VS???・終
「「そう、それでいいわ…」」
何故か、そう言うアイラの口調は、明るかった。まるで、自分のことのように、喜んでくれているみたいに…。そして神魔級強化を、纏った俺を確認して、妖精が動き出す。さっきは、一瞬足りとも捉えることが出来なかったその姿が、今は、ゆっくりと確認出来た。
「…」
俺は、静かに、パンチを放ってくる妖精の腕を、片手で握り受け止める。そして、そのまま、自分の手に土のガントレットを纏わせて、力のままに握りつぶした!!
「…!!!!!!!!!!!!」
声にならない悲鳴を上げるように、妖精がよろめき、後ろに下がる。握りつぶされた片腕は、光となって、空中に消えていった。…本当に凄いなぁ、神魔級強化…。しかも、さっき神魔級強化を見て、覚える時に、面白い魔力の使い方を思いついてしまった。…勝てる!!今の俺なら、この妖精に勝てるぞ!!
「…がぁ!!!!!!」
妖精が、やけくそ気味に、もう片方の腕に魔力を纏わせて、拳を振るって来た!!だが、妖精が拳を振るった場には、もう俺の姿は無い。
「!!!!!」
「…遅いな」
さっきまでとは、明らかに逆の立ち位置に、俺と妖精はいた。俺が思いついた魔力の使い方とは、一体化時の、皆の魔力の使い方を、コピーするということ。それも、神魔級強化をしながらだ。今は、カザネの高速移動を、参考にしている。結果、この強敵と呼べる妖精でさえも、捉えることの出来ない速度を出すことが出来た。もう、俺は知っていたんだ。勝つ方法を、皆に、教えられていた。さっき、そのことに気付かされた…。アイラに…。俺は、剣を妖精目掛けて、振り下ろした!!!
「!!!!!!!」
魔力によって、一体化時の剣に、近い形になっている俺の剣が、妖精を背後から一刀両断する。妖精は、そのまま、魔力の粒子となって消えていった。他の、偽物も一緒に消えたらしい。さて、後は、本命を残すのみか…。
「「…ふふっ」」
パチパチパチっと、アイラが突然、拍手をし始める。その顔は、穏やかで、にこやかに微笑んでいた。
「「流石、ベイね。たった12年で、ここまで来るなんて。やっぱり、あなたしかいないわ!!」」
突然、距離を詰め、アイラは抱きついてくる。攻撃するでもなく、身体の全体重を預けるかのような、信頼の現れでもあるかのような、密着した抱擁。俺は、それを素直に受け止めてしまう。…????まただ、何かこの感覚に覚えがある。まるで、俺の一番大切な人を、抱いているかのような…。
「「ふふっ、じゃあ、またね。ベイ。傷つけて、ごめんなさい…」」
そう言うとアイラは、俺から離れ、地面に降り、そのまま控室に戻っていた。…????えっと、つまり、これは…。
「じょ、場外!!!しょ、勝者!!ベイ・アルフェルト選手!!!!!!!!!!!!」
「…ふぅ」
アリーが、安心したようにため息を付いている。えっと、なんかいいのかな…。喜んでいいんだろうか、これで。…ともかく、俺は、これで決勝進出することが決まった。
*
「「うん?」」
「あなた、一体何者?」
転移しようとしていたアイラの前に、1人の女性が現れた。ヒイラ・スペリオ。彼女は、まるで警戒するかのように、力強く手を握っている。
「「何って、アイラ・バルトリオ。それが、私の名前だけど…」」
「そう…。でもね、あそこ迄の魔法が使える生徒なら、とっくに噂になっているはず。なのに、バルトリオなんて今まで聞いたこともなかった。それほどの実力なのに、前回大会では見なかったし、あなたを学校で見た覚えもない。それに…」
「「それに…?」」
「あなた、何処か私の知ってる人に、似てるのよ…。喋り方、その仕草…。まるで本人みたい…」
「「…ふふっ」」
アイラは、抑えきれないように笑みをこぼした。そしてゆっくりと、ヒイラに近づいていく。
「あはははっ!!まさか、ベイならまだしも、あなたがそう言ってくるなんてね。…ふふっ。何と言うか、嬉しいわ、ヒイラ」
アイラの、その二重にブレて聞こえていた声は、聞き慣れた声になっていた。何処か自信に溢れた、彼女特有の声に。
「…!!!!!」
「うん、そこで驚くの?まぁ、いいわ。どうせ、バラすのが早いか、遅いかの違いでしか無いし…」
彼女の、赤と緑の髪が、変化していく、長い赤色の髪。目は、自信に溢れた光を宿し。鋭くヒイラを見据えていた。だが、彼女の背は、ヒイラが知っているよりも少し大きく、胸も大きくなっている。顔立ちも何処か、7年ほど、年を重ねたように見えた。
「あっ…」
「まぁ、でも、流石。私の、唯一人の親友ね。やっぱり、偽名にあなたの名前を組み込んで正解だったわ。ヒイラ、あなたは、その価値がある人物だった」
「…????」
ヒイラは、混乱している。目の前で起こっていることが、あまりにも思考の追いつかない現実だった為だ。だがヒイラは、今の投げかけられた言葉を整理して考える。アイラ・バルトリオは、偽名。その中に、自分の名前、ヒイラ・スペリオが含まれている。つまり…。
「ア…・バルト…」
「じゃあね、ヒイラ。また、あなたと話せて嬉しかったわ…」
アイラは、ゆっくりとヒイラの横を通り過ぎていく。だがヒイラは、彼女にもっと聞きたいことがあった。だから、彼女の名前を呼ぶ。
「待って!!…アリーちゃん…!!」
「…やっぱ、久しぶりに呼ばれると照れるわね。それ」
アリーは、ゆっくりとヒイラに振り返った。
「見てた、ヒイラ。あれほどの魔法、超天才の私以外には、誰も扱えないわよ!!あっ、ベイなら扱えるかもね。いや、扱えるわ!!私の夫だし」
嬉しそうに、アリーは微笑んで言う。その笑顔は、成長していても、今のアリーとあまり変わらない無邪気なものだった。…そして、その言葉を言い終えると同時に、アリーの身体が、ゆっくりと薄くなっていく。
「えっ…」
「おっと、仮の身体じゃあ、これが限界か…。結構、時間かけて用意したんだけどなぁ…。まぁ、しょうがないわね」
足からアリーは、光の粒子になって消えていく。まるで魔力のように…。
「あ、アリーちゃん…!!」
「心配しなくてもいいわ、ヒイラ。これは、仮の身体。いずれちゃんと話が出来るわよ。それまで…」
アリーは、悪戯でもするかのような笑みを浮かべて、口の前に人差し指を付ける。
「もう1人の私と、ベイには秘密ね」
そう言って、アリーは、ヒイラの前から消えていった…。