黒
「なるほど…」
サラサは、帰ってきた斬撃に、また斬撃を放つことで、相殺した。…今のレラには、全く隙が感じられない。間違いなく強敵なレラに対し、サラサは、どう動くんだろうか?
「では、少し本気を出すとしましょう…」
瞬間、サラサの身体を、赤いオーラが包んでいく。これは鍛えた戦士が纏える、気と呼ばれる強化魔法のようなものだ。色々と制限はあるが、今のサラサの身体能力は、大きく上がっていることだろう。
「違う違う、そっちじゃないって…。はぁ…、まぁいいけど。サラサちゃんがその気なら、私も本気を出さないとね」
レラの身体を、緑色のオーラが包んでいく。うん?あれも、同じ気なのか?と言うか、レラも使えたのか…。あれだけの技量で、まだ強くなる。恐ろしいな、レラは…。
「やはり、先輩は侮れませんね…」
「ふふっ、かかってきなさい…!!」
「では、お言葉に甘えて。…はぁぁぁぁあああああああああ…!!!!!!」
サラサが、気合の声と共に、一步大きくレラに向かって踏み込む!!その力強い1步は、その場に風を巻き起こし、レラとの距離を一瞬で縮めた。
「受けてみますか、先輩…!!!」
「うーん、ちょっと遠慮したいかな…」
直後、サラサの渾身の一振りが、レラ目掛けて振り下ろされる!!あまりにも速く、あまりにも重い一撃!!普通の生徒なら、受け止めた武器ごと、真っ二つだろう。
「いやぁ…、私もまだまだだよね…。つい、避けちゃたよ…」
サラサの背後で、レラが言う。だが、サラサに対して攻撃する姿勢は取っておらず、自然体で構えていた。見ると、サラサが腰の短剣に手を掛けている。レラが近づいていたら、反応していたのだろう…。それを見通して、レラはあえて攻撃しなかったわけだ。しかし、あれを平然と避けるとは…。確実に、レラの動きが速くなっている。
「でももう、今の動きは見たからね。次は、もっと上手く立ち回るよ」
「そう、ですか…!!!!」
振り向きざまに、サラサが大剣を一閃する!!あまりの剣圧に、周りに衝撃波が起きた。
「そうそう、完全に見切ったの。だからほら、こんなことも出来る」
レラがいたのは、サラサが振り抜いた剣の上だった。恐ろしい…。こう何度も背後を取られると、戦っている相手としては、絶望を感じざるおえないだろう…。だがサラサは、冷静に剣を振りぬき、レラを地面に下ろす。
「さて次は、こっちから攻めようかな…!!」
瞬間、サラサの前から、地面に降りたレラが消えた!!観客に、今のレラの動きが見えている者は、何人いるだろう…?今のレラも、レラの振るう2本の剣も、最早常人では捉えられない速度で動いている。まるで腕が、20本あるかのようだ。だがサラサは、その神業とも言える剣技を、紙一重で防いでいく。
「…ベイ、今どうなってるの?」
「レラが、サラサを押してるよ。サラサも攻撃しようとしてはいるが、あの攻撃の間を縫って剣を差し込むのは、かなり難しいだろうな…」
あまりのレラの猛攻に、サラサも踏ん張ってはいるが、押し切られるのも時間の問題だろう。それにもし攻撃できたとしても…。
「くっ…!!!」
力任せにレラの剣を押し切り、反撃しようとするサラサ。しかし、それは悪手だった。渾身の力を込めたその剣は、簡単にレラにいなされて、無防備な体勢を晒してしまう…。
「私の勝ち、かな…!!」
今のレラが、その隙を見逃すはずも無い。高速の剣が、サラサの喉元に迫りつつあった!!
「っ…!!」
サラサは、とっさに短剣を振りぬき、レラの剣を防ぐ。間一髪で負けは免れたが、絶望的な状況には違いない。
「さぁ、どうするサラサちゃん?次は、無いよ!!」
サラサが体制を立て直す暇もなく、レラの猛攻が続く。攻撃してもいなされ、守っても崩されるのは時間の問題…。サラサにとっては、嫌な展開だろう。だがそれでも、サラサは落ち着いている。やはりレラが言った通り、何か切り札があるんだろうか?
「お見事です、先輩…。ベイの為に残しておくつもりでしたが、使うしか無さそうです…」
サラサはそう言うと、レラの猛攻をなんとか押し返し、少し距離を取る。しかしレラは、サラサを追わない。サラサの行動を待つかのように、その場に佇んで剣を構えていた。
「ふふっ、君たちみたいな優秀な後輩が出来たからね。お陰で私も、もう一步、強くなることが出来たよ。さぁ、遠慮はいらないから、かかってきなさい!!」
レラが待ち構えるように、2本の剣を構える。その時、周りの空気が確かに変わった…。
「…」
サラサから、とてつもない殺気が溢れている。周りの観客も、その光景に思わず冷や汗をかき、つばを飲み込んだ。
「…あっ」
俺は、思わず呟いた。恐らく、観客には見えていないだろう。一瞬サラサの気が、赤色から黒色に変わる。その瞬間、サラサが剣を振りぬいた!!……、いかん、あれはヤバイ。人間が受けちゃいけない攻撃だ…。斬撃は、待ち構えるレラに向かって、一直線に伸びていく。レラは、なんとか斬撃をいなそうと剣を走らせるが…。
ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォオオオオオオンンン!!!!!!!!!!
まるで、巨大な爆発音のような音が会場に響く…。サラサの斬撃の、すさまじい威力が、この音から容易に想像出来るだろう。レラの剣と、サラサの斬撃が触れ合った瞬間、この音はおきた。そのまま、周囲の塵が舞い上がり、空間に土煙が立ち込める…。
「何と言う、凄まじい一撃!!!!!果たして2人は、無事なのかぁ!!!!!」
ゆっくりと、煙が晴れていく…。サラサは、剣を担ぎ悠然と佇んでいた。レラは…。
「…」
リング場外、観客席の壁に叩きつけられたかのような跡があり、その下に力なく倒れている。
「レ、レラ選手ダウン!!!よって、勝者はサラサ・エジェリンだああああああ!!!!」
「「「「うわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああーーーー!!!!!!!」」」」
サラサの勝利宣言が、会場に響き渡る。サラサはレラに近づき、救護室に運ぼうとするが…。
「いちちち、いやぁ、凄まじい攻撃だったよ。サラサちゃん…」
レラは、自分から起き上がった。サラサは、信じられないとでも言うような顔で、レラを見ている。
「あっ、驚いた。まぁ、あんなのくらったら、普通はこんなふうに起きれないよね…。普通は…」
「…流石、先輩ですね」
「いやぁ、私っていうか、なんていうか…。あははは…、ともかく、私は大丈夫だよ!!」
レラは、元気よく体を動かして見せる。
「うーん、しかし、負けちゃったかぁ…」
一瞬、悲しげな表情になるレラ。そして、サラサに向かって振り向くと…。
「いいかい、サラサちゃん!!私の仇は、ベイ君が取るからね!!首を洗って待ってるといいよ!!」
と言い、その場を後にした。するとサラサは、何故か笑顔になって。
「はい!!」
と、答えた。うーん、レラのあの反応…。まさかな…。取り敢えず、レラの様子でも見に行こう。あの攻撃を受けて、無傷なはずがない。無理をしていたら大変だ。俺は、解説席から離れて、控室に向かった。