VS???・続々
そう、俺は知っている。知っているんだ…。あの牛は、ただの牛じゃない。形状こそ乳牛そのものだが、あの牛を形成する為に使われている魔力量!!それは、他の偽物の比ではない…!!そうだよなぁ…。あいつの強さを再現しようとすると、まぁ、そうなるよなぁ…。ゆっくりと、牛が動く…。此処から先は、瞬きすら許されない領域だ!!俺は、集中力を、心の中で高めた!!
「…モ~」
間延びした鳴き声が、会場内に響く。そして、魔力とか関係無しに、牛が空中を蹴り…!!まるで、ミサイルか何かのように、瞬間的に驚異的な加速を遂げた!!そう、奴は空中を蹴った!!ただ、それだけだ!!!力に任せて、空気を踏み台にしたのだ!!牛が、空気の壁を突き破り、周りに殺人的な空気の波動を生み出す!!勿論、そんな牛が狙いを定めて飛んだ先にいるのは、俺だ。直撃すれば、死亡、良くて全身骨折。それも、聖魔級強化をかけた状態の俺であってもだ!だが、今の俺に焦りは無い。何故なら…。
「…本物の方が、もっと威圧感のある攻撃をしてくる」
そう。この攻撃は、より強い本物のミルクが良くしてくるため、見切り慣れているのだ。良かった、練習試合を訓練に組み込んでおいて、本当に良かった…。俺は今、心からそう思った。落ち着いて、俺は剣で牛の頭を起点に、牛の体全体を剣に滑らせ、受け流し後ろに反らせる!!本当は、この瞬間に切れれば良かったのだが、相手は土の魔力の塊。その硬さは、剣を当ててみるまで分からない。下手をすれば、こちらの剣が折れる恐れがある。だから、今は受け流すだけにした。次で切り伏せる…!!俺は、剣で感じた硬さに見合った魔力を、剣に宿した。
「モー!!」
案の定、牛は俺の後ろで、即座に空中を蹴り、こちらに反転してくる!!後は、ここで切り伏せるだけだ!!ここで、この牛を処理出来るのは、後の戦いにとって、とても大きな意味を持ってくる。失敗は、避けたい!!俺は、迷いなく牛の攻撃が当たらない、ギリギリの位置を保ちながら、牛に剣を振り下ろした!!
ガキィィィイイイイン!!!!!!!!!
牛は、そこで真っ二つになるはずだった…。俺の硬度を確かめての、威力調節は完璧だったはず。だが、この牛は、隠し玉を持っていた。
「全身を、土の鎧でさらに包むのか…!?」
「モー!!」
今の牛の体は、さらに固い土の魔力で覆われている!!…これはつまり、ミルクが使っているガントレットの代わりみたいなもんだろう。人型じゃなく、牛だから使えないなぁと、思っていた俺がバカだった。まさか、こういう形で使ってくるとは…。俺は、あまりに硬くなった牛の硬度に剣を跳ね上げられ、ガードを崩してしまう。そこに、俺の剣の威力で目の前に止まっていた牛が、再度空中を蹴り、追撃してきた!!
「モー!!!!!!!」
鳴き声と動きを見る限り、今までのよりも強めな突撃だろう。今の俺に、この攻撃を躱す手立ては無い。これだから、ミルクのようなパワーファイターの相手は、辛いんだ。一転して、ピンチになる。だが、避けることは出来なくても、手がない訳ではない…。
「その魔力の使い方なら、俺のほうが上だ…!!!!」
俺は、自身の腕に、土のガントレットを形成する!!火の魔力と土の魔力で、更に腕を強化し、突撃してくる牛の真横から、俺は、全力の拳を叩きつけた…!!突撃してきた牛の進行方向が、俺の前で直角に曲がり、会場の壁目掛け、一直線に吹き飛んでいく!!!牛は、轟音を上げて、会場の壁に激突した…!!
「「「「「「うわあああああーーーー!!!!!!!!!!」」」」」」
観客席から、悲鳴が上がる。余程、一連の戦闘に、恐怖を感じていたのだろう。自分達に衝撃が届いていなくても、反応してしまったようだ。…届いてないよな?一応、魔力の結界があるはずだし…。大丈夫な、は、ず…?
「(ご主人様!!次が来ますよ…!!!)」
ミルクの声に反応し、周りを確かめる。見ると、ゴーレムがいない。これは…!!
「…!!!」
「…やっぱり、転移魔術か!!」
俺は、背後に出現したゴーレムの剣を、自身の剣で受け止めた!!いつの間にかゴーレムは、大きな盾と、剣を装備していた。…何だか…。
「(昔の私を思い出しますね…)」
レムの、言う通りだ。まさに、出会った頃のレムにそっくりと言える。属性は闇で、黒々としているが、形はそのままだ。なんでこうも、最初期の皆の形状を知っているんだ?ゴーレム時のレムなんて、アリーにすら見せたことがないのに…。本当に、謎だ…。ゴーレムは、力任せに、俺を押し切る!!そして、また、剣を振り上げた…!!
「…」
だが、微かに魔力を動かしている流れを感じる。恐らくだが、転移魔法で剣先を移動させて、俺を切り裂くつもりだろう。案の定、俺の目の前で、ゴーレムの剣先が、魔力の空間に飲み込まれていった。と言っても、それは、ほんの一瞬の出来事で、身構えていなければ反応が遅れていたことだろう。俺は、一瞬で、魔力の流れを更に探る!!
(…後ろか!!!)
俺は、後ろを見ずに、剣を頭の後ろで構えた!!
ガキィィィイイイン!!!!
剣を受け止めた衝撃が、俺の腕に伝わってくる!!どうやら、読みは当たったようだ。俺に、攻撃が防がれたのを見たゴーレムは、すぐに剣を戻し。更に俺に、攻撃を加えてくる!!時には、転移で剣を飛ばし、フェイントを織り交ぜながら攻撃してくるが…。…どうも、レムのような鋭さが、剣に無い。そりゃあ、威力やスピードは出ているが、どちらかと言うとこのゴーレム、転移魔法に頼りすぎている気がする…。やはり、技量のコピーは、出来ないということだろうか。完全に、こいつの動きは、見切れている気がする。
「グァ!!!!」
ゴーレムが、一際大きな振り上げで、剣を放ってきた!!俺は、その隙を見逃さず、ゴーレムの股下から後ろに回り込む!!
「…!!!」
「悪いが、転移は使わせない…」
俺は、ゴーレムの転移魔法を、相殺し、その場から逃げようとするゴーレムを捉えた!!そして、がら空きの背中に、魔力で強化した蹴りを叩き込む!!!
「…!!!!!!」
牛とは、反対側の壁に、ゴーレムは叩き付けられた!!その胴には、穴が空き、かなりのダメージが入ったように見える。だが、ゴーレムは、すぐに体勢を立て直してきた。だが、俺に近づいてくる様子はない…。
「…さて、相手をしていないのは、残り1体か…」
それは、まるで幼い子供のような身体。だが、今ではとは間違いなく、格が違うであろう、うちで最強である者のコピー。全属性の魔力で形成された妖精。感じるのは、その魔力が他の偽物と比べて、抜きん出て高いということ…。
(まさか、あれまで使ってくるってことは、無いよな…)
俺は、嫌な感じを覚えながら。近づいてくる妖精に、向き合った。