駄目な状況
「上に乗る?」
「そう、ヒイラの背中に腰を下ろすように座るのよ。まるで、椅子に座るみたいにね」
「い、いけないよ、アリーちゃん!!これは人がしちゃ、いけないことだよ!!屈辱的だよ!!」
「へぇ~…。ベイが乗った後でも、そう言っていられるかしら…」
「うっ、…だ、大丈夫だよ。む、昔の私じゃないからね!!」
「そう、ならベイが乗っても平気よね…!!」
「そ、それとこれとは、話しがちが…!!」
「さぁ、ベイ!!どうぞ!!」
…えっと、どうするのが正解なんだ、これ。取り敢えず、座ればいいのか…。なんかヒイラが、衝撃に備えているようなすごい顔をしているんだが、大丈夫だろうか、これ。
「ベイ、早くぅ!!」
「…あ、ああ、分かったよ…。ヒイラさん、ちょっと我慢してね…」
「う、ううっ、う…」
俺はゆっくりと腰を下ろして、ヒイラの背中に座る…。
「あっ…」
「えっ、どうかした…?」
「どう、ヒイラ、効いてない?それとも…」
効くって何が?うん?何だか、下のヒイラがぷるぷるしているような…。…ああ、俺、剣とか持ってるから重いのかな?早く、退いてあげたほうがいいか…。俺が再び立ち上がろうとすると…。
「待って、ベイ!!…少しそのままで、そのままでいて」
「えっ、ああ、うん…」
と、アリーに止められてしまった。何だろう、効いてるんだろうか?何がかは、分からないが…。
「ひっ、ひぃう…」
「うん?」
またヒイラが、小刻みに震えだした。それに、少し顔が赤いような…。
「実はねベイ…。あれはもう、だいぶ前のことなんだけど…」
*
その日、アリーは家の付き合いで、ヒイラの家に来ていた。年も近く、魔法という共通の話題も合って、2人はそれなりに仲良く、大人たちの会話が終わるのを待っていた。勿論、大半は2人で魔法の研究をしているような時間だったが、それが2人には楽しかった。
「ねぇ、ヒイラ。あそこの本、高くて取れないんだけど…。台とか、梯子とか無いの?」
「えっと…。あ、あったよ、台」
「ありがとう。…乗っても届かないわね、これ。何で最上段にあるのよ、取りにくい…」
「えっと。梯子は、ここには置いて無いみたい」
「後ちょっとで、届きそうなんだけど…。仕方ないわね…。ヒイラ、私が肩車するから、その間にあの本を取って」
「えっ!!む、無理だよ。私、高いの苦手だし…」
「そう。うーん、どうしようかしら…」
高いのが苦手と言っているのに、無理に担いで怖がらせるのも駄目だし。かと言って、他に手頃に、乗れるような物も無い。こうなったら、目の前の本を積み上げて台にするしか…。
「あ、あの…。私が台になろうか?もうちょっとで、届きそうだし」
「ヒイラが?」
「そう。その台の一番上でうずくまるから、そしたら届きそうじゃない…?」
「うーん…。ギリギリね。まぁ、そう言うならお言葉に甘えようかしら…。お願いね、ヒイラ」
「うん!!」
そして、ヒイラは台の上でうずくまる。その上にアリーが乗り、背伸びして本に手を伸ばした。
「も、もうちょっと…」
限界まで足の爪先を伸ばし、手の指先を伸ばす。指先が、本の端に軽く触れた。もうちょっと…。その気持が、アリーに少しの無茶をさせて…。
「え、う、うわわわわ!!」
その体勢のまま、アリーはバランスを崩してしまう。足でヒイラの背中にふんばろうとするが、重心はすでに、後ろの方に傾いていて、バランスを直せそうにない。
「あ、アリーちゃん…!!」
そしてアリーを助けようと、横にずれたヒイラごと、台の下に落ちた。
「い、痛い…」
「はっ、うぅぅ…」
「うん?」
見ると、ヒイラがアリーの下敷きになっている。どうやら自分を庇ってくれたらしいことは、すぐに分かった。だが、それは落ちて痛がっているような表情には、到底見えず…。
「あっ、駄目…。これ、駄目なやつだよ、アリーちゃん…」
「えっと、何が…?」
「わ、分からない。分からないけど…、体が熱くてぇ…」
「えっと…。痛いんじゃないのね?」
「い、痛いんだけど…。なんか、なんか…。駄目なやつだよぉ…」
「???」
*
「ということが、あったのよ」
「???つまり、どういうことなんだ…?」
「後で本で調べて分かったんだけど、いい。いわゆるヒイラは、屈辱的な攻めや、痛みに快楽を覚えるタイプ。つまり…」
その言葉に、俺の下にいるヒイラが、一際大きく震える。
「どMなのよ」
「ひぃやぁぁぁぁぁぁあああああんん…!!」
ヒイラが、艶っぽい悲鳴を上げる。え、ちょっと待って!!つまりこの状況は、そういうプレイってこと…?
「…これ、駄目な状況のやつじゃん…。アリー」
「そうね…。でも、もう観客も生徒も帰ってるし、丁度いいでしょう。声は、魔法で消してるし」
「いや、そういう問題では、無い気がするんですけども…」
「あっ…。あう…、ひぃぅ…」
何だか、ヒイラの息が荒くなっている気がする…。ど、ど、ど、どうするんだよ、これ!!こんな状況に陥ったのなんて、初めてだよ!!対処の仕方が、分からないよ!!
「で、どう、ヒイラ?今なら、ベイの椅子になり放題もつけるわよ?」
何その嫌な、なり放題!!俺が困るんですけど!!人に変な目で見られるどころか、人格を疑われかねないんですけど!!
「なっ…」
「な?」
「なりますぅ…。ベイ君…、様、の椅子になりますぅ…」
「いや、そっちじゃなくて、仕える魔法使いでしょ?」
「なりますぅ…、なりますぅ…。だから私を、そばに置いてぇ…、ベイ様ぁ…」
……いけない。これは凄くいけない状況のやつだ。過去最高ではないが、それでもかなりやばい。というか、何でアリーはこの状況で冷静なんだ。精神力が高過ぎる!!
「よし!!これで頼れる研究仲間が出来たわね。魔法陣の加工で困ってたから、とても助かるわ!!」
「あぅぅ、ベイ様…。叩いてぇ…。好きにしてぇ…」
どうするんだよ、この状況!!アリー、なんとかしてよ!!責任取ってよ!!…はぁ。こうして、ヒイラ・スペリオが新たに、俺達の魔法研究を手伝ってくれることになった。色々と気になる点があるが、彼女も魔法研究に関しては、アリー並みの天才には違いない。心強い味方が出来た、と思えばいいんだろうか…。取り敢えず、この事態の収拾をつけよう。俺達は、興奮するヒイラを引っ張って、自分達の部屋に戻ることにした…。
こんな話ですが、150回目の更新になります。いやぁ~、なんか寝ても寝ても寝足りない状況で。今日はあまり更新できませんでした。次は、もうちょい更新したいですね。応援の感想などいただけましたら、やる気が出ますのでお願いします。ではでは、次回からも召喚魔法で異世界踏破をよろしくお願いします。