牛乳大好き
「(いや~~、フィー姉さん。うちのご主人様は、すごいですねぇ~。私、いつの間にか目の前が真っ白になっちゃいましたよ。暖かくて、ふわふわで。一瞬、死んだかと思いました)」
「うん、マスターはすごいです!!フィーも暖かくなって、ふわふわになりました。しかも身体が、すごい軽くなります」
「(あ~~、ですね。まさに、天にも昇る気持ち……。え、そうじゃない?あ~~、身体の回復加減ですね!!いや、すいません、間違えてました。確かに、気絶する前より軽いですね。いくらでも走れそうです!!)」
五分ぐらいして、牛が起き上がってきた。ものすごい顔で気絶してたので、大丈夫か? と思ったが、回復魔法がよく効いたようでなによりだ。
「(でも回復魔法って、あんな感じ何ですか?あんなの撃たれたら動けなくなっちゃいますよ。初めての相手がご主人様だから良かったものの……)」
「う~ん、フィーもマスターの回復魔法しか知らないから。でも、アリーさんはこんな気持ちのいい回復魔法なんて聞いたことない、って言ってたよ?」
「(アリーさん?う~む、でもやっぱりそうですか。やはり、私がお仕えするべきご主人様!!ご主人様もスペシャルなのですね!!)」
「え、あっ、そこまでじゃないよ。それよりも、そろそろ契約をしようと思うんだが……」
回復魔法の話題もそらしたいし、そろそろ本題に入ろう。
「(お、遂に正式にお仲間になれますね。フィー姉さん、レム、共にご主人様を支えて行きましょう!!私達の輝く未来に、レディーゴー!!です!!)」
「お~~!!」
(……)
レムは、相変わらず無口だ。
「(それでご主人様!!契約ということは、フィー姉さんたちのお話通りならば私に名前を頂けるということですね!!一体、どのようなスペシャルな名前をつけていただけるのでしょうか!!待ちきれません!!)」
「……ああ。お前の名前は、既に決めてある!!」
「(ゴクリ)」
「ドキドキ」
(……)
いや、フィーもわざわざ擬音を口に出して盛り上げようとしなくていいから。
「お前の名前。それは……、ミルクだ!!」
「(み、みみみみ、ミルクですか!!……牛乳。……ハッ!!つまり私を、そういう目で見てらっしゃるんですか。私のおっぱいに、興味津々なんですか!!嬉しい!!)」
「いや、違う!!俺が、乳製品を好きなのは事実だが、これは俺なりの牛という種族への感謝と尊敬を持って考えた名前だ!!」
「(か、感謝と尊敬!!)」
「そうだ!!俺達人間は、牛という動物に色々な意味でお世話になっている!!だが俺は、その中でも牛乳!!しかもコーヒーと混ざり合った時の、あの風味の豊かさ!!コクのうまさ!!あの美味しさに俺は、感謝してもしたりない……。そんな俺の、感謝と尊敬が混ざった立派な名前なんだ!!」
「(おお……、つまりご主人様にとってのスペシャルな名前なのですね。分かりました!!このミルク!!精一杯この名前に恥じぬよう、ご主人様にお仕えいたします!!)」
「ああ、頼んだぞ!!」
「わ~い!!ミルクちゃん、よろしくね」
(……)
レムも心なしか、歓迎しているように見えた。特にアクションはないけどね。こうして契約は、問題なくおこなわれた。
「(おお、これが契約ですか!!念話をいちいち使う必要がないなんて、便利ですねぇ。それに、ご主人様の中の魔力空間も極楽です!!ああ、私の目に狂いはなかった!!やはり、ご主人様が私の運命の人だったのですね!!)」
ぐぐうぅぅぅぅ~~~~~~~~~っ、とテンションが高くなっていたミルクの腹が鳴った。そういえば、そろそろお昼だ。
「(きゃああああ、す、すいません!!空気がよめないお腹でして。ですがご主人様、お腹が空きました!!草を食べてもよろしいでしょうか!!)」
「ああ、そろそろお昼だしな。俺も食べようかな?じゃあ、ここで休憩にしよう」
「は~い」
(……)
土魔法でベンチを作って座る。俺が弁当を食べるのを、フィーは隣りに座ってニコニコ見ていた。レムは、俺のそばで周りを警戒しているようだ。ミルクは、土魔法で草を集めてきて俺のそばで食べている。
「(うう……。まさか、こうして誰かと一緒にご飯を食べれるなんて……。しかも、こんな安全に。ご主人様、私、嬉しいです……。ううっ)」
泣きながら食べてる。なにも、そんなに感動しなくても。
「ミルクちゃん、大丈夫?」
「(ううっ……、ありがとうございます、フィー姉さん。グスッ……)」
ミルクの涙を、ハンカチで拭いてあげるフィー。いい子だなぁ。
「(えっく……。ところでご主人様は、この迷宮のボスには挑戦されないんですか?)」
「んっ、ボスかぁ……」
「(正直、私達がいれば楽勝だと思いますよ。この迷宮には、話を聞こうなんて頭のある魔物は、私ぐらい稀にしかいませんからね。どうせならボスと戦って戦闘の練習をしたほうが、今後のためになると思うのですが?)」
「ふむ……」
確かに最近は、この辺りの魔物に慣れきってきてる気がする。そろそろ、ボスにあたってみてもいいかと思っていたが、危険を考えて行くことがなかった。だが今は、それなりに実力のある魔物が3体も仲間になっている。ミルクもああ言ってることだし、一回そろそろ挑戦しておくべきだろうか。
「よし、分かった。明後日は、ボスに挑戦しよう。一応、準備をしたいしな。今日は、ミルクの戦闘を見てみんなの連携を考えよう」
「はい、マスター!!みんなとの連携、楽しみです!!」
「(なるほど。チームでの動き、ですか。今まで個人プレイでしたからね。いえ、ですが私はスペシャル!!すぐに馴染んでご覧に入れましょう!!)」
(……)
今のうちのパーティーは、前衛2、中衛1、後衛1というところだろうか。結構、バランス良く出来てるんじゃないか。レムが敵の攻撃を受け、隙を作り高威力の斬撃攻撃を当てる。ミルクが高威力打撃攻撃を繰り出し、俺が魔法で状況を見て攻撃・回復(少し問題がある回復だが)をする。フィーが後衛からバリバリ魔法を撃って、相手の体力をガリガリ削っていく。良いチームになっていると思う。
その日は、チームでの大まかな動きを決めて終了した。帰ってフィーと添い寝しようとしたら、フィー姉さんだけずるいですよ!! とミルクが言いだした。が、ミルクの体格では、ベッドに入ると俺が追い出される形になったので諦めてもらうことにした。
「(ぐぬぬ、私がもっと小さければ……)」
次の日は、レムを相手に皆が戦闘の練習をした。ミルクは、回避もうまいもので問題なく前衛をこなせそうだった。攻撃を避けられていたレムが、ちょっとムキになっているように見えた。
「(ちょ、レムさん!!振りが速い!!振りが速すぎます!!当たったら死ぬ!!死んでしまいます!!)」
で、午後は買い物をしに行った。帰還の宝珠、もしもの時の迷宮脱出アイテムである。結構な安値で売られているので5,6個買っておいた。これで、もしもボスが強くても逃げられるだろう。と言っても、アリーが帰ってくるまでに迷宮攻略を終えておくのはいいかもしれない。きっとアリーは、喜んで聞いてくれるだろう。明日は、絶対に勝つぞ。そう気合を心の中で俺は入れるのだった。
*
「お前たちは強い……。だが、我ほどではない……」
影は、悲しむようにうつむく。
「どこかにいないものか……。我の力を凌ぐような器は……」
影の声は、彼を守るように並ぶ騎士たちに虚しく響くのだった。