最終日二回戦
入場者通路を進み、リング目指して足を進めていく。もう大分慣れたのか、最初の頃の緊張も、今は無い。
「さぁ、今回の優勝候補!!ベイ・アルフェルト選手!!今、入場です!!」
「「「「「うわあああああああああああああぁぁぁぁぁぁああああああああーーーー!!!!!!!」」」」」
…俺が入場しただけで、この声援。俺も人気になったもんだ。ありがたい事に、俺の名前を呼んで応援してくれている観客もいる。知り合いも、そうでない人も居て、とても有り難い。まぁ、この状況も後、数試合。この声援を力に変えて、頑張らせてもらおう。そう思い、俺は対戦相手に向き直った。
「…」
俺の対戦相手、カゼル・ミラハルトは、静かに佇んでいる。声援が止み、会場が静かになっても変わらず、腕を組んだ姿勢で構えていた。よほど集中しているのか、落ち着いているのか…。ともかく本気で来ることは、間違い無さそうだ。
「それでは!!!!試合開始!!!!」
勝負の開始を告げる音が、解説の言葉と共に鳴り響く!!そしてすぐに、カゼルは動き出した。
「我が前に、敵を阻む壁を創造せよ!!グランド・ウォール!!!」
カゼルが詠唱を行い、俺の前に何個もの土の壁を作って、俺の行くてを阻む。うーん、多分、召喚魔法を使う時間稼ぎだろう。召喚魔法使いとしては、当たり前な初期行動だな。無詠唱で呼べる俺には、関係ない話だけれども…。そうこう考えている間に、カゼル側から、土の壁が破られ始めた。…どうやら召喚は、この短時間で終わらせたらしい。大した早口だな。そう、感心していると…。
「グワウゥゥゥ!!!!」
土の壁を体当たりで打ち砕き、カゼルの魔物が姿を現した。確か、リザードッグだったかな?以前見たことがある奴だ。犬に近い顔の、恐竜と言う感じの魔物だな。だが、動きが前より早いし、身体の所々で、血管が盛り上がっている。これは、薬を盛っているな…。
「キシャアアアアアァァァァア!!」
リザードッグが牙を向き、俺に噛み付こうとしてくる。俺は、身体を捻って、リザードッグの頭に蹴りを放った!!
「!グガゥ!!」
リザードッグは、蹴りの衝撃で吹き飛び、土の壁に叩きつけられる!!だが、すぐに起き上がってきた。うーん、痛覚遮断もされてるのかな?もうちょっと、強めに攻撃しないと駄目か。そう、俺が考えていると…。
「グガアアアアア!!!」
土の壁越しに、俺を狙って、巨大な岩の拳が迫って来た!!確か、グリーンゴーレムだったかな?こいつも、前見た奴だ。身体に、草花の生えている岩の巨人。その強烈なパンチを、俺は片手で難無く受け止めた。
「ふっ、流石だな、ベイ・アルフェルト。常人なら、潰れてもおかしくない威力のはずだが。やはり、お前には通じないか」
カゼルが、俺の行動を見通しているように、余裕たっぷりにそう言う。…この攻撃は、おとりか…。
「「…」」
俺に向かって来る、2頭分の息遣い。…俺は、ゴーレムのパンチを受け止めたまま、両サイドに蹴りと、拳を叩き込んだ…!!
「「ガウッ…!!」」
だが俺の攻撃は、ギリギリで2頭に回避されてしまう!!…反応がいいな。ただの魔物では、無いか。
「おっと、あれにも反応するのか!!流石というか、理解できん強さだな。だが、この2頭もお前の攻撃を見切ったぞ。どうする、ベイ・アルフェルト?」
カゼルは、俺の攻撃を魔物が躱したのが、よほど嬉しいらしい。にしても…、何だこの魔物?同じ、恐竜のような見た目だが、片方は赤く、片方は黄色い。だが見た目は、全く同じだ。しかも、連携が恐ろしいほどしっかりしている。そういう種族なのか?珍しい。俺は、ゴーレムを風魔法で吹き飛ばし、剣を抜いた。
「お、重いゴーレムが、あっという間に場外!!!流石、ベイ・アルフェルト選手!!半端ない強さだぁ!!!」
「まぁ、ベイならあれぐらい余裕よ。余裕」
実際、まだ聖魔級強化も使ってないからな。余裕があるといえばある。だが、この2頭。動きから見て、恐らく強さは聖魔級クラス。見た感じ、こいつらも薬を盛られてるっぽいな。とすると並の攻撃では、すぐに起き上がってきてしまうか…。使うべきかなぁ…、どうするか。
「ふっ、まだお前のために用意した、最終兵器があるんだ。そんな所で固まってないで、勝負をつけようぜ、ベイ・アルフェルト!!!!!!!」
カゼルの後ろの大きな土の壁をぶち壊し、そいつは現れた。大きさは、俺の5倍ほど。見た目は、先ほどの2頭が、厳つくなったかのような顔をしている。もしかして、同じ種族か…。とすると、この大きさが本来の姿!!
「こいつこそが、この2頭の母親!!そして、俺の切り札!!ゴルドノン・ノヴァだぁああああ!!!!!」
…で、でかい!!しかもゴツイ。口から火を吹いている。まさに、怪獣という感じだ。ああ~、ああいうのが召喚出来たら、男の子的には、はしゃぎたくなっちゃうだろうなぁ。夢があるなぁ…。
「しかも、見ての通り!!片方は変異種で、雷が使える!!2つの炎と、雷。受けて沈め、ベイ・アルフェルト!!!!」
カゼルの声と共に、3頭が襲いかかってきた!!…うーん、俺はまず、後ろから忍び寄っていたリザードッグを、土魔法で撃ち倒す。陽動が上手いね。リザードッグが、場外の壁に叩きつけられるが、前の3頭は止まる気配も無いし、カゼルに動揺も無い。…俺が、リザードッグに気づくのも戦略か。まぁ、前への反応が少し遅れるからな。有りっちゃ、有りだ。
「「ガウッ!!」」
「グウオオオオオオォォォォォォォォオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」
…成長前と、成長後で、迫力に違いがあり過ぎだろ。俺は、2頭の噛みつきを剣で反らし、最後に炎を吹いてきた怪獣の頭を、風魔法で飛び越える。怪獣の炎に、2頭が巻き込まれるかと思ったが、流石に避けてるか。まぁ、そうだよな。俺は、そのまま怪獣の背中に着地した。ここで剣を突き立てて、シスラの武器の感じで内部から破壊を…。と、思ったのだが。
「ガウッ!!」
すぐに、子供2頭が俺を挟み込むように背中に飛び乗り、俺を迎撃してくる。うーん、予想より動きがいいなぁ。俺の首と足、それぞれを2頭が狙うことで、かなり捌き辛い攻撃になっている。…いかん、ちょっと苦戦してきてるぞ、これ。
「「…!!」」
不意に、2頭が同時に背中から飛び退く。…俺に対して、怪獣の放った尻尾が迫って来ていた!!
「ちっ!!」
すぐに風魔法で飛び、避ける。…なるほど、俺を空中で迎撃する予定だった訳ね。飛びのいた俺目掛け、3頭が、それぞれの属性のブレスを放ってきた!!