよう!!
「おっ、リングの修復が終わったみたいね。これで、準決勝が始められるわ」
そのアリーの言葉に、俺もリングを見ると、綺麗に穴が修復され、リングも作り直されていた。修復に携わった職員の皆さん、お疲れ様です…。そして、修復されたばかりのリングに、サラサが進んで来た。
「何時になく、気合入ってるわね、サラサ…」
「…」
アリーの言う通り、これまでと明らかに、サラサの気迫は、違っていた。まだ、入場中だというのに、もう既に、手に武器を持っている。まるで、早く始めろと、言わんばかりだ。遅れて、もう一人の選手も入場してくるが、明らかにサラサの気迫に押されている。これは、もう、勝負が見えたな…。
「それでは、準決勝・第2試合を行います!!!!!!!!!!!!!!!!」
「「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁああああああああああーーーーー!!!!!!」」」」」」
会場中に、観客の声が響く!!その中で、サラサは既に、相手に向かって剣を構えていた。すぐにでも、相手に飛びかかりそうな、その体勢は、サラサの言いたいことを物語っている。
「…お前を倒す、そして、私は、ベイと戦う!!」
そう、言っているのだろう。声は、聞こえなかったが、恐らくそうだ。相手は、サラサの気迫に押されそうになっていたが、今は集中した戦士の顔をしている。…流石、準決勝まで上がってきた選手だな。あのサラサを、相手にして、今は、落ち着いている。だが、あの選手では、今のサラサの一撃を受け止めるのに、平常心では、無意味に近い…。
「それでは、始め!!!!!!!」
「…っ!!!!!!!!」
修復したばかりのリングに、サラサの踏抜きによって、ヒビが入る。その加速のまま、力任せにサラサは、剣を振り抜いた!!
「ふっ!!!!!!!」
相手の選手は、受け止めようと、自分の剣で攻撃を防ぐ。だが、そんなことをしていい一撃では無い。相手選手は、少し持ち堪えたが、再度、サラサがその場で力を入れると、あっさりと相手の身体は、宙に浮いた。
「…これで、私は…」
短く、サラサがそう言ったように見える。そのまま油断も隙もなく、サラサは、対戦相手を観客席の壁に叩きつけた…!!
「ぐはっ…!!!」
相手が、意識を失って、その場に倒れる。それを見届けると、サラサは、一直線に俺の方を見てきた。
(舞台は、整った、ってところか…)
「勝者、サラサ・エジェリン選手!!!!!!」
サラサの勝利を告げる声と、観客の歓声が聞こえる。だが、俺達は、お互いしか見えていなかった。長く、予想外の激闘もあったこの大会だが、今、その最終戦が幕を開けようとしていた。