専属契約
「…」
部屋についてから、ヒイラは顔を手のひらで覆って、うずくまったまま動かない…。というか、耳まで真っ赤だ。分かりやすいほど、恥ずかしがっている。
「で、これが研究中の魔法陣何だけど…」
「で、じゃないよ、アリーちゃん…!!!!少しは、私に気を使ってよ!!私が今、こんなことになってるのアリーちゃんのせいなんだからね!!」
「えっと…、だから好きな魔法の話をして気を紛らわせようかと…」
「確かに魔法は好きだけど…!!恥ずかしくて、今はそれどころじゃないよ…!!ああ…、友人の夫に私は、なんてことを言って…」
アリーの発言に顔を上げたヒイラだったが、また顔を伏せてしまう。…まぁ、それほどすごいこと言ってたよな…。うん、言ってた…。
「う~ん、別にいいんじゃないかしら?性癖は人それぞれだし…?」
「やめてよ!!性癖とか言うのやめてよ…!!…だいたいおかしいよ!!座られただけで、あんなになるなんて!!…そうだよ、おかしい!!アリーちゃんが、何か私にしたんじゃないの!!もしくは、ベイ君が!!」
「ベイ…君?」
「…!!??…君でいいよ!!合ってるよ!!さっきのは、……ちょ、ちょっとした気の迷いだよ…」
「へ~、魔法使いが契約を捻じ曲げるんだぁ…」
「い、いやいやいや…!!あの時は正気じゃなかったし。無効!!だから無効だよ!!椅子になる話は、無し!!無しです!!」
「そう…」
チラッと、アリーは俺を見る。ヒイラも釣られて俺を見るが、再び顔を真赤に染めると、またうずくまってしまった。う~ん、可愛い…。
「…ベイ、また座ってあげたら?丁度、そんな感じの格好をしているし…」
「アリィィィィィィイイイイイイちゃぁぁぁぁああああああああんんんんん!!!!」
今度は、ものすごい勢いでヒイラが立ち上がる!!そうだよなぁ…。恥ずかしいと思ってるなら、そういう反応だよなぁ…。
「もう…!!本当、アリーちゃんは容赦無いなぁ!!…まぁ、いいよ。椅子になるのは無しだけど、専属魔法使い契約は、良いってことにしておくね…。…はい、ベイ君」
「うん?何かな、これは…」
ヒイラに小さな宝石を、俺は素早く渡された。見たところ魔石のようだが、見たこと無い色してるなぁ。赤に近い紫って感じだ…。
「これは特殊転移魔石。この魔石の対になっている物を持っている相手を、近くに転移させることの出来るアイテムだよ。つまり、これでいつでも、私を呼び寄せれるって訳だね!!」
「へ~、便利なものがあるんだなぁ…」
「なるほど…。ヒイラが着替えてるタイミングで呼べば、羞恥プレイになるのね…」
「いやいやいや!!流石に、強制的に転移するわけじゃないから!!私の方でも、転移タイミングはコントロール出来るから!!そんなハプニングが起きるなんて、欠陥品もいいところだよ…!!」
「ちっ…」
なんでアリーが、悔しそうなのかが分からない…。うーん、さっきから俺に、ヒイラを落とさせようとしている意図を感じるからなぁ…。これを利用して、更にヒイラを追い詰めようとでも、思ってたんだろうか…。何だか怖いです、アリーさん…。
「まぁ、これで専属魔法使い契約は、成立ってことよね」
「うん。我が家では、これを渡した相手に仕える仕来たりだからね。約束は守るよ」
「そう…。じゃあ、次は椅子になる方の話を…」
「アリィィィィィィイイイイイイイイイちゃぁぁぁぁぁぁぁああああああんんんんんん!!!!」
ヒイラがアリーに詰め寄って、肩を揺さぶる!!うーん、これは流石に、アリーの意地が悪い。何だか、ヒイラが可哀想になってきた…。
「なんで!!なんで、そっちに話を持って行きたがるの!!!」
「…それは、完全にあなたを信用するためよ。ヒイラ…」
「…??どういうこと、それ…?」
ヒイラが、アリーの肩から手を離す。アリーは真面目な顔つきになると、ゆっくりと話し始めた。
「ベイとぶつかってみて分かったと思うけど、ベイは普通の強さではないわ。勿論、その強さには幾つもの秘密がある…。それを、決して外部に公開しないという強い信頼が欲しいのよ…」
「…なるほどねぇ…。それは分かる話だけれども、私だって一端の魔法使い。それぐらい、当然守らせて貰うよ」
「どうかしら…。口では、何とでも言えるものね…。強い力を得られるかもしれない魔法…。どんな魔法使いだって、喉から手が出るほど欲しい技術のはず。そう簡単に、信頼出来るもんじゃないわ…」
「……、だから私が、ベイ君の椅子になれば信頼できると…?」
「ええ、そうよ。今はまだかもしれないけど、その内、身体が自然と屈するでしょう。だから、そうなってくれた方が、私的には、嬉しいわね…」
「…な、なるほど…。で、でも、何も椅子じゃなくてもいいんじゃあ…」
「…確かに、そうかもしれないわね。でも、そのほうが…」
アリーは腕を組んで、大真面目な顔で答える。
「私が、面白そうだからよ…!!」
「アリィィィィィィィィィイイイイイイイイイイイちゃぁぁぁぁぁぁああああああんんんんん!!!!」
またヒイラは、アリーの肩を掴んで揺さぶる!!うーん、仲が良いんだなぁ、この2人。まるでコントでも見ているようだ。話し合われている内容は、普通じゃないけど…。
「というわけで、今後はベイから離れられなくなるくらい、調教されて行ってね。ヒイラ!!」
「ちょ、調教…!!はわわわわわ、な、何言ってるのアリーちゃん!!おかしいよ!!考えてることが、おかしいよ!!!」
「まぁまぁ、ベイなら最初から、最後まで優しくしてくれるわよ…。それとも、痛いほうがいいかしら?」
「いや、私的には愛があればどっちでも…。って、何を言わせるんだよ!!アリーちゃん!!」
またヒイラが、アリーを揺さぶる。アリーも楽しそうだなぁ。なんだか、見ていて微笑ましい。
「ご主人様、夕食の支度出来ましたよー!!」
「ああ、すぐ行くー!」
「うん?他に誰か居たっけ…?」
「ああ、じゃあ見せてあげるって言ってたし、見せてあげましょうか。ベイの召喚魔物をね」
「ま、魔物?」
部屋を出てキッチンに行く。考えなくても、ヒイラが驚く顔が目に浮かんだ…。