軽い本戦二回戦
俺は、救護室にヒイラを運びこむ。そこにいた保健の女教師ニア・ファイン先生が、ヒイラの看病をしてくれた。俺も少しだけ、その場で様子を見ていると、サラサがやって来る。
「ベイ、ここにいたか…」
「おうサラサ、どうしたんだ?何かあったか」
「ベイ、もう3試合おわった…」
「えっ?」
「もう3試合終わったんだ。お前が戦ってから、10分しか経っていないがな…」
「は、早いな…」
「ああ。お前の戦いで、皆、心に火がついてしまっている…。勿論、私もな…。意外と早く、次の試合は、来るかもしれんぞ?」
「わ、分かった。気をつけるよ…」
全部終わってから、もう一回抽選があるし…。余裕は結構あると思ってたんだけど、そうでもないのかな?まぁ、気をつけておくか…。でも、流石に昼すぎまでかかるだろ…。まだ21試合もあるし…。と、思っていたのだが…。
「まさか、昼までに27試合、全てが終わるとは…」
しかも、昼の間に再抽選は済まされるらしい…。これは、午後から試合に遅れないよう、気をつけないといけないな…。アリー達と昼を食べ終えて、抽選開票時間になる前に控室に戻る。そう言えば、1つだけ無条件勝利枠があったな…。上手くあそこに入れないかなぁ…。まぁそう、うまくは行かないか…。
「では、第2回戦の抽選を発表します!!!」
空中に浮かび上がる画面に、次々と名前が出て行く…。俺は、10試合目か…。だいぶ、後ろになったな…。相手は、レキ・セルト…。聞いたことない名前だ、どんな相手かな?
「ベイの相手はレキか…。まぁ、実力者ではあるが、ベイの敵ではないだろうな…」
「えっ、そうなのか、サラサ?」
「ああ。学生にしては強いが、それでも学生としては、だ…。恐らく、一瞬でベイに倒されるだろう…」
「いや、…それはどうなんだろうか…」
結論から言うと、サラサの言う通りだった。2本の短刀で、俺に詰め寄って攻撃してくるレキに対し、俺は斬撃を振っていく。すると、すぐにレキの短刀が宙を舞い、あっさり勝負がついた…。何だかなぁ…。
「まぁ、ベイは並を大きく外れているからな…。普通の生徒が当たれば、こんなもんだ…」
「サラサも、一瞬で倒してたよな。すごい実力だ」
「ふふふ…、ありがとう。決勝でベイと当たるまで、無様な戦いはできないからな。そう言って貰えると嬉しい…」
しかし、これで残った選手は14名。残りは明日か…。過酷な連戦になりそうだな…。
「いよいよ明日か…。明日、確実にベイとぶつかる…。ふふっ…、武者震いがするな…」
「ああ、お手柔らかに…」
「それはこっちのセリフだ、ベイ。いや、私的には、手加減なしのほうが嬉しくはあるのだが…」
そう言うと、サラサは…。
「おっと、明日のために軽く運動をしなくてはな…。それではな、ベイ。また明日…」
と言って、いそいそと帰って行ってしまった。うーん、あれは明日、本気で暴れる表情だな…。間違いない…。俺も、負けてられないなぁ…。
「やけに張り切ってるわね、サラサ…」
「ああ、アリー。そうなんだよ、明日は油断できないな…」
「まぁでも、ベイなら楽勝でしょう。ヒイラとの戦いも、ある程度合わせてたみたいだし…」
「いや、でも彼女は強敵だったよ…」
「そうね…。普通の生徒では、確実にかなわないレベルでしょうね…、実際…」
あんなレベルの生徒と、じゃんじゃか当たってたら、こちらの規格外すぎる実力が、周りにバレかねない。そこを考えると、さっき無難なレキに当たったのは、幸運といえるのだろうか。まぁこれで周りの反応は、剣と魔法が使える凄い奴ぐらいの印象で、収まってくれるだろう。…だといいな…。
「そうだ、後であの子の様子を見に行かない?魔力切れはきついだろうし、ちょっとした見舞いということで」
「うん、そうだね、行ってみようか…」
「…?どうしたのベイ。そんな目で、私を見つめて…」
「いや、何だろう…。アリーは、結構、ヒイラさんに優しいのかなと思ってね…」
「ああ…。そうね…。知らない仲でもないし、たまに話しぐらいするし、友達みたいな感じかしらね…」
「アリーの友達かぁ…。なるほどねぇ…」
あれほどの魔法戦闘を行えるくらいだ、その知識も相当なものだろう。とすると、アリーと話が合うのも頷ける。なら、俺も彼女と仲良くすべきだよな。妻の友達なら、努力はすべきだろう。まぁ、さっき戦闘を行った間柄ではあるけども…。
「あっちはどう思ってるか、知らないけどね。最近は家で研究しっぱなしで、あまり喋れてないし…」
「…大丈夫。アリーのその考え、伝わってると思うよ…」
「そうかしらね…」
恐らく、大丈夫だろう。だって、アリーが誰かを友達と言うなんて、これが初めてだ…。きっと、相手にも、その思いは伝わっているに違いない。だから、俺に会った時、アリーの話を彼女はしたんだと思う。気にかけている友達だからこそ、一瞬で勝負がついてしまったことが、彼女をモヤモヤさせていたんだろう。
「大丈夫大丈夫!!だって、アリーだからね」
「…ふふっ、何よそれ。まぁ、私は天才だけど、人付き合いはそんな上手くないわよ?」
「上手いって、だって俺…」
俺は、ゆっくりとアリーを抱きしめる。
「こんなにも君に、夢中だから…」
「…ベイ…」
誰も見ていない廊下で、ゆっくりと俺達は抱き合う。いや、フィー達がいるが、ヒューヒューとか、いいなあ、とか軽く言われるぐらいで済んだ。
「うん!!何だか、元気出てきたわ!!流石ベイ!!私の夫ね!!」
「なら良かったよ。俺の可愛いお嫁さん」
「じゃあ、あの子のお見舞いに行きましょうか!!思いついたら即行動ってね…!!」
俺とアリーは、手を繋いで救護室に向かう。2人の並んで歩く足音だけが、俺達を包み込んでいた。
10時くらいに、次も投稿します